夏場の鉄筋工事は過酷。仕事に見合った待遇が提供できているのだろうか |
◇職人たちに経営者としての覚悟を示す◇
10代から鉄筋工事業に携わり、22歳の時に独立した。最初は同僚と2人で3次下請として仕事をしていたが数カ月後には会社を設立。同僚や後輩など数人の職人を抱えてスタートした。
栃木県で鉄筋工事会社を営む宮前勝さん(仮名)は、今年で会社を設立して24年目になる。「設立時に数人の職人を抱えたといっても、社員ではありません。社員は独立した時の同僚と経理担当者だけ。職人は基本的に一人親方で、仕事があるとグループで現場に行きました」。
経営は順調に推移し、徐々に規模を拡大していった。会社が大きくなるにつれ、1次下請を目指したこともあったが、加工場を持つことに対する経営的な負担などを考え、現場に〝人出し〟を行う2次下請専門でいくことを決めた。
「30代の時に会社をどういう方向に持っていけばよいのか、悩みました。加工も含む1次下請なら今よりも大きな金額で受注できます。ただ、そのためには加工場への投資が必要になります。人出しだけでは次の展開は望めないかもしれませんが、とにかく堅実な経営を選びました」
現在、30人の社員を抱え、外注先が4班ある。毎日50~60人の職人を現場に送り出す。職人の中でも社員になりたいという者はできるだけ社員にした。厚生年金や雇用保険、健康保険などの経営的な負担は大きかったが、何とかしのいできた。職人を大切にする会社だということを示すことが、職人たちのやる気につながると考えたからだ。
だが、2年前にショッキングな出来事があった。長年勤めてくれた職人が日給の高い会社に転職したのだ。「ずっと経営的に厳しい状況が続いていました。工事は何とか切れ目なく受注していたのですが、受注単価が下がり、そのあおりで職人に支払う日給も減らさざるを得なくなっていました」
職人には日給月給制で給与を払ってきた。働いた分だけお金を払う。職人の世界では当たり前の仕組み。ただ、入職してくる若者たちの気質が10年前ぐらいから変わってきているのは強く感じていた。「安定志向が強く、月給制を望む若者が多くいたんです」。
昨年、思い切って職人を含む全社員に月給制を導入した。給与等級を4段階に分け、1週間、1年間の総労働時間を決めて年間の休日カレンダーも作成。もちろん有給休暇も設けた。「大半の職人が最初は難色を示しました。手取りが減ると思ったからです。それで妻帯者は奥さんに会社に来てもらい、説明会も開きました。基本給は低く抑えましたが、残業代や休日出勤などで実質は同額あるいはそれ以上になるように給与を設定したつもりです」
月給制を導入して1年がたつ。周囲からは「職人に月給制を入れたら働かなくなるぞ」と脅かされたが、今のところ職人たちはよく働き、「月給制も悪くない」と言ってくれている。折しも社会保険加入問題などで受注単価が上昇し、それが追い風にもなった。
「会社で長く働いてもらうには、経営者側にもそれなりの覚悟が必要だと思います。月給制を若い職人たちがどう受け止めてくれるか分かりません。ただ、経営者として良い職場環境をつくる努力を怠ったら、そこで終わりです。月給制をどこまで続けられるか分かりませんが、これからもいろいろなことに挑戦してみるつもりです」。
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