建物の安全・安心への信頼回復は… |
基礎杭の施工不良問題に揺れるマンション業界。デベロッパーの関連会社で開発物件の維持管理に携わる大村公平さん(仮名)は、杭問題が表面化した昨秋以降、全国で管理するマンションのクレーム対応などに当たってきた。
所有者の不安や不満に懇切丁寧に対応するには、一つ一つの物件の詳細なデータが必要になるが、手元に十分な資料がそろっていなければ対応が後手に回る。
「『終(つい)の棲家(すみか)』として一生に一度あるかないかの大きな買い物をしたお客さまから見れば、どんなにこちらが建物に問題はないと伝えても、きちんとした根拠を説明できなければ納得してもらえないのは当たり前」。グループ企業が開発した物件の施工データは比較的簡単に手に入ったが、他社開発で管理だけを任されている物件のデータ収集は思うように進まず、頭を悩ます。
入社から数年たった2005年、マンションの耐震偽装問題が持ち上がった。連日繰り返されるテレビや新聞の報道。右も左も分からない状況の中で、会社の先行きに不安を感じた。自社で管理する物件は耐震偽装とはまったく無関係だったものの、同じ業界で働く一人として、高額な商品を販売し、その商品を長期にわたって適切に管理する仕事に対する責任の重さを痛感した。
ものづくりの世界では、商品の品質は作り手への信用・信頼によって成り立つ。消費者が作り手に不信感を抱いたら、ものは売れない。品質を守り続ける作り手のたゆまぬ努力がブランド力を高める。
歴史は繰り返されるのか-。耐震偽装問題を経て業界内のブラックボックス的な構造や体質は改善され、同じようなことは二度と起こらないだろうと思っていた。今回の杭問題を機に、建設会社など作り手だけに依存しては品質は確保できないと考えを改め、管理会社としても何かできないかと思案している。
「責任は施工者側だけにあるのではない。事業者側が提示する建設費や工期などが、企業として営利を求める中で本当に適切なものになっているかどうか。事業の企画・設計などの川上段階に問題があったら、建設から販売に至る川下段階にそのしわ寄せがいくことになる。結果として割を食うのは消費者であり、企業側も一度失った信頼・信用を簡単には取り戻せない」
人が生きていく上で欠かせない衣食住。その中でも日々の暮らしを豊かにするための住の仕事に携わりたいとの思いを抱き、この業界への就職を志望した。今でも自分の仕事には誇りを持っている。
自社で管理するマンションを回り、そこで平穏に暮らす人たちの日常の風景を見るのが大好きだ。新しいものを創り出す開発側に比べれば、管理側の仕事に派手さはない。それでも大好きな風景を守り続けることにやりがいを感じ、これからも頑張ろうと思う。
ものづくりの川下側の人間として、消費者に最も近いところにいるからこそ、川上側のこともきちんと把握し、安全・安心を提供したい。歴史が繰り返されるのはこれが最後と自分に言い聞かせながら、人々の平穏な暮らしを守る仕事へのプライドを持ち続ける。
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