インバウンド(訪日外国人旅行者)の増加を追い風に、札幌市内でホテル建設が加速している。
昨年5月には、京王電鉄が北海道初進出となる新ブランドホテル「京王プレリアホテル札幌」の計画を発表するなど、昨年1年間で8件の開発計画が具体化した。
ホテル建設ラッシュに湧く建設業界だが、建設会社の中には「近いうちにホテル建設は終息するのではないか」と、先行きを懸念する声もある。活況はいつまで続くのか、ホテル建設の動向に注目が集まっている。
札幌市内では1月現在、13件のホテル建設が進行中だ。計画されているホテルの規模は延べ6000平方メートル前後の中規模プロジェクトが中心。規模の大きい案件は、京王電鉄の「京王プレリアホテル札幌」(延べ1万5805平方メートル)やJA三井リース建物とサンケイビルの「札幌市中央区南5条計画」(1万1067平方メートル)などが1万平方メートルを超える。
札幌市内でもホテル業者が「採算性の高いホテルにできる」として特に進出を狙うのが、JR札幌駅と市営地下鉄南北線中島公園駅に挟まれた、大通公園やススキノを中心とするエリアだ。札幌市で効率良く運営できるホテルの規模は120~150室程度とされており、用途地域などで指定されている容積率などから見た場合、この規模のホテルが建設可能な場所は大通公園・ススキノエリアに限定される。
旺盛なホテル建設の背景にあるのが、インバウンドの増加だ。札幌市内でホテル開発を進める企業の多くが、進出の動機として「増加し続けているインバウンドへの対応」を真っ先に挙げる。
◇土地高騰やスタッフ不足に懸念の声も◇
札幌への観光客数は国内外問わず増えており、特にインバウンドの増加は著しい。国土交通省の統計によると、新千歳空港の利用者数は2011年度以降5年連続で増加し、15年度の利用者数は2000万人を突破。このうち国際線利用者数は全体の1割程度にとどまるものの、増加率は18~35%で推移しており、国内線の増加率1~9%程度を大きく上回る。
インバウンドの増加によるホテル需要の高まりを受け、ホテルなど観光関連の施設開発は急増。建設各社は工事受注を狙うが、中には現在の建設ラッシュがいつまで続くのか、先行きを不安視する声も少なくない。
「活況を呈しているホテル建設だが、今後は札幌都市部での新たなホテル建設は、より難しさを増していくだろう」。そう推測するのは地元建設会社の民間建設営業担当者だ。
担当者はホテルスタッフや建設地の不足などを理由に今後、ホテルの建設ラッシュが終息する可能性を指摘。その上で「ホテル経営はホテルを建設する業者と別に、ホテルオペレーターが行うケースが多い。ホテルスタッフの不足は深刻で、安定して人材が確保できるオペレーターは多くない。加えて札幌中心部ではホテル建設に適した土地の価格が高騰しており、それがホテル建設へのハードルを一層高くしている」と、ホテル業界が抱える課題を分析する。
札幌への進出を狙うホテル各社が人材や土地の争奪戦で苦境を強いられる中、さらなるインバウンドを見込んで複数棟のホテル建設を打ち出しているのが、外国人をメインターゲットに設定しているホテルだ。
22日に札幌市の狸小路商店街沿いで北海道1号店となる「からくさホテル札幌」を開業したザイマックスは、同じ狸小路商店街沿いで早くも、2棟目のホテルを計画中だ。
ザイマックスの佐藤亮祐執行役員からくさホテル事業部長は「インバウンドはまだまだ伸びる余地があり、今後も札幌でのホテル建設は続くだろう」と強気に見通す。「建設ラッシュで札幌市内の客室数そのものが増加しても、外国人観光客のニーズに対応した客室は圧倒的に不足している」と問題点を指摘。需要に応じた客室を提供することで稼働率の高いホテル経営を目指す考えだ。
東南アジアを中心にホテル運営を展開しているレッド・プラネット・ホテルズ・リミテッド傘下のレッド・プラネット・ジャパンは、ススキノ周辺で2棟のホテルを建設中だ。同じ都市に同じコンセプトのホテルを複数棟建設する試みは、札幌が初めてという。
同社の王生(いくるみ)貴久取締役兼最高財務責任者は「当社は東南アジアで知名度が高く、今後も東南アジアを中心に多くの外国人観光客が(北海道を)訪れると見込んでいる」と話し、2棟のホテル開業に前向きな姿勢を見せる。
「外国人観光客のトレンドは『体験』。『爆買い』と呼ばれる現象が起きた東京と違い、札幌には買い物だけではなく食事や気候、ウインタースポーツといった体験型の観光がある。魅力的な体験を提供できる都市はリピーターも多い」と外国人観光客から見た札幌の魅力を分析する。