ダムブームの火付け役とされる「ダムカード」。ダムの形式や貯水池の容量といった基本情報から建設時のこだわりの技術といったマニアックな話まで、ダムに関するさまざまな情報が凝縮されている。
訪れた人にだけ配布される“限定感”もあり、多くの集客につながっている。ダムカードを切り口としたツアーを旅行会社が企画するなど、インフラツーリズムにも広がりを見せている。
ダムカードの取り組みは2007年度にスタートした。導入のきっかけは、ダムマニアの集まりに国土交通省の職員が参加したことだった。「ダムに行ったらもらえる特別なものがあったらいい」。そんなマニアの意見から着想を得てダムカードを発案した。
具体化に当たり、担当者は当時流行していたトレーディングカードの一つ、「ポケモンカード」を参考にした。カードを入れる市販のバインダーやホルダーが利用できるように、ダムカードのサイズや角の丸みをポケモンカードと同じ規格にしたという。
ダムカードはパンフレットの役割だけでなく、クーポンとして機能し、周辺の温泉施設や飲食施設の割引きに使えるところがある。ダムカードの情報から「ダムロボット」という特殊なカードをスマホ上で入手できるといった企画も派生している。
各地のダムでは事前予約による職員の案内や見学会を開催している。ダムを訪れる人は年齢も性別もさまざま。「放流のダイナミックさ」「スケールの大きさ」を楽しみに来ている人も多い。建設中のダムはその時しか見られない。工事の瞬間に立ち会えるという非日常が人々を魅了する。夜間のダムの現場を見てもらうナイトツアーもある。
旅行会社のツアーの中には、「ダムカード完全制覇の旅」と銘打った企画が登場した。10万~20万円程度の価格で、数日間かけて土地土地のダムカードを集めて回る旅だ。
国交省は今年、天皇陛下在位30年を記念した特殊デザインのダムカードを発行した。配布対象は国交省と水資源機構が管理または建設している全国の169のダム。4種類のデザインを用意し、ダムごとに1種類を配布した。記念バージョンのダムカードの配布は初めてで、配布期間の約3カ月間で年間印刷枚数の6割に相当するカードが配られる好評ぶりだったという。
国交省や水資源機構が管理するダムに続き、都道府県の補助ダムや発電事業者のダムでも配布されるようになり、配布中のダムは当初の111カ所から今年3月末時点で734カ所に増えた。国内にあるダムの半分でもらえる計算だ。
国交省水管理・国土保全局河川環境課流水管理室の佐瀬勝亮流水企画係長は「はじめはダムカードというインセンティブでダムに来てもらっていた」としつつ、「ダム自体が水源地域の活性化に役立つ存在になってきた」とも話す。首都圏からアクセスしやすい宮ケ瀬ダム(神奈川県愛川町など)が一番の人気で、カードの発行数は70万枚に上る。ダムマニアの中には「全部集めたとアピールしに来た強者もいる」(佐瀬係長)という。
東日本建設業保証が運営する建設産業図書館(東京都中央区)ではダムカードの常設展示が行われている。「ダムカード大全集」など書籍やDVDといった関連商品が続々と誕生する中、人気を集めているのが「ダムカレー」だ。ご飯をダム、カレーはダム湖に見立てて器に盛りつけたカレーライスで、日本ダムカレー協会によると国内に182種類以上あるという。
インフラの魅力を発信するカードはダムのほかにも、橋やトンネル、マンホール、鉄塔と続いている。小さなカードが大きなインパクトを生んだ成功事例と言える。カードを出発点に、インフラを地域固有の観光資源として活用する動きがさらに活発化しそうだ。
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