2015年6月16日火曜日

【回転窓】文化国家の危機

 仏文学者の桑原武夫が1950年に書いた『文学入門』(岩波新書)は版を重ねて86刷。文学入門書の古典といってよいだろう▼この本で桑原は、戦時中「用のないゼイタク品」「柔弱」などと文学が圧迫を受けたことに触れた上で、文化国家になったこれからも状況次第でまた「醜態をくりかえさぬとは、決して保証できない」と警告を発している▼古い本の描写を想起したのは先日読んだ新聞記事がきっかけだ。〈国立大、文系見直しを/文科省通知〉朝日9日付。文科省が全国の国立大学に人文社会系学部の廃止や分野転換の検討を指示したという▼記事によれば文学部などが標的らしい。国益につながる技術革新や産業振興に寄与する理工系学部と違い、成果が見えにくいのが理由。要は「金もうけの役に立たない」というのである。文化国家の先頭に立つべき文科省によるこの即物的行動に驚きを覚える▼無駄の排除は結構だが、衣食足りて文化・芸術を軽視する国を世界は尊敬するだろうか。反発している大学人は多いようだ。当然だろう。「それ見たことか」。泉下の桑原の声が聞こえてきそうである。


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