◇復旧・復興の「技」持ち被災地に駆け付ける◇
広範囲に未曽有の被害を発生させた東日本大震災からの復旧・復興を会員企業が進めている日本建設業連合会(日建連)。各社が全国規模の事業ネットワークを生かして活動体制を整え、高速道路や鉄道といった基幹インフラの復旧、津波が残した膨大な災害廃棄物の処理、経験のない原子力発電所事故への対応などと向き合ってきた。中村満義会長は「全力で取り組んだ」とこの5年間を振り返った上で、被災者の支援、復旧、復興に一貫して臨む「『応災力』を高めたい」と述べ、次の災害への備えに万全を期す考えを強調する。
--これまでの活動を振り返ると。
「建設業は、国民が安全・安心に暮らせる国造りと、産業活動の基盤となり、災害時に必要となるインフラをしっかり整備し、維持管理する役割を担っている。災害が起きたならば、『いざ鎌倉』という気持ちで、復旧や復興を進める技を持って被災地に駆け付ける。震災は、日本建設業団体連合会(旧日建連)、日本土木工業協会(土工協)、建築業協会(BCS)の合併を11年4月に控えていた中で発生した。旧土工協東北支部は被災直後に『震災対策本部』を設置して対応を開始。3月14日には『新日建連緊急災害対策本部』を立ち上げて前倒しで活動に入り、どう臨むか考えを一致させて対応してきた」
「被災直後は、インフラの管理者や発注機関からの要請が相次いだが、国土交通省東北地方整備局、東北6県、仙台市と災害時の応急復旧業務に関する協定を締結しており、整備局の指示で働かせていただいた。当時整備局長だった徳山日出男国土交通事務次官に先日お会いした際、『戦友でしたね』と声を掛けていただいた。震災からの5年を自己評価するなら、お役に立てたと思っている。復興工事はピークにあり、原発事故への対応など現地での活動はまだまだ続く。今までの実績に地域の期待は大きく、一日でも早く復興が成し遂げられるよう気を引き締めたい」
--震災の教訓をどう受け止めている。
「日建連の会員企業は、全国で事業展開するゼネコンが多い。発生直後は、阪神大震災の経験も踏まえ、支援物資や人員の確保と輸送に各社の事業ネットワークが生きた。包括的な災害協定があったことで、必要な措置を必要な場所にワンストップで講じることもできた。巨大なダムや超高層ビルを造るという『初』に各社がそれぞれトライしてきたからこそ、初めての経験となった巨大なボリュームの災害廃棄物処理や、原発事故への緊急対応を行えた。そうした役割を担えるのが建設業だと、社会にあらためて認識してもらえたと思う」
「『防災・減災・応急対策への教訓 証言でたどる東日本大震災』というパンフレットを作成し、津波の被害が想定される全国の小中学校に約1万部配布した。教訓を広く伝えるとともに、インフラの必要性と建設業の役割への理解を促すことが大切だ。復旧・復興は、建設業界が総力を挙げる国民的課題と捉えて設置した『復旧・復興特別委員会』と『電力対策特別委員会』は現在も精力的に活動を続けている。各社がエゴを排して頑張ってくれていると思うが、インフラは欠かせないという理解を得て進める事業もある。活躍する建設業の姿を発信しつつ、教訓を紡いでいきたい」
--被災地は4月から復興・創生期間に入る。
「関係機関の協力を得て岩手県や宮城県の災害廃棄物処理が完了した。除染事業は、16年度内の完了を目指し、会員企業が作業を鋭意進めている。インフラの整備に加え、災害公営住宅の建設や街づくりなど、建設業界の力が期待される事業はまだまだ多い。福島県の復興には、長く困難な道のりがあるだろうが、日建連はもとより建設業界が一丸となって取り組みたい」
--防災・減災のあり方をどう考えている。
「震災の証言や事実を踏まえると、多重防御、全国的・複合的ネットワークの構築、総合的な復旧支援体制の確立の三つが重要だと見ている。津波が襲来した際は、高速道路が堤防としても機能した。避難訓練や防災教育を日ごろから行い、インフラが担う防災・減災の機能の実効性を高めると同時に、ハードとソフトを組み合わせた防災・減災意識の一層の高揚が大切だと思う」
「被災地には、支援物資が日本海側の港湾や道路から届いた。燃料の輸送には、JR貨物が代替機能を果たした。人と物を短期間に集中して投入できる強靱(きょうじん)な交通ネットワークがなければ、応急対策は機能せず、全国的・複合的なネットワークの構築が急がれる。壊滅的な被害が出た地域でも、国交省や自衛隊といった実行組織と、資機材の調達や実働を担った建設業者が一体となって復旧に努めた。日建連の長期ビジョンには、被災者の支援、応急復旧、本格復旧、復興と、一貫して災害に対応する『応災』が建設業の基本的な責務という考えを明記してある。応災力を磨き、総合的な支援体制を強化する」
--次の災害にどう備える。
「災害は、どこでどのように発生するか予測できないが、必ずやってくる。15年9月の関東・東北豪雨では、鬼怒川の堤防が決壊し、関東支部に国交省から緊急支援の要請があった。会員企業と人員の決死の作業によって、2週間で堤防の復旧を仕上げた。災害復旧に建設業界の努力があることを少しでも多くの方に理解いただければ幸いだ。日建連は、内閣総理大臣から災害対策基本法に基づく『指定公共機関』に指定されており、あらゆる災害に迅速に、強力に対応する体制の整備を進める」
「首都直下地震に備え、東京の本部には『首都直下地震対策ワーキング』を設けた。関東支部は、関東地方整備局と災害に応じる体制の整備や伝達訓練などを行っている。各支部も整備局を主体に都道府県や政令市を含む包括的な災害協定の締結に向けて積極的に働き掛けを行っている。関係機関、自治体と連携し、被害を最小限にとどめる努力をこれからも着々と積み重ねていく」。
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