◇インフラの評価変える機会に◇
首都高速道路を舞台に世界最大で世界一楽しく絵になるスポーツイベントを開きたい-。東京都墨田区で観光地域づくりなどに携わる墨田区観光協会理事の久米信行氏(久米繊維工業取締役会長)が、こんな夢のある構想を提唱している。「すみだ北斎首都高マラソン&サイクリング」と名付けられたそのイベントとはどういうものなのか。1月に土木学会主催の地方創生シンポジウムでも紹介された構想を久米氏に聞いた。
--構想するイベントとは。
「首都高速道路で行うマラソンとサイクリングの大会で、誰もが楽しんで参加できるのが大きな特徴です。例えば朝のうちはレース、昼からはコスプレを楽しむ人たちが歩き、自転車なら電動ママチャリに乗って参加されてもいい。イベント中、首都高の上には一定の距離ごとに47都道府県それぞれの出店などがあり、参加者は好きな店に寄って休憩できる。まさに『物見遊山』を楽しめる大会です。そしてスタート・ゴール地点はお祭り会場になります」
--なぜ首都高に着目したのですか。
「普段は意識しないで見ているもの、利用しているものでも、見方を変えれば違う評価となります。東京の基幹インフラである首都高も同じではないでしょうか。景観を損ねているなどと指摘されることの多い一方で、外国の方を東京に案内すると、首都高を見て『日本はよくこうしたものを造った』と驚かれます。夜に映える首都高はまさに未来空間でもあり、『美しい』と評価する人もいるのです。私は観光協会の活動にも携わっていますので、これは貴重な観光資源と思うようになりました」
--観光地域づくりにどう生かしますか。
「日本で今、多くの方々が集まるのは参加型のイベントです。いつもは車が走る空間の首都高に上がり、走ったり歩いたりできるのは大変に面白いと興味を持ってもらえるはずです。実際に新しい橋やトンネルが完成し、その開通前に歩けるイベントなどは大人気です」
「墨田区は葛飾北斎ゆかりの地であり、昨年11月には『すみだ北斎美術館』がオープンしました。美術館のある地元をもっと盛り上げたくて今回のイベント構想を提案させてもらっていますが、墨田区に限らず、東京、首都圏の観光や経済にもインパクトを与えてくれるイベントになると考えています」
--実現には課題も多いのでは。
「毎年2月に開かれる東京マラソンは大人気ですが、警備は大変だと聞いています。これに対して首都高マラソン&サイクリングは高速道路の上での大会なので警備がしやすいと思われます。当然、危ない箇所の対策は必要ですが、あくまで自己責任での参加を前提とします。そのための契約書も出してもらいます」
「観衆がいないと盛り上がらないといった意見もありますが、走らなくても観衆として参加する人たちがいてもいいと思います。千鳥ケ淵の辺りだけ、あるいは東京タワーが好きなら芝公園の辺りだけを歩いて下りてもいいでしょう」
「参加費や広告費なども含めて事業性は十分にあると思います。日本ではインフラのメンテナンスコストが大きな課題になっています。私はこの大会を通じたクラウドファンディングでメンテナンスコストの一部も出せると考えています」
「協力者には小さなプレートを設置できるようにします。そこには自分だけでなく子どもや孫の名前が書かれている。神社や寺に寄進者の名前の入った石などがあるのと同じです。子どもが書いた絵でもいい。自らの貢献が見える化されたストーリーのある参加型イベントであれば、賛同いただける方は多いはずです。応分の負担をしながら楽しみ、しかも子どもや孫に自慢できる。町内会でも自慢げに話せる。これが大切です」
--今後の展開をどう考えていますか。
「このイベントが実現したら世界中の老若男女が参加すると思います。首都高がお祭りムード一色になり、皆が笑顔になれるイベントをぜひ実現したいと思っています。私たちのために役立っているありがたいものであるのに、なかなかそう思われないし見られない。実はそれが美しいものであり、楽しい場にもなることを多くの人たちに知っていただきたい」
「参加することで、インフラを守っていくのも自分たちの役割だという意識改革にもつながってほしいものです。日本には素晴らしいインフラが多くあります。各地で観光地域づくりに役立つさまざまな新しいイベントが企画できるでしょう」。
(くめ・のぶゆき)1963年東京都墨田区生まれ。慶応大学経済学部卒。イマジニア、日興証券を経て家業の国産Tシャツメーカー・久米繊維工業社長に。現在は取締役会長。明治大学商学部講師、東京商工会議所起業・創業支援委員、同墨田支部副会長(IT分科会)、新日本フィルハーモニー交響楽団評議員などを務める。『すぐやる技術』『入社3年目までの仕事術』『すぐやる人だけがチャンスを手に入れる』など著書多数。
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