2020年6月30日火曜日

【若者研究・人材確保への対応】ブロガー兼ライター・トイアンナさんに聞く「デジタル世代の就活は?」

 担い手確保は多くの企業にとって重要な経営課題の一つ。これまで業界間、企業間で激しい人材獲得競争が繰り広げられてきた。建設関係各社も採用活動に知恵を絞っているが、苦戦も目立つ。

 次代を担う若者や女性にうまくアプローチするには、彼らが置かれた現状への理解が欠かせないだろう。就職活動時期を迎えた学生向けの著書などがあるブロガー兼ライターのトイアンナさんに就活戦線の動向を聞き、建設業界が取るべき今後の採用戦略を探った。

 □学生が求めるのはー企業の成長?ワークライフ・バランス?□


 バブル期並みの売り手市場がここ5年ほど続いた。就活市場が学生優位となったことで、若手と中堅以上の世代間に文化差が生まれている。最も大きな変化はハラスメントの定義がかなり広がったことだ。ベテラン社員が飲み会の場で、男性社員に恋人の有無を尋ねる光景は一昔前ならよく見られた。だが現代ではセクシュアルハラスメントと取られかねない。ハラスメントには訴訟のリスクもある。知らなかったでは済まされなくなっている。

 新入社員との接し方に苦労しているベテラン社員も多いのではないだろうか。男女の役割を設けないジェンダーレスの会話に慣れておらず、若手との相互理解が進んでいない印象を受ける。まずは慣れることから始めるべきだ。

 □こちらから歩み寄り、ギャップ乗り越える□ 


 例えば飲み会の席で若手に声を掛けてみる。「若い世代はどんな話題で盛り上がっているの?」などでいい。まずは分からないことを素直に聞いてみる。年上の方から年下に歩み寄り教わることも大切だ。その勇気があればジェンダーギャップを乗り越えた付き合い方ができるだろう。

 そうした歩み寄りは就活生から見た建設業界のイメージを知る上でも役に立つ。人事担当者などは異業種を志望する学生にこそ、建設業界の評判を聞いてみてほしい。自分の志望する業界だと遠慮して話しにくいものだが、違う業界を志す学生ならば忌憚(きたん)ない意見を言ってくれるだろう。

 □学生の記憶に残る個性ある採用活動を□


 現在の就活生は企業に対して「(企業と個人の)成長」と「ワーク・ライフ・バランス(WLB=仕事と家庭の調和)」という一見矛盾した二つのことを求めている。以前まで成長をうたってきた日本型大企業の多くが、働き方改革の影響でWLBを打ち出すようになった。就活生も二つの条件を満たすのが当然という意識を持っている。

 一方、採用活動には就活生の「記憶に残る」ことが大切という面もある。多くの企業は成長とWLBを両方訴える無個性な採用活動を行いがちだが、それとは逆に、どちらかに振り切った採用方針を立ててみてはどうか。他の会社に埋もれずに会社の個性を強く打ち出せるだろう。

 □建設業は「一生もの」、もっとアピールして□


 ある外資系企業は「退職後に活躍する人材になれる」ことを採用時のアピールポイントにしていた。実際は福利厚生も充実しており、そうした点もアピールできたはずだが、あえてポイントを絞ることでモチベーションの高い学生を集めた。

 建設業界には良くも悪くも、WLBより成長に重きを置いている企業が多いと感じる。そうした業界のイメージを逆手に取り、WLBを強調する手もある。業界内の他社との差別化につながり、これまで建設業を志望しなかった層を取り込めるかもしれない。そして意外と知られていないのは、技術者は「一生食べていける」ということ。建設業は一生ものの仕事だともっとアピールしていいはずだ。




 《トイアンナさんプロフィル》1987年生まれ。慶応大学卒業後、外資系企業でマーケティングに携わる。2015年にブロガー兼ライターとして独立。就活やキャリア、恋愛など幅広く情報を発信する。18年に出版した『就職活動が面白いほどうまくいく 確実内定』は発行部数2万部を突破した。

【回転窓】秘密も今は昔

自らの身分を隠し、秘密裏に敵や競争相手の機密情報を入手する。映画でおなじみのスパイもどうやら人材難にあえいでいるようだ▼時事通信によると、米中央情報局(CIA)が人材獲得の幅を広げるため、動画配信サイトで求人広告を公開したそうだ。映画さながらの映像が流れた後、「CIAでキャリアをスタートさせれば、国のために想像以上のことができる」と呼び掛ける▼スパイは正体を明かさず、隠密行動のはずなのに…。こうした考え方は世界的にヒットしたあの映画やこの映画に影響されすぎているのか。勧誘といった従来の方法だけに頼っていても優秀な人材は確保できないのだろう▼企業や行政機関にとって、組織の将来を担う人材をどう確保するかは最重要課題の一つ。旧来型の方法にこだわっていても良い成果が得られない。結果的にそうなってしまったのかもしれないが、採用面接にテレビ会議システムを使うことが急速に広まったのは好例ともいえる▼気になるCIAの求人広告。さすがに「何が起こっても当局は一切関知しない」という注意事項はないだろうが、給与や待遇は教えてもらえるのか。

【累計出荷台数5000万台突破!】TOTOのウォシュレット、発売40周年に

 TOTOの温水洗浄便座「ウォシュレット」が6月に発売40周年を迎えた。累計出荷台数が2019年に5000万台を突破。国内はもちろん海外でも温水洗浄便座が利用できる環境は広がりつつある。今後は海外での販売活動を強化し、2018年度に58万台だった海外販売を22年度に200万台まで拡大する(写真は1980年発売の初代ウォシュレット)。

 内閣府の調査によると、ウォシュレットを含む国内の温水洗浄便座の一般世帯普及率は3月時点で80・2%に達している。公共施設やオフィスでも一般的になりつつある。

 TOTOは海外での普及を目指し、五つ星ホテルなど高級物件をターゲットに提案を強化している。英国ではロンドン警視庁の初代本部庁舎を改装した「グレート・スコットランド・ヤードホテル」の全室に導入。米国はハワイやサンフランシスコのラグジュアリーホテルに採用された。

 最近ではトイレの使用前に便器の内側に水を拭きかけ、汚れを付きにくくする機能や、使用前後にウォシュレットのノズルを自動で洗浄する機能を付加するなど、衛生面を向上させている。

 同社は今後の展開について「ウォシュレットをより進化させ、快適で清潔なトイレ文化を国内外に広める」としている。

【記者手帖】本来なら…

6月の札幌は気温が上昇して晴れの日も多くなり、とても過ごしやすい。よさこいソーラン祭りや北海道神宮例大祭などが催され、観光には最適のシーズンだ◆本来なら大通公園や札幌駅周辺は観光客でにぎわっている。だが今年は新型コロナウイルスの影響でイベントは軒並み中止。外国人旅行客の姿を見ることはほとんどない◆例年は雪解けが進む3月下旬から、天気の良い日は大通公園沿いにある会社まで、自宅から50分ほどかけて自転車通勤している。今年は当初予定していた東京五輪のマラソン・競歩のため雪解け直後から舗装工事が続いていた。残念ながら五輪は延期になったが、6月中旬には工事が完了しきれいな舗装道路になった。昨年11月に札幌開催が決まった時には、舗装工事ができないため準備不足が不安視された。けれども仮に予定通り開催されていても、工事はしっかり間に合っていただろう◆「本来なら、短期間で見事に工事を完了させた道内建設業の底力をきっちりアピールできていたのに…」。残念な気持ちは確かにある。打ち替えられた舗装の快適さを多くの札幌市民が感じているはずだ。(ほ)

【よみがえる聖地、トキワ荘再び】豊島区立トキワ荘マンガミュージアム、7月7日に開館

 手塚治虫さんや石ノ森章太郎さんら昭和を代表する漫画家が若手時代に住んでいたアパート「トキワ荘」を再現した東京・豊島区の「区立トキワ荘マンガミュージアム」が7月7日にオープンする。

 老朽化で取り壊されたトキワ荘の跡地近くに建設されたミュージアムは、内装や外観を忠実に復元。手塚さんらトキワ荘に住んでいた漫画家の作品が読めるほか、再現した部屋や炊事場などが見学できる。

