2016年3月28日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・131

将来を担う職人を育てなければ
 ◇旧友の熱い思いを受け止めて◇ 

 大学卒業後、別々の道に進んだ二人。それが二十数年の時を経て、再び同じ釜の飯を食う仲間として歩んでいくとは当時、考えもしていなかった。

 中国地方出身の手嶋豊さんと関東地方出身の平井孝之さん(いずれも仮名)は、東京の大学で出会った。4年間、上下関係の厳しい応援団に籍を置き、苦楽を共にした。卒業後、業種は異なるが、どちらも世間的には名の知れた大手メーカーに就職した。

 手嶋さんは、やがて勤めていたメーカーを退職。次の職場となる広告代理店勤務を始めていた。そして取引先の会社に足しげく通う中で受付の女性に一目ぼれし、交際、そして結婚へ…。

 交際していた時から彼女の父親が建設関係とは聞いていた。ただ、まさか経営者だとは思ってもみなかった。結婚の許しを得ようと彼女の実家に出向いた際、どこか境遇が似ている父親と意気投合。結果として、婿養子に入り、そのまま義父が経営する専門工事会社に就職することを決めた。

 経営陣の一人として仕事も任され、忙しい毎日を送っていた。ただ、手嶋さんの目には、業界の「体質」が奇異なものに映っていた。

 「高校を卒業して入ってきた若者が3年もたたずに辞めてしまう」。建設業界ではよく聞かれる話だが、何も手を打とうとしない業界に違和感を覚え、現状を何とか打開できないかと思い悩んでいた。

 「辞めていく人が後を絶たない。それなのに辞めていく人の声に耳を傾けようとしない。入職してくる人の意見も聞き入れず、頭数だけそろえようとしたって何も変わらないじゃないか」

 そう考えた手嶋さんは、社長である義父に直訴した。「男女、経歴を問わず、やる気のある人を募集して育成することに特化した子会社を作りたい」と。了解を得て、親会社に在籍するベテラン職人たちの力も借りることになった。

 独自の分析に基づく教育システムを考案し、身の丈に合った育成をスタート。着実に、しかも効率よく育てながら、周囲に目配りの効く職人になってもらう。それが結果として、一人前以上の仕事をこなす人材になる。職人の仕事に意欲があるなら、育児中の女性でも受け入れる。そのために彼女たちの意見も聞き入れ、短時間勤務など多様な働き方も取り入れるなど、「人財」を有効に利用できる体制を整えた。

 新進経営者として頭角を現し始めていた手嶋さんのことは、平井さんの耳にも届いていた。「あいつ頑張ってるな」。そんなある日、二人は久しぶりに再会した。これから本格化する経営のパートナーを探していた手嶋さんは、「一緒にやらないか」と平井さんを誘ってみた。

 平井さんは大手メーカーの子会社にいて、将来は役員の道が約束されていた。それでも生き生きとした表情で人を育てることへの思いを熱く語る手嶋さんを前に、意を決した。「決められた道を歩くのもよいが、これも悪くないのではないか」。

 当然、妻や両親からは反対された。それでも旧友の誘いに「半生を懸ける価値がある」と説得を続けた。

 平井さんは今、建設業界という新たな道を手嶋さんと共に歩んでいる。

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