◇現場と人よく見てまとめ上げる◇
都内で土木会社(とび工事)をやっていた叔父から、小さいころに東京タワーや橋梁の鉄骨組み立て工事などの話をよく聞かされていました。自然に土木の道に入ったという感じです。大学では鉄道工学の研究室に所属していたこともあり、就職担当の教授に東鉄工業を勧められました。入社する時に知ったのですが、実は叔父の会社が東鉄工業の協力会社をしていたんです。これも縁かなと思い入社しました。
昭和49(1974)年に入社した五十数人の同期と、代々木オリンピック村で10日間ほど研修を行いました。その時に配属先の希望を聞かれ、「出身の千葉以外どこでもいいです」と答えたのですが、配属先は千葉支店でした。
最初の現場は線路と高速道路を立体交差化する工事で、仮線を敷設してから鉄道橋を造る仕事でした。新たに始まる現場だったので、測量から実務を始めることができました。測量に明け暮れた3カ月。ここで機器の取り扱いや校正、水準測量、平板測量、カーブセッテングなど測量に関する一通りのことを経験しました。測量は誤差の調整が大切だということも学びました。満鉄帰りの大先輩にみっちり仕込まれました。
次に住宅公団の下水本管敷設工事へ移りました。レベル、トランシット、カメラ、A1図面を抱えて一日中現場に出ていました。朝、現場でその日やる仕事の打ち合わせを行い、作業員と一緒に作業をしたり、施工図を描いたりという毎日でした。所長と主任が他の現場も掛け持ちしていたため、現場管理は発注者の監督さんが教えてくれました。「仕事は自分で覚え、自分で判断する」という習慣が付いたのはこのころからです。
体を動かすことが好きだったので、掘削や杭打ち、山留め、溶接・溶断、鉄筋・型枠組み、バックホウやダンプの操作と何でも自分から手を出しました。現場では協力会社の社長や職長、作業員など誰とでもよく話をし、多くのことを覚えました。次第に現場で同じ作業をしていても、無駄に動く人、無駄なく動く人が分かってきます。現場と人をよく見る習慣が自然と身に付いてきました。この仕事は、現場と人をよく見て、誰とも何でも話をすることが大切なんです。
オーケストラの指揮者は作曲者の意思を追求し、適材適所で音を使い分けて完成度を高めていきます。同じように施工者は、工事の目的を理解した上で現場と人をよく見て、適材適所で材・工・機を投入し、安全や品質、施工力、技術力などの向上を図り、工事全体をまとめ上げていきます。若い人たちにはその力を養ってほしいと思っています。
(いのうえ・かずお)1974年東海大工学部土木工学科卒、東鉄工業入社。東京支店副支店長、東京土木支店副支店長兼土木部長兼積算部長、執行役員東京土木支店長、同横浜支店長、常務執行役員埼玉支店長などを経て13年6月から現職。千葉県出身、64歳。
20代後半、力自慢で作業員と共に現場で汗を流していた |
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