2017年4月3日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・163

かつての現場は「背中を見て仕事を覚えろ」だったが…
 ◇時代の変化に合わせた人材育成とは◇

 「ダイバーシティー(人材の多様性)や女性活躍、手厚い研修など、働き方に関する新たな取り組みが次々に出てくる。人材の育成方法も大きく変化している。それにしっかり対応していかなければ、建設業は時代遅れの産業になる」。そう話すのは、ゼネコンで土木技術者として働く原田聡さん(仮名)。

 中学生のころ、ダム建設の工事現場を見学した際、その壮大さと、多くの人が集まり力を合わせて一つのものを造っていることに感動を覚えた。「自分もこんな大きなものを造ってみたい」と強く感じた。それが建設業へ進む第一歩となった。高校卒業後は、迷わず土木学科のある大学へ進学し、ゼネコンに就職した。

 駆け出しの頃の忘れられないエピソードがある。入社1年目に配属されたのは、山岳トンネル工事の現場だった。「現場の仕事は厳しいのが当たり前。先輩は雲の上の存在で、仕事は背中を見て覚えるもの」と周囲の技術者から聞いていた。それにたがわず、現場の先輩たちは本当に厳しく、日々、背中を見ながら仕事を学んだ。

 そんなある日、現場でコンクリート管理の仕事を任された時に、自分の不手際から職人を怒らせてしまい、「もう帰る」とそっぽを向かれた。恐る恐る先輩に事情を説明すると、「謝りに行くぞ。おまえが努力しているのは知っている」と言われ、一緒に頭を下げにいってくれた。普段は厳しい先輩の温かさに触れた思いがした。期待に応えなければ-。これが仕事に一層打ち込むきっかけになった。

 今年で入社22年目。かつての厳しかった先輩のように後輩を指導する立場になって久しい。しかし、自分の背中を見せて仕事を教えるという昔と同じようなやり方は、今の若者には通用しなくなってきていると感じる。「時代の変化に合わせて人の育て方も変えなくては…」。

 現在担当している土木工事の現場には、若手の男性社員に加え、入社2年目の女性技術者もいる。これまで現場に若手の女性技術者がいた経験がない。女性だからこそ気を配らなくてはいけないこともある。かといって、男性と大きな差を付けるわけにもいかない。どう扱えばよいのか、分からないというのが正直な気持ち。人の育て方はつくづく難しいと思う。

 「どの社員も現場にこだわり、ものづくりの醍醐味(だいごみ)を一人前の技術者として何とか味わってもらいたい。自身の成長を通じてそれを感じられるのがこの仕事の楽しさだ」

 建設業の先行きを憂える気持ちは誰にも負けないと自負している。だからこそ、建設業の将来のために人材育成を原点に返って見直す時期に来ていると思う。

 これまで培われてきた技術や知見を体系化し、現場での人材育成をいかに進めていくか。豊かな国土を築き上げた先人たちの軌跡と、脈々と受け継がれてきた土木技術者のDNAを次の世代に伝えることが、自分の責務だと肝に銘じている。

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