 開館時間は午前10時~午後6時(入館無料)。月曜日は休館。新型コロナウイルスの感染防止のため当面は予約入館になる。


マンガラウンジでは数多くの作品が読める

完成したミュージアムの外観
ミュージアムの内部

【プチ芸能人と割り切って上手に伸ばそう】若者研究家・原田曜平氏に聞く「若者研究のススメ」

 ◇下から目線と未来志向がキーワード◇

 イマドキの若者の気持ちはよく分からない-。世代を超えて言い続けられているフレーズだ。社会の変化のスピードが増している中で、そうした思いをより強くしている人も多いだろう。ITツールの浸透などが、これまでとは異なる変化を若者に与えている要素もある。社会に出てきた若者世代とどう付き合っていくべきなのか。若者研究家でマーケティングアナリストの原田曜平氏にアドバイスしてもらった。

 □「Z世代」は新種の生き物□


 大卒者で社会人2年目くらいの22、23歳から下の世代は「ジェネレーションZ(Z世代)」や「脱ゆとり世代」と呼ばれている。Z世代は初めて手にした携帯電話がスマートフォンで、高校1年生のころにはツイッターやインスタグラムなど複数のSNS(インターネット交流サイト)を使いこなしていた。「SNS・スマホネーティブ」とも言えよう。

 携帯電話が広まる前は、職場や以前からの友人が交流の中心だったため、こうした人間関係を何とかうまくやっていこうと周りに合わせていた。私も含めて昭和型の人は「一緒に飲んで話をすれば分かる」というところがあった。だがZ世代は違う。「社会とはこういうものだ」と話をしても、スマホですぐに検索すれば、違う回答や選択肢が出てくる。スマホやSNSでガス抜きができてしまうため、むやみに愛社精神を持ったり徒弟社会を受け入れたりする必要がない。Z世代は新種の生き物と考えた方が良い。

 Z世代を考える上でのキーワードは「チル(まったり)&ミー(自分)」だ。成熟社会に生まれてきたため、もともとの生活ベースが豊かで衣食住は足りている。まったりしていても生活できた。少子化の環境でかわいがられて育ってきて、SNSで発信すれば「いいね!」とほめられるため、自意識や権利意識が非常に強いことも特徴だ。写真投稿に慣れていて美的感覚に優れているのは強みだが、言葉を選ばずに言えば「プチ芸能人気取り」の側面がある。

 労働人口が減少傾向にある中で、新型コロナウイルスの影響が出る前は有効求人倍率が非常に高く、「ダイヤモンドの卵」とまで言われていた。就職や転職への不安や恐怖感が減っていて、嫌なことがあればすぐに辞めてしまうような行動にもつながっていた。新型コロナの影響に伴う景気悪化で若者の意識が少し保守的になるかもしれないが、長期的に見て恵まれている状況に変わりはない。

 □受け止め方側の認識を大切に□


 上からではなく若者の目線でアドバイスすることが重要。「この人と一緒にいれば得をする」と思われれば、若者は付いてくる。「横から目線」もっと言えば「下から目線」で接するべきだ。今までとは違ったコミュニケーション能力が必要になるため、管理職のレベルを上げなければいけない。

 動機付けも非常に大切な要素となる。バブル崩壊以降の低成長時代を生きてきたため、「上昇志向を持ったところで報われないし、見返りも少ない」というような感覚を持っている。何らかのインセンティブを見せる必要がある。若者の自意識をくすぐりながら気持ち良くさせ、成長を後押しするようなしたたかさが必要だ。

 Z世代は昔の世代のように給料に対してガツガツはしていない。だがSNSがあるので、周りより低ければそれが可視化され不満につながる。処遇が少しずつ上がっていく感覚をしっかりと与えるべきだ。

 実際の可処分所得だけではなく、感覚的な面での満足度も大切となる。自己承認欲求が強いので、誕生日を祝ったり、順番に表彰したりするだけでも非常に喜ぶ。例えば女性社員に美容手当を支給しているあるIT企業は、大手一流企業に比べて処遇は見劣りする。だが若者からの人気は非常に高い。給料がそれほど高くなくても、別の面で満たされていれば「体感給与」(給与の受け止め方)は上がるのだ。

 十分な休日の確保やワーク・ライフ・バランス(仕事と家庭の調和)は必須条件だ。ただ単に休みを増やすのではなく、ボランティア休暇など若者の意向に沿った休みを増やした方が良いだろう。忘れてはいけないのは、Z世代にとって“プライベートを上回る仕事は存在しない”ということ。スマホでゲームをしたり動画サイトを見たりしていた方が絶対に楽しい。どれほど楽しい仕事であっても、プライベートを超えるほど好きにならないと諦めた方が良い。

 □権限移譲し任せてみよう□


 就活生に企業ホームページの感想を聞いたところ、いかにも昭和世代という経営者の熱いメッセージは大不評だった。会社への帰属意識が低下し、転職も当たり前になっているため、「数年間は気持ち良さそうだ」と何となく思わせることが重要になる。今の若者は著名なタレントよりも、近しい人に憧れる傾向がある。ほどほどに感じが良い若手社員が前面に出ていて、快適に過ごしている姿を見せる方が良いイメージを持ってもらえる。

 技術の話をしても、自分の文脈で物事を考えるZ世代にはあまり響かない。Z世代は自分が第一。困難に立ち向かって切り抜けていくような姿を示すことは、マイナスではないが順位としては2番目になっている。ただしっかりとした企業哲学を持っていることは、親世代に対してはポイントが高い。親子をセットに考えてアピールすることも大事だろう。

 若者研究を20年続けているが、この10年くらいはジェネレーションギャップを強く感じている。正直に言えば、若者の考えていることがよく分からない。だからこそ、私が主宰する若者研究所では、若者たち自身にアイデアや答えを考えてもらい形にしている。若者も時間がたてば社会の中枢で活躍する。若者研究とは未来研究であり、それは広い意味で企業が未来の社会に適合していくことにつながる。

 建設業界で働く若者にインタビューをすると、多くが「縦社会がきつい」「上から染めようとしている」といった不満を口にする。彼ら、彼女らが快適に思う会社や制度にしていくべきだ。若手だけのプロジェクトチームに権限を移譲する。若者にとって持続可能なモデルを考えてもらい、その方向に会社を修正していく。建設会社もそうした方法をとってみてはどうか。それは企業が長く続くための未来目線を作ることでもある。

 □今が変革のチャンス□


 若者はずっとスマホを手にしており、テレビ世代よりもはるかに多くの時間を広告と接している。そうした状況を踏まえつつ、広告・広報戦略を練って若者にPRしてほしい。厳しい言い方だが、若者にとって建設分野は無関心業界に近い。もっとプロモーションに力を入れるべきだ。

 新型コロナの影響が広がっているが、スマホネーティブの若者世代は遠隔でのやりとりにもともと慣れている。むしろ中高年の方が価値観は変わったはずだ。新型コロナによる変化をきっかけの一つにして、建設業界のイメージを変えていってほしい。今こそチャンスの時期だ。

 (はらだ・ようへい)マーケティングアナリスト、渡辺プロダクション所属。慶応大学商学部卒業後、博報堂に入社し博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーなどを歴任。「さとり世代」や「マイルドヤンキー」など流行語の名づけ親として知られる。若者と共に広告・プロモーション開発を行う原田曜平若者研究所も主宰する。TBS「ひるおび」などにレギュラー出演中。

2020年6月29日月曜日

【回転窓】足元の信頼関係

近所にある職人向けのプロショップが棚卸し作業を行っていた。休業で閉鎖された駐車場の前に止まった自動車が残念そうに引き返していった▼高価な電動工具からボルトまで在庫を数えてみると当然ながら人気のある商品や売れ筋がよく分かると、取材で知り合った店長が教えてくれた。ファン付き作業服とセットで速乾性のある長袖下着が売れている。人気ブランドのワーキングシューズは在庫が想像以上に少ない。なかなか興味を引かれる話だ▼ワーキングシューズはトップアスリートをサポートするスポーツメーカーも商品を出している。限定品や希少なカラーは特に人気で品薄のモデルが多くある▼赤と決めている班長に合わせて若手が同じ色を購入したり、同じモデルの色違いで足元をそろえるような班があったりする。横並びを好まないのも職人らしいが作業の効率や安全を左右しかねない現場ではチームワークも大切と、シューズ選びで学べた気がする▼人気モデルを仕入れるには代理店との信頼関係が何よりも大事とか。元請と下請、職長と職人と同じように、やはり現場は信頼関係あってこそだと思う。

