角川武蔵野ミュージアムの外観(角川文化振興財団提供) |
美術館と博物館、図書館という三つの機能を併せ持つ「角川武蔵野ミュージアム」が埼玉県所沢市に誕生した。デザインコンセプトは「地殻建築」。隈研吾建築都市設計事務所が監修し、1200トンに達する花こう岩を外壁に使用し大地のエネルギーを表現した。KADOKAWAと同社が設立した角川文化振興財団が運営し、日本のポップカルチャーを国内だけでなく世界にも発信していく。
□重さを感じない□
ミュージアムの外観は巨大な岩の塊が地面を突き破ったように見える。隈研吾建築都市設計事務所の渡辺傑設計室長は「外からは何階建てか分からない。建築らしくない自然な印象にした」とデザインのポイントを説明する。一般的な建築ではなじみのない厚みのある花こう岩を採用。「(石材を)積み上げると重量感のある見た目になってしまう」(渡辺室長)ため、巨大な壁面を軽く見せるための工夫を凝らした。
石の模様や凸凹を分散するため一つ一つ並べて組み合わせを検討した(鹿島提供) |
外壁は「『粒子感』にこだわり、色彩にメリハリをつけた」デザイン。花こう岩の中でも黒い石に白い筋が入る「ブラックファンタジー」をチョイスしている。四角形の石材を集めて三角形の塊を作り、三角形を61面使って外壁を組み立てた。
石材は中国・山東省の泰山から切り出し、70×50センチ程度の四角形に加工した。表面はノミでたたき割っただけの「割り肌仕上げ」。白斑を荒々しく浮き出させることで、黒と白のコントラストが強調されるようになっている。
渡辺室長らデザイン・設計に携わったメンバーが6回にわたって中国に足を運んだ。壁に取り付ける前の石材を一つ一つ地面に並べ、どう組み合わせるかを検討。近くに置く石同士の出っ張りや色合いをわざとばらつかせることで、全ての石が独立して見えるようにして軽さを表現した。石材の取り付けではあえて継ぎ目の凹凸を残し、見る方向や光の当たり具合で岩肌の表情がダイナミックに変わるようにした。
□メディアミックス体現□
ミュージアムの目玉は4、5階を吹き抜けにした「本棚劇場」。たくさんの本棚を違い棚のように組み合わせて、書店や書斎とはひと味違う立体感を表現した。劇場では本の内容を約3分の映像にまとめたプロジェクションマッピングを定期的に放映している。
同財団の広報担当者は「本の内容を映像や音声とともに一つの物語として組み立てる『メディアミックス』を体現した空間」と説明する。アニメや漫画などポップカルチャーを中心とした展示で来訪者を呼び込み、「これまでにないミュージアムを作り上げたい」と意気込む。
巨大な本棚が特徴の「本棚劇場」(角川文化振興財団提供) |
昨年大みそかの第71回NHK紅白歌合戦。音楽ユニットYOASOBIが本棚劇場で楽曲を演奏した。巨大な本棚に囲まれて演奏する姿がSNS(インターネット交流サイト)で拡散され、存在が知られるようになった。「ポップカルチャーに興味を持ってもらうきっかけになればと思っている」と広報担当者。イベントやライブなど外部からの利用依頼にも積極的に応えていくという。
□新産業の拠点に□
角川武蔵野ミュージアムの建設地は2012年まで、所沢市の浄水場があった場所だ。市が募集した跡地活用事業にKADOKAWAが手を挙げ、文化発信拠点を整備するプロジェクトが実施されることが決まった。市は同社と連携して文化事業や企業誘致を進め、地域の魅力を高める「クールジャパンフォレスト構想」に取り組んでいる。
市経営企画部経営企画課の担当者は「さまざまな業種の先端技術を持つ企業を誘致し、所沢を日本のシリコンバレーのような街にしたい」と力を込める。ミュージアムの斬新なデザインは「地元の建設業界にも着想を与えるのではないか」と今後に期待する。所沢発の文化が生まれ国内外に広がっていく上で、ミュージアムの果たす役割は大きいだろう。
《建築概要》
【施設名】角川武蔵野ミュージアム
【所在地】埼玉県所沢市東所沢和田3の31の3
【発注者】KADOKAWA、角川文化振興財団
【施設規模】S・RC・SRC・CFT造地下2階地上5階建て延べ8万7433m2
【デザイン監修】隈研吾建築都市設計事務所
【設計・施工】鹿島
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