2020年6月22日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・258

公共工事の必要性をしっかりと説明する。公務員の大切な仕事だ
◇次代への技術継承に危機感◇

 「携わった工事が完成した時の喜びこそ土木屋としての醍醐味(だいごみ)。若い技術者にも味わってほしい」。地方公務員としてインフラ整備に携わる小菅貴光さん(仮名)は、自らの経験を後輩たちに伝えていく大切さを感じる場面が多くなったと話す。次代を担う人材の確保や育成は官民を問わず重要な課題。行政機関だから将来も安泰という考え方は通用しなくなっている。

 特別なきっかけがあって土木の道に進んだわけではないが学生時代、ものづくりに関わる仕事に就きたいと考えていた。大学で土木を専攻し、交通工学の基礎研究を行っていた。1995年に発生した阪神淡路大震災。高速道路が横倒しになった映像に大きな衝撃を受けた。土木技術者として働くならば災害に強い街を造りたいと思うようになり、次第に「街のグランドデザインが描きたい」という思いが強くなった。地方公務員になることを決めた。

 働き始めてからは出先事務所と本庁の勤務を数年ごとに繰り返した。最初に配属された出先事務所で橋梁工事の現場を担当した。川の中に橋脚を構築する必要があったが、現場の周辺は水害で大きな被害が出たばかり。行政に不信感を持つ住民も多く、説明をしたくても「地元からは総スカン」の状態だった。3カ月連続で地元説明会を開き、合間に個別説明をするなど丁寧なコミュニケーションを心掛けた。

 橋は無事完成し街は大きく変わった。何もなかったところに道路ができ商業施設も進出して便利になった。道路に対する住民の考え方も変わったような気がしている。「街が変わる姿を見て覚える感動は大きい」。土木の魅力を実感した。

 これまでの歩みを振り返った時、大きな転機になったのは東京での勤務だった。門外漢ともいえる建設以外の政策分野でも国会議員や中央省庁とさまざまなやりとりをした。自然と人脈が広がり、仕事を大局的に見られるようになった。

 インフラ整備では計画を立案して予算を確保し、設計、工事、維持管理とステップを踏んでいく。多くの関係者や市民、企業の声に耳を傾けプロジェクトを最適化していくにはコーディネート力が必要になる。大切な税金を使って行う公共工事。公共利益を確保するのはもちろん、説明責任を果たし必要性をPRすることも大切だ。

 インフラ整備に対する風当たりは以前に比べ落ち着いたと感じる。ただ国や地方の財政状況は厳しく、人材不足も解決の糸口を見いだせていない。特に技術系職員の不足は深刻な状況と感じている。

 先輩から受け継いできた経験やノウハウをどう継承していくのか、心配は尽きない。「行政も本気になって人工知能(AI)など最新技術を活用していく必要がある」。胸の内に現れる危機感を払拭(ふっしょく)するため、これからも仕事と真剣に向き合おうと思っている。

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