◇子どもと震災話すきっかけに◇
「そうだ! ぼくは りくでも うみでも かわのなかでも、はしって こうじが できる すいりくりょうようブルドーザーだったんだ!」。東日本大震災の復興現場で活躍する水陸両用ブルドーザーが主人公になった絵本が刊行された。青木あすなろ建設が保有するコマツ製の「D155W」がモデルで、宮城県が発注した閖上(ゆりあげ)大橋橋梁復旧工事で働く姿が描かれている。乗り物をテーマにした絵本を数多く手掛けてきた作者の小森誠氏に、「スイブル」への思いや現場取材の感想を語ってもらった。
2013年2月、震災の復興工事で無線操縦式の珍しい水陸両用ブルドーザーが活躍しているというニュースを聞いたのが発端です。出版社を通じてすぐに取材を申し込み、2週間後には名取川の現場へ向かいました。
並行してストーリーを作り上げていきました。スイブルは1970年代に開発され、国内に現存する5台すべてを保有する青木あすなろ建設が大事に使ってきたのですが、絵本では倉庫で眠っていたスイブルが震災の揺れで目を覚まし、大修理を経て復興現場で活躍するという設定にしました。
閖上大橋の現場で実際にスイブルを目にした |
◇建機のパワー、オペレーターの細やかさ感じた◇
建設工事は一つ間違えば大きな事故につながります。建設機械のパワーはすごいですが、それを扱っている人の神経の細かさに圧倒されます。複雑な工事を指揮する人がいかに優秀か、あらためて知りました。
この現場でのスイブルの役割は、津波で洗い流された橋脚の根元を埋め戻すこと。水深が浅く作業船が使えないためスイブルの出番が来たのです。
実は、スイブルとの出会いは70年代にコマツの広告でイラストを描く仕事をした時でした。
その中にあの子がいて、当時から「あの煙突はなんだろう」「どうして緑なんだろう」と興味を持っていました。スイブルのエンジン音はちょっと変わっているんですよ。古い機械だからかもしれません。
取材後に仕上げたラフスケッチ |
機密情報を扱う工場であるにもかかわらず取材させてもらうことができ、大変役立ちました。 震災から5年を迎えるタイミングでの刊行となりました。この本は震災が起きたことを子どもたちに伝える目的で作ったわけではありませんが、地震や津波について触れないわけにはいきません。
仙台駅から車で現場に向かう途中、津波に流されて何も残っていない地区を通りました。私が通った道は、おそらくスイブルも通った道。スイブルが見た「くさきは ほとんど はえていない」景色を描きたいと思ったのです。幼児が対象ですから、大人がこの絵本を読み聞かせながら、子どもたちと震災について話すきっかけになればいいと思います。
(こもり・まこと)1948年京都生まれ。『バルンくん』シリーズ(福音館書店)や『はたらくくるま みちをつくる』『ダットさん』(教育画劇)など自動車に関する絵本を多数手掛けている。小さいころの夢は車のエンジンをつくる人。車や機械など「自分が好きなものを描き続けてきた」
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