【延べ14万㎡、施工は竹中工務店・西松建設JV】横浜市、新庁舎が全面オープン

 横浜市の新しい市庁舎が29日に全面オープンした。4月に移転作業を開始。商業施設なども含めすべての準備が整った。同日に林文子市長らが出席して開庁式を開く。

 所在地は中区本町6の50の10。みなとみらい線馬車道駅と直結し、JR桜木町駅からも徒歩3分の場所。規模はS・SRC・RC造地下2階地上32階塔屋2階建て延べ約14万m2。中間層免震構造と制震構造を採用した。

 槇文彦氏がデザイン監修を手掛けた。設計・監理は竹中工務店と槇総合計画事務所。NTTファシリティーズが監理を担当した。施工は竹中工務店・西松建設JV。CM(コンストラクションマネジメント)業務は山下PMC・山下設計JVが担った。

【凜】国土交通省北海道局・佃千加さん

◇楽しんで仕事する姿を見せたい◇

 高校時代に映画「もののけ姫」を見て、開発を望む者と森を守りたい者、どちらも間違っていないのに対立してしまう難しさを感じた。「環境と開発の両立を考えられる人になりたい」。強い思いを胸に秘め大学で土木系学科を学んだ。国土交通省に入省したのは2003年。振り返ると産休・育休を経た後の仕事は思い入れが強い。

 航空局では滑走路増設を含めた成田空港の機能強化を担当した。空港の将来像について空港会社と協議し、千葉県成田市など空港周辺の自治体と勉強会も開いた。プレッシャーは大きかったが、その分やりがいも実感できた。

 15年から2年間身を置いた復興庁は、府省庁や民間企業からさまざまな人が集まっていた。出身や文化が違っても「“復興”という同じ方向に突き進む」組織での仕事は充実していた。JR常磐線の復旧に向け関係部局や地元自治体、JR東日本との調整に奔走した。骨の折れる仕事だったが「復興のシンボル」と言われた全線開通の時期の見通しが立った時、何物にも代え難い手応えを感じた。

 19年4月から現職に就き「北海道総合開発計画」の推進のため港湾・空港分野で取り組む施策の取りまとめや予算確保を担当している。これからも仕事と家庭を両立し成長し続けるのが目標。「楽しんで仕事に打ち込む姿を後輩や子どもに見せていけたら」とほほ笑む。

(港政課企画専門官、つくだ・ちか)

【やっぱり!マイユニホーム!!】大成建設「スリムなスタイルに一新」

 約30年ぶりに作業服とヘルメットを全面リニューアルした。コンセプトは「夏は涼しく 冬は暖かく」。空調服も追加するなど仕事が快適にできるよう工夫を凝らした。デザインはこれまでのオーバーシルエットからスリムなスタイルに生まれ変わった。現場の社員からは「生地がさらりとしていて着心地がいい」と好評だ。

 リニューアルに当たっては、作業時の動きやすさや着用時の快適さを重視。最新素材を採用して通気性や伸縮性、吸汗性を高めた。フルハーネス型安全帯を着用しても使えるようポケットの位置を見直すなど、次世代の建設現場に対応して機能性も向上した。

 スラックスは収納ポケットが充実。物を入れてもかさばらないなど使い勝手の良さをとことん追求した。

 デザインはグレーを基調にしながら、コーポレートカラーのブルー、グリーン、オレンジをブルゾンやシャツにバランス良く配色。ウエスト部分は約9cm伸びる伸縮性の高い生地を採用した。15日までに新ユニホームへの切り替えを完了し、「しゃがんでもゴムが伸びてきつくない」と現場で活躍する社員の評判も上々だ。

【駆け出しのころ】戸田建設常務執行役員建築営業統轄部長・深代尚夫氏

 ◇自ら動き輪を広げる◇

 祖父の代から木造建築の請負業を営む家の長男として、地元の工業高校の建築科を卒業して親の跡を継ぎ、大工になるストーリーがなんとなく決まっていました。高校時代に見た映画「超高層のあけぼの」が心に残り、超高層ビルに携わってみたいという気持ちが膨らみ、大学に進学させてもらいました。

 就職活動の時期を迎えゼネコンで働きたいと思うようになっていましたが、世の中は第2次オイルショックのさなか。就職難の中、運と縁があって戸田建設への入社が決まり、入社前に届いた手紙で九州支店への配属を知ります。最初の1年はほぼ研修で技術者としての基礎を身に付けるため、積算や施工図の作成などに取り組みました。

 初めての現場勤務は竣工前の応援として3カ月ほど配属された大手メーカーの工場でした。朝から晩まで休む間もなく、若手ながら体力的にきつかったです。近くの農家での合宿のような暮らし。作業所長と同部屋でしたが、学者肌でアカデミックな雰囲気を持つ所長には、多くのことを理論的に教えていただきました。

 その後は2年間、長崎大学の施設整備で2現場に携わります。発注者側の監督官にも配筋検査などで厳しく指導してもらい、現場技術者としての基本を学びました。豚骨ラーメンや芋焼酎など赴任当初は苦手だった九州の食べ物も好きになり、4年目に名古屋支店へ異動する時は去りがたい思いがありました。

 38歳まで名古屋支店が管轄する各県の現場をあちこち巡ります。中でも名古屋パルコは延べ約2万坪、タワークレーンが5台ほど入る大現場で、忙しさの極みのような現場でした。

 世界デザイン博覧会の開催と重なり、労務調達の厳しさに加え、テナントのレイアウトが決まらず、工程が後ろ倒しになります。既に開業日は発表され、地元の人たちに心配されるほど。それでも厳しい作業所長の指揮の下、「負けてたまるか」という反骨精神で何とか間に合わせることができました。弱音を吐かず、「目の前のトラブルから逃げるな」と叱咤(しった)激励してくれた所長がいたからこそ、難局を乗り越えられたと思います。

 結局、超高層には携わらないまま営業部門に移ります。大所長を目指していたのですぐには受け入れられません。大学時代の恩師から「営業を天職だと思え」と諭され、会社も自分を営業で必要としているのだと腹を据えました。

 名古屋、関東、名古屋、広島と回った後、みたび名古屋に支店長として戻ります。現場時代の社内外での出会いが、営業でもいろいろな形で自分を助けてくれました。受注が難しい案件でも最初から諦めず、動いてチャレンジする。相手を思う利他の心も大切です。コロナ禍で対面は難しくなっていますが、自ら動いて多くの人たちとの輪を広げることが、どんな仕事でも基本だと思います。

入社5年目、福岡・博多祗園山笠での一枚
(ふかしろ・たかお)1979年明治大学工学部建築学科卒、戸田建設入社。執行役員名古屋支店長などを経て2019年から現職。群馬県出身、64歳。

2020年6月26日金曜日

【回転窓】eスポーツの可能性

国内市場が10年連続で増加し、過去最高の規模に-。好況に沸くのはゲーム業界だ。ゲーム総合情報メディア「ファミ通」のゲーム白書によると、2019年の国内ゲーム市場は約1・7兆円の規模、右肩上がりで伸びている▼同白書は娯楽に費やした時間の変化に関する調査も掲載。3月の娯楽時間で増加した項目のトップは「家庭用ゲーム機によるゲーム」だった。新型コロナウイルスの流行で外出自粛が求められ、ゲーム需要を押し上げたようだ▼コンピューターゲームというと遊びのイメージだが、「eスポーツ」となると様相が違ってくる。昨年の茨城国体では初めて都道府県対抗のeスポーツ大会が行われた。茨城県はこうした経験を基に、地域づくりなどを見据えたプロジェクトを開始した▼神戸市内では60歳以上に限定した会員制のeスポーツ施設が7月にオープンする。大阪市内には今夏、eスポーツに特化したホテルが開業する。ビジネスの領域は確実に広がっているようだ▼高性能なパソコンなど設備は必要だが、身体能力や場所の制約を超えて楽しめるのは大きな魅力。未来に広がる新産業として注目したい。

【マウスシールドや冷感マスクで熱中症防止】建設各社、夏の新型コロナ対策急ぐ

建設各社が夏に向けた新型コロナウイルスの感染拡大防止策を急いでいる。

 建設現場では新型コロナ対策として作業員はマスクを着用して作業に当たるが、今後気温が上昇するにつれてマスクを着用したままでの作業は熱中症の発症リスクを高める。

 そこで建設各社は口元を直接覆わないマウスシールドなどをマスクの代替として導入。熱中症対策と新型コロナ対策の両立を図る考えだ。

続きはHP

【新型コロナの影響大】上場企業の6割、21年3月期の業績「未定」

東京商工リサーチの調査によると、上場企業の多くが新型コロナウイルスの影響で決算発表時期を遅らせたり、業績予想を未定にしたりしていることが分かった。

 24日時点で上場企業の約6割に当たる1420社が2021年3月期の業績予想を「未定」とし開示を見送っている。同社は「新型コロナで先行きが不透明になっているため」と見ている。

