解体業への理解は思うように進まない… |
多種多様な職種が集まる建設業の中でも、「解体業」は異色の存在だ。ものを造り、社会に送り出す動脈産業が中心の建設業で、解体業は産業廃棄物処理やリサイクル業などと共に静脈産業として別扱いされがちだ。
「建設産業自体これまで一般社会にきちんと理解されてこなかった。ものを造らずに、騒音や振動、粉じんなどで周囲に迷惑を掛ける『壊し屋』の解体業は、さらに白い目で見られてきた」。首都圏近郊で建築物の解体専業会社を営む加藤淳志さん(仮名)は、解体業への社会的理解が思うように進まず、適正に評価されていない現状をそう嘆く。
高度成長期に集中的に整備されたインフラや建築物が一斉に老朽化する時代に入った。大量のストックを処分・更新していく過程で、解体業の役割が一段と高まるとみた国は昨年、建設業法を改正し、29番目の許可業種区分として「解体工事」を新設した。16年に許可申請の受け付けが始まり、3年の経過措置期間を経て完全施行される。解体工事業の監理・主任技術者に求める資格についても、方向性が固まった。
増加が見込まれる解体工事で、公衆災害や労働災害を防ぎ、現場周辺の環境対策や廃棄物処理などにも適切に対応できる優良な企業・技術者の確保・育成を目指す取り組みだ。
加藤さんは、こうした行政の動きに期待する一方で、「法制度など体裁だけ整えても、家主など工事を発注する側の意識が変わらなければ意味がない」と感じている。実際、現状では解体業の位置付けが法的に整理・明確化されただけで、解体工事の発注方法がどう変わるかなどは不透明だ。
「公共施設の解体工事なら、入札参加資格などに解体業の有資格者と明記されれば差別化も図れる。しかし、解体工事のマーケットの大半は民間施設。専業者の優位性がそれほど高まるとは思えない」
空き家の増加が全国で深刻な問題になっている。対策に悩む地方自治体からは、解体専業者に協力を求める動きが出てきた。解体費への助成制度や、危険な空き家を放置する所有者への罰則、除却の行政代執行などを盛り込んだ空き家対策条例が施行されるなど、問題解決への機運を盛り上げたい自治体側は、解体業者も家主に建物の解体を働き掛けるよう営業活動を打診してくるという。
しかし、エンドユーザーとほとんど接点のない解体専業者が営業に回ったらかえって不信感が増さないか、加藤さんは心配する。
仲間の解体業者で土地や資金を持っているところは、五輪需要を見込んでワンルームの旅館業を始めるなど新規事業に参入する動きが目立つ。せっかくのビジネスチャンスを、解体専業と指をくわえて待つだけでよいのか。焦りも感じる。
「資金も資産もない、しがない解体屋がこれから生きていくには、名実共に社会に認められる業種へと解体工事業が発展・成長することが求められている」と加藤さん。
高齢化で熟練の技術者が減り、若手の入職も進まない業界の先行きは、とても明るいとは言えない状況だ。それでも、建設サイクルの動脈と静脈を結ぶポンプとして重要な役割を担う解体業への誇りは持ち続けようと思っている。
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