◇いろいろな経験積み視野広げる◇
大学進学時に建築を選んだのは特別な理由があった訳ではありませんが、漠然と「ものづくり」には関心がありました。大学で意匠を学び、89年に入社。最初は何も分からず、右往左往する毎日でした。職人さんに質問されても即答できず、先輩社員や上司にその質問を伝え、答えをまた職人さんに伝えました。12階建てのマンションの建築現場では最上階から現場事務所にいる先輩に聞きに行くため、1日に何往復もしました。
こうした繰り返しの中で、現場で必要な知識を見て、聞いて、体で感じ、少しずつ覚えていきました。工事が終盤になり、足場が取れ、これまで造ってきた建物の容姿が見えた時の感動は今も忘れられません。完成後、家族を連れて現場に行き、この建物を建設したんだと言ってよく見せたものです。
建築技術者としての転機は、33歳の時に担当した長崎県対馬の小・中学校合同施設工事です。数年前から現場所長になっていたのですが、まったく知らない土地に単身で乗り込み、下請業者探しからするというのは初めての経験でした。
電話帳から設備業者をまず探し、その業者から鉄筋や型枠など各専門工事業者を紹介してもらいました。職人が足りない時は支店にも応援を要請し、資材の手配も綿密な工程表を作成し対応しました。ただ、ある時、資材を積んだ船が座礁して届かないこともありました。
それ以前にも愛知県内で現場所長を担当させてもらいましたが、その時は本社の支援があり、何よりも先輩方が長年築いてきた協力会社との強い信頼関係がありました。その大
きな土台の上で、仕事をさせてもらっていたことが、この現場に来てよく分かりました。
同時に近隣住民とのコミュニケーションの大切さも知りました。建設する施設は地元の漁師や農家の子どもたちや孫が通う学校です。それだけにみなさん親切にしてくれて、単身の私を夕飯にも誘ってくれました。そこでいろいろな話ができたことも思い出深いです。
現在、建築部門の現場と営業部門の両方のマネジメントを担当しています。営業を担当して、分かったことがたくさんあります。
現場担当者は図面を見ながら、与えられた予算内で良質なものを効率的に造ることが求められます。一方、営業担当者は細い糸のようなものを見つけ、そこから少しずつ手繰り寄せ、工事を受注します。苦労の多い仕事です。
専門性を極めるということも大事ですが、従来の殻を破って新たな業務に挑戦し、経験することも大切です。それによって見えていなかったものが見え、新たな視野が広がります。若い人たちにはぜひいろいろな経験をしてほしいと思います。
(おかだ・なつき)1989年愛知工業大工学部建築学科卒、徳倉建設入社。建築現場を担当し、06年本店建築部工事長、09年同建築部副部長、12年副本店長兼本店建築部長、13年執行役員副本店長兼本店建築部長を経て、17年常務執行役員建築事業本部本部長代行建築全般担当。名古屋市出身。51歳。〈建築事業本部長代行建築全般担当〉
自分が建設に携わった建物は、必ず家族を連れて見せに行っていた (長崎・対馬で) |
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