 上場企業の約2割に当たる898社は業績を下方修正した。うち248社は赤字だった。コロナ禍で決算作業や監査業務が遅延しているなどして、20年3月期決算が公表できていない企業は30社だった。

 業績予想を開示した956社のうち、最も多かったのは「減収減益」で404社と約4割を占めた。収益環境の悪化を予想している企業が多い。新型コロナによる業績ダウンを受けて役員報酬の減額や自主返納を表明した企業は111社だった。

2020年6月25日木曜日

【回転窓】移動制限の今昔

河川は地域を分ける境界の役割を持っている。昔の人たちは橋や渡し船がなければ、川を挟んだ対岸を行き来するのにも苦労していた。水かさが増す出水期は危険が増し、特に移動が制限される▼防衛などの観点から敵が容易に川を越えて侵入しないよう、橋をわざと架けないことも。江戸幕府が諸大名の謀反を警戒して設けた街道沿いの関所と合わせ、橋のない川には、人や物の流れを戦略的に阻害させる役割を持たせていた▼現代でも千葉県と隣接する都県のように境に川が流れている自治体は多い。昔と違う点は交通インフラ網が発達したこと。川の上を道路や鉄道などが走り、移動に不自由さを感じることは少ないだろう▼新型コロナウイルス対策で国民に協力を求めていた「都道府県をまたいだ移動の自粛」。強制力はないものの、多くの人が移動を控えた。今月19日に解除され、出張や旅行で遠出する人は増えつつあるという▼自治体からの休業要請の解除を受け、感染対策の徹底を図りながら、営業を再開する施設も増えてきた。移動できる自由を満喫したいだろうが、ウイルスを体内に侵入させぬよう警戒は怠らずに。

【思川開発でロックフィルダム】南摩ダム建設(栃木県鹿沼市)、近く本体工事発注

 ◇堤体型式はCFRD◇

 水資源機構は、栃木県西部で進めている思川開発事業で、鹿沼市に計画する南摩ダム本体の建設工事の入札契約手続きを近く開始する。堤体型式はコンクリート表面遮水壁型ロックフィルダム(CFRD)。総貯水容量5100万立方メートル、高さ86・5メートル、ダム体積約240万立方メートル。発注準備が整い、2020年度第1四半期(4~6月)の公告予定に追加した。発注規模は50億円以上を見込む。総合評価方式の一般競争入札を予定している。

 公告を予定するのは「南摩ダム本体建設工事」。工事種別は土木一式、工事場所は上南摩町。工事概要はCFRD一式。工期は約52カ月。政府調達協定の対象となる。

 思川開発事業は、栃木県の中央を南東に流れる思川の支川の南摩川にダムを整備するとともに、支川の黒川、大芦川とダムを導水路でつなぐ。洪水調節と効率的な水資源利用を促すのが狙い。付け替え道路や導水路、送水路などの工事が進行している。

4月時点の建設予定地
ダム本体の関連では、上流仮締め切りの遮水壁工事が19年12月に完了。現在は「南摩ダムダムサイト敷地造成工事」として、堤体の建設予定地の両岸を天端まで掘削したり、本体工事を進めるためのヤードを整備したりする工事を大成建設が行っている。ダムと黒川、大芦川を結ぶ水路トンネルを築造する「思川開発導水路工事」は鹿島、ダム(揚水機場)と注水工を結ぶ「思川開発送水路工事」は奥村組が担当している。

【お客さま、居心地はどうですか?】三菱地所レジデンスが猫専用タワマン!?

 三菱地所レジデンスが猫専用のタワーマンションを用意-。人間だけでなく猫にも豊かな暮らしを提供したいという思いを胸に、同社の猫好きの社員らが情熱を注いだ。19日に製作の過程などを記録した動画を公開。完成したタワマンを内覧した猫は満足そうにくつろいでいた。

 猫タワマンは4階建て。本物のマンションさながらに、居心地が良いリビングのような空間「リラックススペース」やバルコニーをイメージし植栽を施した「キャットグラスガーデン」などを設けた。爪を研げる麻製の「スクラッチウォール」、プライバシーを確保でき消臭機能も付いた「ひろびろトイレ」といった猫ならではの機能も完備した。

 製作に携わった社員からは「デベロッパーの仕事を少しでも知ってもらいたい」「ものづくりへのこだわりを感じてもらいたい」といった声が聞かれた。動画は動画投稿サイト・ユーチューブの同社公式チャンネルで視聴できる。動画の続編や猫タワマンの販売は未定という。

2020年6月24日水曜日

【回転窓】元気を届け続ける

新型コロナウイルスの流行もあり、3月以降は何かとばたつくことが多かった。仕事で言えば本来であれば忙しいはずの年度末、新しい期がスタートする年度初めもいつの間にか過ぎ去っていった▼今週は3月期決算企業の株主総会が26日にピークを迎える。新型コロナの感染を警戒し、来場自粛を呼び掛ける企業は多い。ネット配信を取り入れるところもかなりの数と聞く▼コロナ禍の株主総会で少し前、話題になったのはトヨタの豊田章男社長だ。業績見通しに対する株主からの厳しい質問に、豊田社長は「地道な努力を続けてきた世界37万人の従業員ら全員で作り上げた見通し」と答え目を潤ませた▼日常を取り戻しつつあるとはいえ、コロナ禍は社会・経済活動に大きなダメージを与えた。世界的に見れば感染拡大に歯止めは掛かっておらず、収束後の姿を描けないところも多い。国内でも観光や飲食、小売りなどこれまで順調に推移し成長が期待されていた産業は苦境に立たされている▼建設産業も決して無関係ではないだろう。ただ苦しく厳しい場面に直面しても歩みは止められない。紙面を通じて元気を届け続けたい。

【鉄工所がスポーツ施設に!?】ヤマネHD(山口県長門市)、鉄工所をスポーツ施設にコンバージョン

 超高層ビル向けの建築鉄骨を製作するヤマネホールディングス(山口県長門市、山根正寛社長)は、長門市にある自社の鉄工所をスポーツ施設にコンバージョンする。

 コンバージョン後のスポーツ複合施設「SWEET AS」には飲食店、バスケットボールを中心とした多目的スポーツコート、イベントスペースなどを設ける予定。8月の竣工を目指している。

 リノベーション・プラットフォーム事業を全国で展開するリノベーション事業者・リノべる(東京都渋谷区、山下智弘代表取締役)と、M.DESIGN ASSOCIATES一級建築士事務所(山口県長門市、山本道善代表)がリノベーションの設計を担当した。完成後は女子7人制ラグビーの地元チーム「ながとブルーエンジェルス」が運営する。

 所在地は仙崎313の1。建物はS造平屋3085m2の規模。1975年にヤマネホールディングスの鉄工所として建築され、ここ数年は倉庫として使っていた。

【復興の架け橋、接続完了】気仙沼湾横断橋、年内完成へ工事進む

気仙沼湾横断橋(仮称)は完成すれば東北最長の斜張橋になる
2014年に着工した「気仙沼湾横断橋(仮称)」の橋桁がつながり、21日に宮城県気仙沼市で接続を祝う式典が開かれた。

 全長1344メートル、海上部が680メートルある橋は年度内の完成を目指す三陸沿岸道路(三陸道)の一部で、東北最長の斜張橋。東日本大震災で甚大な被害を受けた気仙沼市を含め、地元にとって「復興の架け橋」ともいえる存在だ。

総事業費は約450億円。海上部の上部工はJFEエンジニアリング・IHIインフラシステム・日本ファブテックJV(松崎北沢側)と、エム・エムブリッジ・宮地エンジニアリング・川田工業JV(小々汐側)が担当。舗装や標識設置などを経て12月に工事が完了する予定だ。

2020年6月22日月曜日

【暮らしのそばに、じつはドボク。】清水建設の土木写真紹介サイトがBtoB広告賞で金賞

 「暮らしのそばに、じつはドボク。」をテーマにした清水建設の特設ウェブサイトが、第41回「2020日本BtoB広告賞」(主催・日本BtoB広告協会)の「ウェブサイト(スペシャルサイト)の部」で金賞を受賞した。特設サイトでは、女性カメラサークルが撮影したダムの写真や、ダムを撮影したメンバーの感想などを紹介。コンテンツの構成やビジュアルの迫力などが高く評価された。

