◇国立競技場改築が契機、官民連携で開発誘導◇
東京都が「明治神宮外苑地区」の再整備に向け、検討に乗りだした。2020年東京五輪のメーン会場となる国立競技場の建て替えを契機に、既存のスポーツ施設を連鎖的に建て替えるとともに、周辺の低未利用地で公共施設の整備や民間施設の誘致を進める。地区南側にあるビル群でも、都が運用する制度を活用して民間施行の開発を誘導。官民連携で地区全体の再編を進める考えだ。
明治神宮外苑地区は、北側をJR中央線、南側を青山通り(国道246号)に挟まれた地域で、港、新宿の2区にまたがる。築60年以上で老朽化した明治神宮球場と秩父宮ラグビー場があるほか、指定された容積率を使い切っていない公園や緑地も多い。都は4月1日、地区内の地権者との間で、街づくりの検討に向けた基本覚書を交わした。覚書では、東京五輪のある2020年以降に秩父宮ラグビー場の跡地に新しい野球場を建設。その後、明治神宮球場の跡地に新しいラグビー場を建設するなどの構想で合意に至った。
都は、地区内の公園・緑地への公共施設の整備や民間施設の誘致も同時に進める考えだ。13年12月に創設した「公園まちづくり制度」を活用し、都市計画で開発が制限されている公園・緑地でも大規模施設を建設できるようにする。同制度では、▽敷地の60%以上(1ヘクタール以上)に緑地を確保▽敷地の20%以上が容積率の低未利用地▽都市計画の決定から50年以上―などの条件を満たせば、都の審査を経た上で都市計画を変更して開発制限を緩和できる。ただ、制度を創設してから現時点では活用された実績がない。このため、都の担当者は「定めた条件に曖昧な部分も多いため、運用しながら内容を精査する」と課題も示している。
地区南側の青山通り沿いでは、公園や緑地で未利用の容積率を隣接地に移転して土地の高度利用を図る制度「再開発等促進区」を活用した開発も促す。同制度は、森ビルが16年6月の着工を目指す「(仮称)愛宕山周辺計画(I地区)建設事業」(東京都港区)や、組合施行で14年5月に着工した「西新宿五丁目中央北地区市街地再開発事業」(東京都新宿区)など活用例が多い。
都の担当者は「実績が多いので、制度面での心配はない。今後は地権者と協議して街づくりの方向性を決めたい」と話している。
◇伊藤忠商事や三井不、エイベックスなどがプロジェクト推進◇
覚書を交わした民間企業のうち、伊藤忠商事は1980年竣工の東京本社ビルを建て替える見通し。「青山OMスクエア」を所有する三井不動産と日本オラクルは、交通インフラの再整備などで地区内の街づくりに協力する考え。三井不の菰田正信社長は「東京五輪の記憶を残すような街づくりをしたい」と意欲を示している。青山通りの沿道地域では、こうした動きを契機に開発機運が一段と高まりそうだ。覚書で示した対象地を外れたエリアでも、民間主導でビルの建て替えや再開発の検討が進む可能性がある。沿道では現在、エイベックス・グループ・ホールディングスの新本社ビル(港区南青山3の1の30)、東京都民銀行の新本店ビル(南青山3の176ほか)、大本組の新東京本社ビル(南青山5の9の15)などの建設プロジェクトが進行しており、都心部の新たなオフィス集積地に変化しつつある。
都は、昨年策定した長期ビジョンで「都営青山北町アパート」(港区北青山3の4ほか、敷地面積4ヘクタール)を20年度までに建て替えると発表した。住宅の高層化で生まれる敷地内の余剰地に民間開発を誘導することで、青山通り沿道と一体的な街づくりを進める方針を示し、将来的な民間開発に布石を打った。
港区も、地下鉄の青山一丁目駅~表参道駅付近の95ヘクタールを対象にした「まちづくりガイドライン」の検討を始めた。地元町会や街づくり協議会の意見を参考にして今秋までに策定する方針。区の担当者は「『気品のある街づくり』がキーワードになる」としている。
かつて青山通りのランドマークだった黒川紀章氏設計の「青山ベルコモンズ」(港区北青山2の14の6)は昨年の閉館後、今年に入ってから三菱地所が子会社を通して取得した。跡地の開発に当たって、同社の合場直人代表取締役専務は「テナントニーズが丸の内などとは違うため、工夫を凝らしたい。あらかじめ入居するテナントを決めてから開発することも考えている」と話している。