◇会社や自分の味を加えてこそ◇
私が中学生のころ、家には土木の学校に通っていたいとこが下宿していまして、カラス口のペンで製図をよく書いていました。それを見て設計は面白そうだと思ったのが、私も理系に進んで土木の道を選んだきっかけだったかもしれません。
入社して配属されたのは千葉支店です。漁港や港湾などのいくつもの現場を担当する事務所に赴任しました。初めのころの仕事は、ケーソン製作の写真を撮ることなどが中心だったと記憶しています。
海での工事は気象に大きく影響されます。このため、常に気象情報を把握しておかなければなりません。ある年のことです。例年なら、一年の中でも海が穏やかな8月のお盆を迎えるころまでにケーソンを据え付けます。しかし、この年は8月以降も年度末にかけて、いくつものケーソンを据え付けていく必要がありました。
その間は、海上で作業ができる日を決めるため、海の状況を見ては天気図とにらめっこしながら検討する日々でした。現在のような気象情報サービスなどもなく、自分で気象台に行って情報を書き写すなどしていました。ですが、どれだけ準備しても、施工できるかどうかは当日になってみないと分からず、予定した作業が中止になることも少なくありませんでした。大変に厳しい半年間でしたが、そうして現場のことを覚えていったのだと思います。
現場での失敗もいろいろあります。たまたま天気予報の確認が遅れていた日に、台風が発生したのです。夕方に会社からの電話で知り、慌てて引き船を呼んで作業船を安全な所へ移動させる準備に入りました。何とか翌朝の日の出前には移動でき、台風の影響を避けられたのですが、今でもあの電話がなかったらと思うと冷や汗が出ます。人の目がどれだけありがたいか、身に染みました。
私は、相談できる人、聞いてくれる人、そして話せる人がいることはとても大切だとよく言っています。自分も多くの方々と話をさせていただき、多くのことを教えてもらってきました。それに「こうした改善ができるのでは」といった考えがあるなら、人に話してみることも大事です。すぐには無理だとしても、言うことで変わっていく場合もあります。
施工者の仕事は、設計されたものを形にすることですが、その中で会社や自分の味を加えていくことが必要だと考えています。それは造り方でも、安全管理でもよいんです。いろんなことにチャレンジできるのが、現場の面白さでもあります。
(さとう・しんいち)1979年東京都立大工学部土木工学科卒、若築建設入社。06年千葉支店次長兼工事部長、07年東京支店次長兼土木部長、08年同副支店長、13年建設事業部門土木部長、14年現職。千葉県出身、59歳。
入社4年目の1982年に交付された作業主任者技能講習の修了証 |
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