 金賞を受賞したのは「ダムパシャ 再び(八ツ場ダム篇 その2)」。同社が施工していた八ツ場ダム(群馬県吾妻郡)を、日本最大の女性写真サークル「カメラガールズ」によるダムの写真を中心に紹介した。写真以外にも八ツ場ダム工事の特徴、ダムの近くのおすすめスポット、土木やダムに対するカメラガールズの感想などさまざまな視点から、八ツ場ダムの魅力を伝えた。

 受賞に当たっては「事業のみならず、企業としての仕事の意義をユーザー目線に立った構成でしっかりと伝えている」などと評価を受けた。日本BtoB広告賞はBtoB広告の普及や振興を目的としたコンテスト。企業コミュニケーション活動や制作に関わる総合技術の優れた作品に贈られる。

【2025年3月完成めざす】新陸上競技場整備(宮崎県都城市)、主競技場は4階建て延べ2万㎡規模

 宮崎県は、2026年に開催予定の国民スポーツ大会に向け、都城市と共同で整備する新たな陸上競技場などの基本設計概要を公表した。

 主競技場はメインスタンドを大屋根で覆い、RC造(屋根部分S造)4階建て延べ2万0620平方メートル。補助競技場や多目的広場なども整備する。施設全体の概算工事費は約214億円。設計は佐藤総合計画・益田設計事務所JVが担当。

 整備場所は同市山之口町の山之口運動公園(敷地面積約24ヘクタール)。県道422号線の東側に当たる現在の山之口運動公園がある場所をスポーツエリアとし、中央に広場を設け、これを中心に北側に主競技場や投てき練習場、南側に補助競技場や多目的広場などを配置する。県道西側の現在の市営住宅がある場所は駐車場エリアとし、1200台程度の駐車場や広場を設ける。

 主競技場は県内最大規模の陸上競技場となり、サッカーなどのプロスポーツ大会にも対応できる施設とする。第1種公認陸上競技場で走路は400メートル×9レーン。観客席は芝生席を含め1万5000席程度設け、このうちメインスタンドは7000人程度の固定席とし、包み込むような大屋根で覆う。

 補助競技場(第3種公認陸上競技場)はS造2階建て延べ1900平方メートル、スタンド1000席程度。投てき練習場は1万4000平方メートル程度、サッカーや野球などに使用できる多目的広場は1万6000平方メートル程度。休憩所棟や倉庫なども整備する。

 概算工事費のうち県発注工事となる主競技場と投てき練習場は約154億円、これら以外の市発注工事は約60億円を見込む。7月に造成工事に着手。21年3月に実施設計を完了し、同12月に主競技場に着工する。その後、補助競技場などに順次着工し、25年3月の完成を目指す。

【凜】大成建設技術センター・鈴木三馨さん

◇不可能を可能にするやりがい◇

 研究職をメインに経験を積み、今は建設用3Dプリンターを活用した技術開発を担当する。人が乗っても大丈夫なPC橋を3Dプリンターで試作。これまでは難しかった軽量で高強度な構造体が出来上がり、「不可能を可能にする仕事にやりがいを感じた」。

 大学と大学院で土木工学を専攻。ゼネコンへの就職を考えたのは、在学中の現場見学で「ダイナミックに土木構造物を造り上げる様子が魅力的だった」のがきっかけだった。インターンシップ(就業体験)で現在の職場を訪れ、社員が自由に質問し合って研究する姿に共感した。

 社会人になって16年目、後輩を指導する機会も増えた。技術者、研究者として経験を積み、キャリアアップを図るには「目的を明確に伝え、方法を自分で考えてもらう」ことが大切だと考えている。研究開発は関係者の協力と連携が不可欠。コミュニケーションがとりやすい環境づくりに腐心する。自分が心を引かれた職場の雰囲気をこれからも残したい。胸に秘めた正直な思いだ。

 座右の銘は「温故知新」。土木学会の委員を務めた時、「土木偉人かるた」の製作を担当した。先人の功績を調べる中で自らが携わる仕事の重要性を再認識した。「この分野は鈴木に聞けば間違いない」と言われる研究者になるのが今の目標だ。

 (社会基盤技術研究部材工研究室PT、すずき・みか)

【中堅世代】それぞれの建設業・258

公共工事の必要性をしっかりと説明する。公務員の大切な仕事だ
◇次代への技術継承に危機感◇

 「携わった工事が完成した時の喜びこそ土木屋としての醍醐味(だいごみ)。若い技術者にも味わってほしい」。地方公務員としてインフラ整備に携わる小菅貴光さん(仮名)は、自らの経験を後輩たちに伝えていく大切さを感じる場面が多くなったと話す。次代を担う人材の確保や育成は官民を問わず重要な課題。行政機関だから将来も安泰という考え方は通用しなくなっている。

 特別なきっかけがあって土木の道に進んだわけではないが学生時代、ものづくりに関わる仕事に就きたいと考えていた。大学で土木を専攻し、交通工学の基礎研究を行っていた。1995年に発生した阪神淡路大震災。高速道路が横倒しになった映像に大きな衝撃を受けた。土木技術者として働くならば災害に強い街を造りたいと思うようになり、次第に「街のグランドデザインが描きたい」という思いが強くなった。地方公務員になることを決めた。

 働き始めてからは出先事務所と本庁の勤務を数年ごとに繰り返した。最初に配属された出先事務所で橋梁工事の現場を担当した。川の中に橋脚を構築する必要があったが、現場の周辺は水害で大きな被害が出たばかり。行政に不信感を持つ住民も多く、説明をしたくても「地元からは総スカン」の状態だった。3カ月連続で地元説明会を開き、合間に個別説明をするなど丁寧なコミュニケーションを心掛けた。

 橋は無事完成し街は大きく変わった。何もなかったところに道路ができ商業施設も進出して便利になった。道路に対する住民の考え方も変わったような気がしている。「街が変わる姿を見て覚える感動は大きい」。土木の魅力を実感した。

 これまでの歩みを振り返った時、大きな転機になったのは東京での勤務だった。門外漢ともいえる建設以外の政策分野でも国会議員や中央省庁とさまざまなやりとりをした。自然と人脈が広がり、仕事を大局的に見られるようになった。

 インフラ整備では計画を立案して予算を確保し、設計、工事、維持管理とステップを踏んでいく。多くの関係者や市民、企業の声に耳を傾けプロジェクトを最適化していくにはコーディネート力が必要になる。大切な税金を使って行う公共工事。公共利益を確保するのはもちろん、説明責任を果たし必要性をPRすることも大切だ。

 インフラ整備に対する風当たりは以前に比べ落ち着いたと感じる。ただ国や地方の財政状況は厳しく、人材不足も解決の糸口を見いだせていない。特に技術系職員の不足は深刻な状況と感じている。

 先輩から受け継いできた経験やノウハウをどう継承していくのか、心配は尽きない。「行政も本気になって人工知能(AI)など最新技術を活用していく必要がある」。胸の内に現れる危機感を払拭(ふっしょく)するため、これからも仕事と真剣に向き合おうと思っている。

【やっぱり!マイユニホーム!!】住友電設「360度ストレスなし!!」

 創立70周年に合わせて30年ぶりに刷新したユニホームの着用開始は2019年1月。コーポレートカラーの藤紫色を採用し、デザインには社員の声も反映した。ストレッチ性や通気性に優れた素材を採用。動きやすさや暑熱対策などに配慮している。

 着心地の良さを追求した一着。袖部は「新立体裁断構造」を取り入れ、360度ストレスのないカットで快適な腕の動きをサポート。腕を上げた時、背中や肩、脇に違和感がないようにしている。パンツは、腰部の圧迫や突っ張りを解消する「イージーフレックス仕様」で作業負担を軽減。要望が多かった収納ポケットの数を増やし、上着とズボンに反射板を取り付けて夜間作業での視認性を高めて安全確保につなげている。

