自分で決めたこととはいえ、実行を前になかなか踏ん切りをつけられなかったという経験は誰にもあろう。建築家の宮本忠長氏も大いに迷ったことがあると、かつて本紙記者に語ってくれた▼佐藤武夫設計事務所(現佐藤総合計画)で師事した佐藤武夫から「ここで15年頑張れ」と言われていたが、13年目に独立。郷里の長野へ帰る日に東京・新宿での送別会に出て一人で電車に乗るも、気持ちの整理がつかず、途中の駅で降りてまだ仲間のいる店に戻ってしまったという▼その後は信州の地に根差し、多くの功績を挙げた宮本氏が2月25日死去した。2004年、76歳の時に松本市美術館で日本芸術院賞を受賞した際、「建築家としての滞空時間の長さも評価されたのでは」と笑顔で話していたのが思い出される▼日本建築士会連合会会長の在任中には耐震偽装問題が発覚し、建築士の信頼回復に奔走。建築士会の活動を「建築人としての人間形成の場」とも話し、その輪を広げるのにひとかたならぬ思いで取り組んだ▼迷った分だけ揺らがない心を持ち続けられる。そんな大事なことを教えてくれた建築家だった。
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