2015年9月14日月曜日

【駆け出しのころ】大末建設取締役執行役員・前田延宏氏


 ◇建築の面白さを伝えていきたい◇

 新人のころは現場で先輩からいろいろ教えていただきました。しかし、その先輩たちも忙しく走り回っていましたので、後輩にじっくり教える余裕はなかったのではないかと思います。事務を担当されていたベテランの方にも現場のことをよく聞いていました。

 2年目に配属された現場で、私は墜落事故を起こします。自分が足場から落ちたのです。現場でうまくいかないことがあり、そのことばかり考えて周りをよく見ていなかったのかもしれません。自分でも「よく助かった」と思うほどの事故でした。

 入院して現場復帰するまで半年かかりました。大変痛かったですし、現場や会社に随分と迷惑をかけてしまったという気持ちでいっぱいでした。一方で、見舞いに来てくれる先輩たちに現場のことを聞くと、そのたびに言ってもらえるのは「心配は要らない」。現場では、ここは私がいないとできないと自負するほど一生懸命だったのに、入院している間も仕事は着々と進んでいる。複雑な気持ちでした。

 1995年、阪神大震災が発生した神戸で、竣工間近だったマンションの復旧作業に携わりました。主に基礎部分が対象でしたので、一度埋めた土を掘り下げての作業となり、危険を伴うものでした。

 そんな精神的にも厳しい工事を進めていたさなか、休日を利用して奈良の薬師寺に行った時のことです。お坊さんが修学旅行生たちに、東塔頂部の水煙に笛を吹く天女の姿が描かれていることを説明しておられました。それを聞きながら、千数百年も前にこんな精巧なものを造り上げたことに驚くと同時に、目に見えないところでもきちんとやることの大切さを学んだ気がしたのです。今手掛けている仕事も土の中で見えないが、一生懸命にやらなければいけないと、自分の中でスイッチをもう一度入れることができました。

 建築の仕事には、以前と比べて変わった部分と変わっていない部分があります。必要不可欠なことは変わっていないのですが、やり方が変わってきています。同じ仕事でもやり方はたくさんある中で、後輩にはまず自分のやり方を見せることが大切でしょう。考えてばかりではなく、やってみないと道は開けません。

 現場の所長たちには、自分でテーマを設定して取り組んでほしいと言っています。それは誰から言われるものではなく、自分で考えてこうしたいというテーマです。そうすればマンネリに陥らず、やる気も出ます。自ら考えていくことが、技術屋の向上心です。そして若い人たちには、建築の面白さを伝えていきたいと思っています。

 (まえだ・のぶひろ)1972年西野田工業高卒、大末建設入社。大阪本店建築部作業所長、執行役員生産管理部担当、大阪マンション事業部長、西日本技術グループリーダー、大阪本店技術部長、安全環境品質部担当などを経て、現在は取締役執行役員総務部担当。大阪府出身、62歳。

入社2年目の現場で。事故の経験は、その後の安全管理に生かされた


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