 「ポケットの数が多く、使い勝手が良くなった」「他社にない色彩で目立つため住友電設としての自覚が高まった」と社員の評判も上々だ。

 作業服のリニューアルに併せて防寒服やヘルメットも一新。ベストやポロシャツ、収納リュック、フルハーネス対応の空調服も展開している。女性専用サイズも用意している。

【駆け出しのころ】松井建設執行役員名古屋支店長・佐野祥治氏


 ◇失敗から学び成長を◇

 地元で工務店を営んでいた父親の姿を見て育ち、将来は設計士になりたいと思っていました。不景気で家業も厳しく、大学は夜学で通い、昼間は製作金物の図面を描く仕事をしながら建築を学びました。

 就職活動もオイルショックによる景気低迷が長引き、志望していた設計事務所の採用は厳しい状況でした。昼間勤めていた会社から取引先の建設会社を紹介してもらい、縁あって松井建設に入社します。

 新人時代の研修は現場が基本。杭打ちの測量作業でトランシットをのぞく日々が続きました。入社3年目に配属された研究施設の実験棟建築工事では鉄筋担当を任されます。鉄筋の定着のことなど全く知らず、専門書を購入して勉強しながらの施工管理は大変苦労しました。

 正直なところ、新人のころは毎朝、現場に行くのが憂うつでした。ネクタイを締めて図面を抱えながら現場で指示を出す-。学生時代に勝手に想像していたゼネコンの技術者のイメージと、作業員らと一緒に汗を流しながら働く、実際の職務にギャップを感じていました。

 入社1年目に結婚し、共働きの妻からは「仕事が嫌ならやめればいい」と言われましたが、なかなか踏ん切りは付きませんでした。モヤモヤした日々が続きますが、子どもができたことを機に、腰を据えて今の仕事を頑張ろうと前向きになれました。

 今は働き方改革が進められていますが、当時の現場勤務はなかなか休みが取れず、子どもにも寂しい思いをさせました。苦労も多かったですが、足場をばらして完成した建物の姿を目にすると、感慨深いものがあります。最後に得られる満足感、充実感が仕事を続けるモチベーションになっていました。

 高名なアトリエ建築家が設計したホールや、初の現場所長で鉄骨の調達に苦労したバブル期の案件など、東京圏を中心に多種多様な現場を回り、それぞれに思い出があります。厳しい条件のマンション工事では大きな赤字を出し、悔しい思いもしました。

 その後、内勤の積算部門に移り、現場勤務とは違うやりがいを感じました。最初にもらった図面を基に積算した結果、受注できるかどうかが決まる。過去の現場経験も生きてきます。

 周りの人たちの応援があったから、今の自分があります。現場でも内勤でもコミュニケーションが大切。意思の疎通によって周囲との信頼関係が深まり、問題が起きても早期に手が打てます。

 私もいろいろ失敗しました。人は必ず失敗するものです。若い人たちには失敗をただ後悔するのではなく、そこから学び、成長につなげてほしい。誰もが話しやすい環境づくりを進め、コロナ禍でもコミュニケーションを密に取れるよう心掛けていきます。
入社1年目。東京・白金台の八芳園で結婚式を挙げた
(さの・よしはる)1981年日本大学理工学部建築学科卒、松井建設入社。名古屋支店副支店長などを経て2017年から現職。東京都出身、62歳。

2020年6月17日水曜日

【回転窓】現場のデジタルシフト

朝、子供たちがにぎやかに通学している姿を見かけるようになった。企業も感染症対策をしながら活動を本格化している。徐々にではあるが日常が戻りつつある▼ただ元に戻らないものもある。その一つがデジタルシフト。在宅勤務でリモートワークが進み、「Zoom」や「Teams」などでのオンライン会議を初体験したという人も多かろう▼電話での打ち合わせとは違い、パソコンで相手の顔を見ながら話し合う。直接会って会話をしなければ意思疎通はできないと決め込んでいたが、実際にやってみると意外に違和感がない。手軽で便利なのも魅力の一つだ▼建設現場はi-Constructionなど施工面でのICT(情報化技術)化が進んでいた。いまや朝礼や工程会議といった現場の打ち合わせにもデジタル化の波が押し寄せる。専用アプリやチャットで協力会社の職人も含め多くの人が情報を共有し、会話をするようになっている▼きつい、汚い、危険の「3K」職場の代表と言われた建設現場。デジタルシフトでそのイメージが変わるかもしれない。建設業界も「ニューノーマル」の波に乗り遅れてはいけない。

【会社のこと、伝わってますか?】就職みらい研の20年版就職白書、「企業の情報提供、学生ニーズと隔たり」

 リクルートキャリアの研究機関・就職みらい研究所(増本全所長)がまとめた「就職白書2020」によると、就職活動中の学生が求める情報と企業が発信する情報の間に大きな隔たりがあることが分かった。

 企業が情報提供したと認識している一方で、就活生は十分な情報を得たと受け止めていない。入社後に「こんなはずではなかった…」とギャップを感じ、離職につながる一因にもなりかねず注意が必要だ。

 同研究所は、企業が開示する情報と学生のニーズとの合致度を検証した。回答数は1256社。調査期間は19年12月~20年1月。学生は1904人。調査期間は19年11~12月。

 企業が情報提供したとする割合と、学生が認知した割合を項目ごとに比較すると、学生の認知度の方が圧倒的に低い。最も差が大きかったのは「社内研修・自己啓発支援の有無とその内容」(56・5ポイント差)。次いで「求めている具体的な能力・人物像」(52・6ポイント差)、「製品やサービス」(50・0ポイント差)、「具体的な仕事内容」(46・3ポイント差)、「初任給」(44・9ポイント差)の順だった。いずれも就職先を選ぶ上で欠かせない基本的な事項。それが十分に伝わっていない可能性がある。

 社会・経済環境が目まぐるしく変わる中で、年功序列や終身雇用といった旧来型のモデルではなく、ジョブ型雇用が注目されている。その結果、どの会社に行ってもある程度通用するような汎用(はんよう)的な能力が身に付く組織を、学生側が重視する傾向があるという。就職先を選ぶ上で、具体的な仕事内容や身に付くスキルなどの情報が欠かせないが、十分とは言い難い実態がありそうだ。

 先進事例も出てきている。セイコーウオッチは会社説明会とは別に、同社の選考姿勢を解説するセミナーを16年から実施している。応募総数や実際の倍率、大学別の応募人数などを開示するほか、エントリーシートの設問と意図、適性検査の通過ライン、さらには面接の合否判断基準まで徹底的に説明。セミナーを始めてから内定者のレベルが高まり、企業文化により適合した人材が集まるようになったという。

 同研究所の増本所長は「良いところを見てもらおうという着想と全く異なる。企業側が弱みを含めて情報開示することが、学生との相互理解をより深め、入社後のギャップも縮める」と指摘する。

【より安全に、より快適に】JR飯田橋駅(東京都千代田区)、新西口駅舎・ホームが7月12日供用開始

 JR東日本は16日、ホームの安全対策を進めている飯田橋駅(東京都千代田区)の新西口駅舎、新ホーム、歩行者空間(改札外・駅前)の供用を7月12日に始めると発表した。

 ホームを新宿方面に200メートル移設し、ホームと列車のすき間を狭くする工事などを実施中。新ホームは1面2線(曲線半径900メートル)、新西口駅舎はS造2階建て延べ約2200平方メートル。多機能トイレ、15人乗りエレベーター1基を備え、5店舗が入る。

 仮の西口駅舎は7月11日午後11時で営業を終える。駅構内には江戸城外堀の史跡を紹介する設備を置く。

【現地企業とJV結成】梓設計、仏ラグビースタジアム拡張・改修で設計に着手

スタッドアルマンディーの完成イメージ
梓設計(東京都大田区、杉谷文彦社長)が、フランス・アジャンにあるラグビー用スタジアム「スタッドアルマンディー」の改修・拡張プロジェクトで、本年度から設計業務に着手する。現地建築設計事務所とのJVで、既存スタンドの建て替えと改修で設計を担う。分散していたクラブチームの事務所なども集約し、観戦環境の充実と利便性の向上を図る。設計業務は2021年2月の完了を目指している。22年8月の開業を予定する。

 スタッドアルマンディーは同国を拠点に活動するプロラグビーチーム「SUアジャン」の本拠地。スタジアムの南北に屋根付きのスタンド、西側に屋根のないスタンドがある。

 改修・拡張プロジェクトの設計は、梓設計・フランソワ・ドゥ・ラ・セール建築エージェンシーJVが担う。1972年に建設した北側スタンド(客席数4200席)を建て替える。同時に07年完成の西側スタンド(2096席)に屋根を架ける。完成後の総座席数は約1万席を想定。周辺に点在するクラブチームの事務所や選手用施設(ロッカー、シャワールームなど)が入る新施設も整備する。

