地元で災害が発生すればいち早く駆け付ける |
「来年は何人の学生を採用できるのか」-。
若くして地場ゼネコンの社長に就いた下畑和也さん(仮名)。地域のインフラの整備や維持管理を担いながら、雇用に貢献し、災害が発生すればいち早く重機とオペレーターを手配して現場に向かう。
「建設業は、地域になくてはならない産業だ」。自分ではそう信じているが、入社してくれるのは、地元志向の特に強い学生に限られてきている。「地域の老舗だと思ってきたが、知名度は低いな」。
県立大学から建設会社を志望する学生は、まず大手ゼネコンを候補に挙げる。「地域で働き、家族を養ってもらうにしても相応の給与水準が必要だ。大手と比較されたら、地場は厳しいさ」。
地元で働きたいと考える学生に、地域に貢献していることや、仕事のやりがいを説き、大学と建設系学科のある高校から、土木と建築それぞれ1人以上の技術系新卒者を毎年確保してきた。しかし、採用が来年で途絶えてしまうのではないかと不安が募る。
今期は経営環境が厳しい。新卒採用だけでなく現役社員への給与の支払いにも不安がないとは言い切れない。東日本大震災以降、自治体からの工事発注が活発だった。民間建築工事もそこそこ受注してきた。だが、今期は様相が一変。懐刀の部下が行った調査によると、地域一帯の公共投資は前年度より20%減少。県の工事は4割近くも落ち込んでいる。
もともと建設投資に占める公共工事の割合が全国平均を上回る地域。公共工事が地域経済に与える影響が大きいだけに、事態は深刻だ。地元の自治体が整備してきた大型インフラが完成し、これからはその予算が別の工事に回ると期待していたら、他の分野に充てられ、投資的経費は落ち込んだ。「地域に必要な建設会社の絶対数が減ったらどうなるのか、分かってもらえているのだろうか」。
「ダンピングが再開したようだ…」。最近、同業者の間ではそんな話もささやかれる。下畑さんの会社では、赤字決算を何とか回避しようと、さまざまな手だてを講じている。全国規模で事業を行っているゼネコンとの関係を強化し、元請工事の減少分を下請工事で補う。量だけはふんだんにあるインフラの維持修繕の工事にどう対応していくか、部下と熱心に議論もしている。
「発注者にも意見を言いたい」。下畑さんは団体活動の中で、ある自治体に改正公共工事品質確保促進法に定められた事項への対応を尋ねた。担当者から返ってきた言葉は「そういうのもあるんだね」だった。
「法律の内容なんて周知されていない。法律に頼るだけでは会社は安泰にならない」と思う。それでも、商工会など経済界の活動で意見を表明する機会は増えている。そうした場で、建設業の必要性を訴え、課題の解決を粘り強く求めていきたいという。
来春、数年ぶりに女性技術者が入社する。下畑さんは今、親交のある県立大学の教授から、建設会社の役割や未来についての講義を行うよう頼まれている。「この地に、こういう会社があって、こんな先輩がいる」。大学生たちへのそんなアピールを地道に続けようと思っている。
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