工事完了後の外観イメージ 北海道立文書館別館の一部を保存、創建時の外観を再現する |
元号が大正から昭和に変わった1926年、北海道庁立図書館として竣工したレンガ造りの歴史的建築物を保存・再生するプロジェクトが札幌市内で行われている。2月下旬、札幌市の中心部に位置する北海道庁の南側で始まった「北菓楼札幌本館」建設工事は、竣工から89年の歴史を持つ北海道立文書館別館の一部を保存し、竣工当時の外観を再現しながら菓子販売店舗・ギャラリーとなる新たな施設を建設する。「クラシックモダン」をテーマに古さと新しさを融合させ、北海道の歴史と文化を後世につなごうという建物。現在、保存する壁面の補強工事が着々と進んでいる。
◇新たな観光名所に◇
北海道砂川市を拠点に、道内で菓子の製造・販売を展開する北菓楼などの持ち株会社・堀製菓が、道から文書館別館を買い取り、一部を保存しながら菓子販売店舗・ギャラリーとして建て替える。施工は竹中工務店。設計は竹中工務店、安藤忠雄建築研究所、西島設計が手掛ける。来年3月には、竣工当時の姿が再現され、北海道の歴史・文化を伝える新たな観光名所として生まれ変わる。
道は当初、売却後の全面改築を想定していたが、れんが造3階建ての建物は、柱が複数階にまたがるジャイアントオーダーと、幾何学模様を多用したセッション様式の外観を備えるなど歴史的な価値が高く、何よりも開館当時を知る多くの札幌市民の要望もあり、外壁の一部保存を条件とした売却に方針を転換。公募型プロポーザル方式で売却先の民間事業者を募った。
事業提案の作成段階から堀製菓に協力していた竹中工務店は、売却条件である南側と西側の壁面に加え、竣工当時のインテリアがほぼ原型に近い状態で保たれ、歴史的価値の高い正面玄関を含む塔屋の保存も提案した。玄関部分は老朽化が著しく、保存は難しいとされたが、現行法規に適合する保存手法を模索しながら、札幌市との折衝を繰り返し、保存が認められた。
レンガ壁を保存するため建物内では基礎工事が進む |
2月下旬に始まった工事はまず、南面の保存するれんが壁内部に鉄筋を入れて補強する作業から着手した。れんが壁最上部から垂直方向に基礎部分まで達する穴を23カ所開けて鉄筋を挿入。そこに無収縮グラウトを流し込み、れんが壁の面内と面外の強度を向上させる。さらに、各階床レベルのRC臥梁(がりょう)近くに新たにRC梁を設置し、地震時の水平力に対する強度を補う。西面と東面の保存するれんが壁は、アンカー筋によって室内側に新たに構築するRC壁と緊結することで補強する。この補強工事が4月末まで続き、その後、改築部分の建物の解体、そして新店舗の建設と続く。解体工事が終わる5月下旬から6月上旬ごろには、補強が完了した保存部分の壁面だけが自立して残り、その背面は更地の状態になるという。
「新しい建物はいくつも造ってきたが、古さを表現するのは難しい」と話すのは、現場で作業を指揮する竹中工務店の谷口昭彦所長。今回の工事では、壁面の保存のほか、塔屋は、過去の改修で追加された屋根を撤去し、霊廟(れいびょう)をモチーフにした竣工当時の姿を再現。内部側でも保存するれんが壁面を、そのままインテリアとして見せることを計画している。
このため同社の技術研究所と協力し、細かな検証を繰り返しながら、保存壁の補強方法や外壁タイルの再利用・補修方法などを決めてきた。「今回のような歴史的建築物の保全は全国的にもまれ。これまでに蓄積したノウハウを駆使し、全国の本支店、協力会社と連携して進めていく」と「オール竹中工務店」の態勢で施工に当たっている。
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