 梓設計が海外のスポーツ施設で設計を手掛けるのは初。今回の改修・拡張プロジェクトを機に、同社は「スポーツ・エンターテインメント施設で多くの実績を残したい」としている。

2020年6月16日火曜日

【回転窓】いやな時期になりますね

九州から東北まで列島全体が14日ころまでに梅雨入りした。盛夏に必要な水を蓄える大切な時期なのだが、曇りや雨の日が多くなるとどうしても気分がめいってしまう▼夏が近づくにつれて多くなってくるのが「蚊」。寝ようと思って部屋を暗くして目を閉じると、どこからともなくプーンという羽音が聞こえ、姿なき蚊と真夜中に格闘した経験がある方も多かろう▼暗闇でも自由に飛べる蚊。これまで未解明だった謎を千葉大学などの国際研究チームが解き明かしたそうだ。時事通信が先月配信した記事によると、蚊は自らの羽ばたきで起こした気流の乱れを触角の根元にあるセンサーで感知し、自分の位置を確認しているという▼羽ばたきで起こった気流が壁などにぶつかって起こるわずかな空気の乱れ。人には感じられない微小なひずみが感知できる蚊のセンサーはよほど高性能なのだろう。研究チームがドローン(小型無人機)に似たようなセンサーを取り付け実験したところ、蚊と同じように壁や床が検知できると実証した▼超高感度センサーを搭載した小さな虫。すごいと感心はするが、安眠妨害は控えてほしいと思う。

【契約金額は計1202億円】五輪会場の仮設オーバーレイ、存置か一時撤去で交渉進む

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は、東京五輪・パラリンピックで利用する競技会場の仮設オーバーレイ(観客席やプレハブ、テント、照明・空調設備など)の整備状況を明らかにした。

 大会開催の1年延期に伴い、既に施工したものを存置するか一時撤去するかを各会場で交渉中。工事の一時中断後、来年の大会本番に合わせ整備を完了させるという。

 12日に開かれた理事会後の記者会見で武藤敏郎事務総長が説明した。各会場では今年に入ってから仮設オーバーレイ工事が本格化していた。武藤事務総長は「仮設物の中には存置できるものもあるが、そのままにすると不都合や危険が生じるものは(一時的に)撤去しなければならない。1年延期により今夏に完成する必要は無くなったが、ある程度のところまで仮設工事を進め、存置をお願いし、本番に間に合うよう施工してもらう」と話した。

 理事会で報告された仮設オーバーレイ工事の契約状況によると、マラソン会場の札幌大通公園を除く43会場で施工者との契約を締結済み。契約金額の合計は約1202億円(同)に達する。直近では富士スピードウェイを約11億円(税込み)で博報堂、GL events Japan、オサコー建設の3者、国技館の館外を約12・4億円(同)で電通ライブ、館内を約11・9億円(同)で大林組と契約した。

 組織委は競技会場などの来年の利用について、月内に全会場で所有者の了解を得たい考えだ。現時点では国立競技場や各都有施設、さいたまスーパーアリーナ、馬事公苑など約8割の会場で交渉がまとまり、契約変更などの手続きに入る。

 一方、東京ビッグサイトや幕張メッセ、選手村などは引き続き交渉中。特に展示施設は来年の利用予約が埋まっている状態で、利用者も含めた調整が必要になっている。組織委は同一会場での延期開催の実現を目指しており、武藤事務総長は「来年も借りることを前提に諸条件を調整していきたい」と話した。

【地域振興に貢献、何枚持ってる?】ダムカードがスタートから13年目、734カ所で配布

 ダムブームの火付け役とされる「ダムカード」。ダムの形式や貯水池の容量といった基本情報から建設時のこだわりの技術といったマニアックな話まで、ダムに関するさまざまな情報が凝縮されている。

 訪れた人にだけ配布される“限定感”もあり、多くの集客につながっている。ダムカードを切り口としたツアーを旅行会社が企画するなど、インフラツーリズムにも広がりを見せている。

 ダムカードの取り組みは2007年度にスタートした。導入のきっかけは、ダムマニアの集まりに国土交通省の職員が参加したことだった。「ダムに行ったらもらえる特別なものがあったらいい」。そんなマニアの意見から着想を得てダムカードを発案した。

 具体化に当たり、担当者は当時流行していたトレーディングカードの一つ、「ポケモンカード」を参考にした。カードを入れる市販のバインダーやホルダーが利用できるように、ダムカードのサイズや角の丸みをポケモンカードと同じ規格にしたという。

 ダムカードはパンフレットの役割だけでなく、クーポンとして機能し、周辺の温泉施設や飲食施設の割引きに使えるところがある。ダムカードの情報から「ダムロボット」という特殊なカードをスマホ上で入手できるといった企画も派生している。

 各地のダムでは事前予約による職員の案内や見学会を開催している。ダムを訪れる人は年齢も性別もさまざま。「放流のダイナミックさ」「スケールの大きさ」を楽しみに来ている人も多い。建設中のダムはその時しか見られない。工事の瞬間に立ち会えるという非日常が人々を魅了する。夜間のダムの現場を見てもらうナイトツアーもある。

 旅行会社のツアーの中には、「ダムカード完全制覇の旅」と銘打った企画が登場した。10万~20万円程度の価格で、数日間かけて土地土地のダムカードを集めて回る旅だ。

 国交省は今年、天皇陛下在位30年を記念した特殊デザインのダムカードを発行した。配布対象は国交省と水資源機構が管理または建設している全国の169のダム。4種類のデザインを用意し、ダムごとに1種類を配布した。記念バージョンのダムカードの配布は初めてで、配布期間の約3カ月間で年間印刷枚数の6割に相当するカードが配られる好評ぶりだったという。

 国交省や水資源機構が管理するダムに続き、都道府県の補助ダムや発電事業者のダムでも配布されるようになり、配布中のダムは当初の111カ所から今年3月末時点で734カ所に増えた。国内にあるダムの半分でもらえる計算だ。

 国交省水管理・国土保全局河川環境課流水管理室の佐瀬勝亮流水企画係長は「はじめはダムカードというインセンティブでダムに来てもらっていた」としつつ、「ダム自体が水源地域の活性化に役立つ存在になってきた」とも話す。首都圏からアクセスしやすい宮ケ瀬ダム(神奈川県愛川町など)が一番の人気で、カードの発行数は70万枚に上る。ダムマニアの中には「全部集めたとアピールしに来た強者もいる」(佐瀬係長)という。

 東日本建設業保証が運営する建設産業図書館(東京都中央区)ではダムカードの常設展示が行われている。「ダムカード大全集」など書籍やDVDといった関連商品が続々と誕生する中、人気を集めているのが「ダムカレー」だ。ご飯をダム、カレーはダム湖に見立てて器に盛りつけたカレーライスで、日本ダムカレー協会によると国内に182種類以上あるという。

 インフラの魅力を発信するカードはダムのほかにも、橋やトンネル、マンホール、鉄塔と続いている。小さなカードが大きなインパクトを生んだ成功事例と言える。カードを出発点に、インフラを地域固有の観光資源として活用する動きがさらに活発化しそうだ。

2020年6月15日月曜日

【回転窓】夏の新しい生活様式

近所の小学校でようやく入学式が開かれた。「練習できた入学式の経験は貴重かもしれませんね」。感染症の不安もあって張り詰めた雰囲気を和まそうと、校長が明るくあいさつしていた▼参加を親に限り、検温とマスクの着用を義務付けた。在校生は新入生がくぐるアーチを持つ6年生の十数人だけ。様相が一変した式典だったが、晴れの日を迎えられた1年生には思い出に残る出来事になったはず▼建設現場も様変わりした。朝礼の参加者を絞り、密集・密閉・密接を回避した作業が続く。従業員の距離を確保しようと、ある建設会社は本社の隣に仮設事務所を設けた▼現場は熱中症への備えも進む。体内に熱をこもらせてしまいかねないマスクに代えて、顔や口を覆うフェースカバリングやマウスシールドを導入する建設会社が目立つ。素材を工夫した冷感マスクも注目だ▼日常を取り戻しつつある学校だが、運動会の予定を変更する可能性があるそうだ。学校も職場も感染症との共存を避けて通ることはできないだろう。梅雨の降雨が水不足にならない程度で済むよう祈りつつ、夏の新しい過ごし方に目を向けはじめよう。

