建築設備技術者協会(JABMEE、野部達夫会長)は2020年度の「建築設備技術遺産」を決めた。1914年に建材社(現大気社)の暖房工事技師としてドイツから招聘(しょうへい)した設備設計者のA・P・テーテンス(1883~1966年)がまとめた「戦前の実績を記す自作のノート」や、明治天皇6号御料車に設置されている「鋳鉄製蒸気式暖房用ラジエーター」など4件を選んだ。
テーテンスの自作ノートは、14年の来日から太平洋戦争で活動ができなくなった35年までの東京海上ビルの強制循環式温水暖房設備、帝国ホテルの暖房設備などの約900件の作品の記録と複数の計画に対する自己評価が自筆で記されている。戦前の日本の空気調和設備の歴史や設計者の自己作品に対する評価を知る上で貴重な資料であることが評価された。
2件目は博物館明治村に保存展示されている明治天皇6号御料車に設置されている4台と同時期に製造された予備品2台の鋳鉄製蒸気式暖房用ラジエーターを認定した。戦前の設備機器の現存は珍しく、明治期の貴重な設備機器であることや保存状態の良さなどが評価された。
3件目はTOTOミュージアムが所蔵する「ウォシュレット一体形便器(ネオレストEX)」。住宅向けの腰掛け便器で、便器洗浄水用の水をためるタンクをなくしたタンクレス便器(温水洗浄便座一体型便器)として93年に発売した。斬新なコンセプトやデザイン、高性能であることなど住宅のトイレ空間をレストルームという位置付けにしたきっかけとなった背景から建築設備技術遺産として認定した。
残る1件は「自動切り上げダイヘッド付き切削ねじ切り機と転造ねじ加工機」。未経験者でも、熟練作業者と同じ品質でねじ加工ができ、作業時間の短縮や精度向上。品質の安定化につなげた。ねじ加工を自動化し、長さと同時にねじ径のバラツキを解消したことなどが評価された。
建築設備技術遺産は建築設備の技術や役割を次世代に継承する目的で創設。9回目を迎える本年度は、新型コロナウイルスの影響から書面審議による審査方法で4件を選定。累計40件(うち特別認定2件)となった。
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