文豪トルストイが最晩年に、自身の言葉や古今東西の聖賢の著作からの名言・箴言(しんげん)を集め、1日を1章として1年分を編んだ『文読む月日』。その冒頭、1月1日の章はこの言葉で始まる▼〈第二義的なもの、不必要なものを多く知るよりも、真に善きもの、必要なものを少し知るほうがよい〉(北御門二郎訳、ちくま文庫)。馬齢を重ねても、新しい年の始まりには気持ちが多少は改まるものである。読者の中にも、元日には一年の計としてさまざまな言葉を胸に刻んだ方がおられよう▼トルストイの最晩年といえば19世紀末から20世紀初めにかけて。100年以上前の帝政ロシアと今の日本とでは比べようもないが、この言葉が色あせないどころか核心を突く警句として響くのは、長い時を隔てても人の営みは案外変わらぬものだからかもしれない▼情報が洪水のごとく氾濫するこの時代。真実も虚偽もネットを通じて瞬時に世界を駆け巡る。まさに玉石混交。第二義的なもの・不必要なものの何と多いことだろう▼押されもせず、流されもせず、真に善きもの・必要なものを少し知る。年の初めにそんな目標を立ててみた。
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