【としまえん閉園、期間限定で新施設設置へ】練馬城址公園整備(練馬区)、西武鉄道ら5者と覚書交換

東京都は、練馬区にある遊園地「としまえん」の敷地を含む「(仮称)練馬城址公園」の事業化に向け、土地所有者の西武鉄道らと相互に連携、協力することを確認する覚書を12日に交わした。

 今後、都公園審議会に整備計画を諮問し、都立公園の段階的な整備を目指す。公園区域内にはワーナーブラザーズジャパンによる映画「ハリーポッター」シリーズのスタジオツアー施設を期間限定で設置する。

 覚書は▽都▽練馬区▽西武鉄道▽ワーナーブラザーズジャパン▽伊藤忠商事-の5者で交わした。緑と水の空間と広域防災拠点の確保、にぎわいの創出の三つを基本目標に掲げ、関係者間で協議しながら公園整備を進めることで合意した。

 スタジオツアー施設は公園区域内の北東部に計画。段階的な公園整備のプロセスに合わせて設置工程を協議する。設置可能期間は運営開始から30年と設定。運営終了後に都立公園を整備する。映画撮影に使われたセットや小道具を展示する同施設の開設は、英ロンドンに続いて世界で2カ所目になるという。

 練馬城址公園の計画地は春日町1丁目、向山3丁目の26・6ヘクタール。都と都内区市町が2月にまとめた「都市計画公園・緑地の整備方針」改定案では「今後とも避難場所としての機能を維持していく必要がある」として2029年度までに優先的な供用を目指す「優先整備区域」に指定された。

【債務負担行為550億円設定へ】瑞穂公園陸上競技場等整備PFI、7月にWTO入札公告

名古屋市は12日に発表した6月補正予算案に、PFIを導入する瑞穂公園陸上競技場等整備・運営事業の債務負担行為550億3900万円を盛り込んだ。

 老朽化している陸上競技場を2026年のアジア競技大会開催に備え建て替えるとともに、公園全体約24ヘクタールの再生・運営を民間に任せる。7月に特定事業に選定し、WTO対象の総合評価一般競争入札を公告する。

 瑞穂区山下通5ほかにある同公園は、第1種公認の陸上競技場、ラグビー場、野球場など各種スポーツ施設を備える総合運動公園。アジア競技大会では、新しい陸上競技場がメイン会場になる。市は、PFI導入に向け3月31日に実施方針と要求水準書(案)を公表していた。

 PFIでは、新陸上競技場の建設と、広場や散策路、駐車場などの整備・運営に加え、既存の北陸上競技場、ラグビー場、野球場、相撲場、テニスコート、体育館(建設中)など公園全体の維持管理・運営も行う。事業方式はBTO(建設・移管・運営)。提案により民間収益施設の整備・運営も可能。

 このうち、陸上競技場の建て替えでは、既存施設の取り壊し後、総延べ約6万4000平方メートルの新施設を建設する。約3万席の観客席はすべて大屋根で覆う。アジア競技大会の開閉会式にはフィールド内に約5000席の仮設席を設けて対応する。フィールドや競技・運営関連諸室は、国際的な陸上競技大会、サッカーJリーグ公式戦の開催に必要な機能を備える。

 新陸上競技場の設計・建設期間(解体、公認等取得、開場準備含む)は21年7月から26年3月まで。26年4月に供用を開始する。そのほかの建築施設、公園施設も21年7月以降に整備を進め、アジア大会開催までに完成させる。ただ、宿泊研修棟の改修は、一部を除き大会後に行う。公園全体の維持管理運営期間は、23年4月から41年3月まで。

 7月に総合評価一般競争入札を公告、8月下旬まで参加申請を受け付ける。官民対話を実施後、12月下旬に入札書・提案書を受け付け、21年3月に落札者を決める予定。

【凜】東京・港区高輪地区総合支所・福留多佳子さん

◇あふれる街づくりへの思い◇

 土木コンサルタント会社を経営する父が描いていた「生き物と共存する街」に、自身も思いをはせるようになった。環境への負荷を減らす都市の在り方などを探る都市環境工学を学んだ大学在学中、キャンパスがある港区主催のワークショップに参加した。運河を活用した街づくりをテーマに区民と意見交換しまとめていく。そんな「みんなでの街づくり」に魅力を感じ、公務員になることを決めた。

 入庁後に配属された部署で生物調査などを手掛けた。区内に生息するウナギやドジョウ、野鳥などの生態を調べた。自分の思いに近い業務に携わることができうれしく感じた。

 3年後に異動した都市計画課では「防災街づくり整備指針」の改定などを担当。策定作業のさなかに東日本大震災が発生した。防災計画への関心が高まり、情報を「区民に分かりやすくどう伝えるか」を心掛け、作業に情熱を注いだ。

 現在の部署では公園整備の計画立案などを手掛ける。さまざまな部署で経験を積む中で、安全性や利便性に加え、気遣いが感じられ「愛着を持てる街」にしたいと考えるように。育児休暇中の今、街に置かれたベンチなどに目が留まる。「住んでいる人と同じ目線」だからこそ気付いた細かな気配りを復帰後に生かせるよう、メモを忘れない。

 入庁前と後の街づくりへの思い。「ちょっと欲張りかも」と恥ずかしそうに笑った。

 (まちづくり課土木担当係長、ふくどめ・たかこ)

【中堅世代】それぞれの建設業・257

行政機関の仕事で市民との対話が求められる場面は多い

 ◇寄り添って考える「誠意」を仕事の基本に◇

 道路や鉄道、庁舎といった社会資本は市民生活や経済活動を支える。住民に多くの便益を与える一方、その整備時には土地収用により土地や住宅を失うなど地権者に負担を強いる。時には感情論まで発展し、事業が遅々として進まないことも。都市計画を学んだ栗山剛也さん(仮名)は「市民に寄り添った社会資本の整備や管理に取り組みたい」と国家公務員を志した。

 国土や建設、運輸、観光など幅広い領域を所管する中央官庁は、政策の企画・立案、産業の育成・振興、社会資本の構築・整備と業務も多岐にわたる。仕事を前に進めるため、政治家や有識者、他の行政機関などさまざまな関係者と相対する。

 新人のころ国道整備に携わった。近隣住民との協議や交渉に腐心する先輩が「寄り添って考えていく『誠意』が最も大切だ」と漏らした。本心はどうなのか住民の声に耳を傾け、新しい生活が問題なく始められるよう心を砕いて対応しなければいけない。「誠意を持ってさまざまな人たちと向き合い、理解してもらえるように努力する」。先輩から学んだことは今でも仕事の基本姿勢になっている。

 非常事態が起こった時こそ行政機関は力を発揮しなければいけない。地方勤務のころ、数多くの自然災害を経験した。災害対策現地情報連絡員(リエゾン)として地域の実情を詳細に把握し、総力を挙げて被災者の生活支援に取り組んだ。

 被災経験の少ない自治体は必ず混乱する。「正確な情報に基づき迅速適切、冷静に応急対応していけるよう自治体をきちんと支える」という使命感を持ち、「被災者に寄り添う」と自身を鼓舞し災害対応に当たった。

 頼もしかったのが建設業の存在だった。自身も家族や自宅を失った被災者だったにもかかわらず、救援ルートを確保するため道路をふさいだがれきを取り除いたり、決壊した川の堤防を復旧したりなど必死に対応する姿が胸を打った。「『地域の守り手』という使命と誇りが建設業の皆さんを突き動かしている」。思わず目頭が熱くなった。

 勤務先が変わっても慌ただしい日々は変わらない。そんな中、働き方改革が社会に広く浸透し、不夜城とやゆされることもある霞が関でも、仕事の在り方を見直す動きが出てきた。ワークスタイルを改革する取り組みが始まっている。

 「若いころは終電で帰宅できればラッキーという感じだった。けれども今は空気が違う」。そう感じ始めた直後に新型コロナウイルスの感染拡大という予期せぬ事態が起こった。必要に迫られ取り組んだテレワークや時差出勤。新しい仕事の仕方、生活様式にも徐々に慣れてきた。これから定着段階に入る。

 災害時などを除けば若いころの働き方は昔の話。「中央省庁はこれからも重要な政策の立案を担っていく。多くの人に就職先として選んでもらえるよう働き方改革を進めなければいけない」。決意も新たに仕事と向き合っている。