現場を感じれば建設業への見方も変わる |
バブル崩壊後の就職氷河期まっただ中、ようやく内定にこぎ着けたのが建設会社だった。「ゼネコンの事務職に滑り込んだという感じ。高い志があったわけではない」。加賀達也さん(仮名)は二十数年前をそう振り返る。
新入社員研修で管理や営業、現場など事務職の業務を一通り経験し、配属されたのが現場事務だった。「建設の初心者」にとって、仮囲いの中の世界は刺激にあふれていた。「壮大なものづくりのスケール感、技術者・技能者の仕事への誇りに感銘を受けた」。仕事の充実感を味わうにつれ、建設業が担う使命や責任への理解も深まっていった。「事務屋として、ものづくりの最前線をしっかり支える」-。そんな思いが日々の仕事の原動力になった。
現場勤務が10年ほど続いたある日、人事異動を命じられた。行き先は本社の広報部。「現場事務の仕事にやりがいを感じていたし、異動願いも出していなかった。まさに青天の霹靂へきれきだった」という。「正直なところ『現場事務』の職務から外されたという悔しさもあった」と当時の心境を吐露する。
「広報」の仕事ももちろん初心者からのスタート。「広報担当というと、社外に向けて会社の情報を発信する、その程度のイメージしか持っていなかった」。当然、マスコミ対応の業務に就くと思っていたが、任されたのは社内報の編集だった。
ここで、現場事務の経験が意外な形で生きた。編集に当たって、取り上げる事象を社員の言葉で伝えることを大事にしたのだ。「具体的には『一人称』で書くということ。それには現場をしっかりと取材して、従事する社員の気持ちを引き出さなければいけない」。
国内だけでなく、海外の現場にも足を運んだ。飛行機や車、船などを乗り継ぎ、やっとたどり着いたへき地の現場。「こんなところにもうちの社員がいて、汗を流しているのかと感動した。彼らのことを社内にとどまらず、広く社外にも発信したい」と強く思った。
社外広報に携わりたい-。入社以来初めて、自身の仕事に関する希望を表明した。
現在、社外広報を担当して5年目。社内広報との違いに戸惑った時期もあったが、徐々に視野が広がり、今では会社のことはもちろん、建設業をどう社会に発信していったらいいのかと悩む日々だ。「社会が建設業に抱くイメージは決して良い面ばかりではない。現場を少しでも感じてもらえれば、建設業の見方は変わる」。自身も現場に魅了された一人。ものづくりの魅力は絶対に伝わると信じている。
最近、業界では女性の活躍推進が大きなテーマだ。ただ加賀さんは、「女性の技術者や技能者ばかりにスポットを当てすぎではないだろうか」と思っている。現場事務や広報でも女性が働く姿を見てきた。本社勤務となって、営業や総務、経理など女性が活躍する業務はたくさんあると実感している。
「技術系ではない女性でも活躍の場はいろいろある。それをもっと社会に伝えていかなくては。建設業の固定されたイメージとは違う面を発信していくことが大事だ」。そう語る加賀さんは、企業広報の枠を超えた「建設業のスポークスマン」の顔になっている。
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