『生き延びるための作文教室』(石原千秋著)という中学生向けの本がある。そこに〈作文とはウソをつくことである〉と書いてあった▼学校空間はガラスのような壁に囲まれていて、道徳的に正しいことしか認められない。だから、作文でも学校空間が求める答えを書かなければならないのだと。自分の思いと違っていれば、ウソをつけばよいと説く▼一般社会も同じだろう。営業先への売り込み資料であれ、技術提案書であれ、相手側の評価軸を考えて内容を詰めていく。石原氏は、自身も研究者特有の壁の中で生きていることを明かした上で、壁を壊す日を夢見てほしいと語り掛ける▼わが中学生時代に、生徒会長選挙への立候補演説を書かされたことがある。何度も断ったが、担任に無理強いされた腹いせに、「1限目の前に実施している朝学習は無駄だ。当選したら廃止するよう提案する」と書いたら、却下された。仕方なく、きれい事だらけの模範解答を作った。自分の考えとは全く異なるウソ原稿を担任は笑顔で受け取った▼壁の先をどう目指すか。大人の作文の方がはるかに難しいが、そこが面白い。
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