2018年2月15日木曜日

【現代美術家が都市の未来像提案】東京・表参道で会田誠展開催中

 現代美術家が描く都市のビジョンとは-。大林財団が建築や都市計画の専門家ではないアーティストに都市の未来像を提案してもらう野心的な試みを始めた。第1弾のアーティストに選ばれたのは、性や政治などのタブーに切り込む過激な表現で名高い会田誠氏。開催中の展覧会「GROUND NO PLAN」で披露された作品の数々も、一般常識を覆し、発想の転換を迫るものばかりだ。

新宿御苑大改造計画
展覧会は大林財団の助成事業「都市のヴィジョン」の初回企画。東京・表参道の特設会場には、絵画、模型、文書、映像などが所狭しと展示されている。すべての作品が都市や建築のあり方にテーマを絞って制作された。

 会場に足を踏み入れてまず目に飛び込んでくるのは、誇大妄想的な作品群。会田氏が「大林組の手を借りないとつくれない、あるいは大林組も手に余るような大げさなプラン」と話す作品の数々だ。日本列島の地形や風土を凝縮させた立体庭園を構想した「新宿御苑大改造計画」、東京都心のビル街の上空に英語を公用語とする要塞(ようさい)都市を造る「NEO出島」、日本橋上空の首都高速道路のさらに上空に橋を架ける「シン日本橋」など、さまざまなドローイングやジオラマが並ぶ。
「セカンド・フロアリズム」ゾーンの展示

 展示された作品はまるでひねりの効いたギャグのようで、鑑賞者の笑いを誘う。ただ会田氏自身、それだけで展示物を満たしていいのかどうか悩んだという。心の奥底をのぞき、まじめに考えれば考えるほど、浮き上がってくるイメージがあった。それが海外の都市部にあるスラムや、かつて敗戦後の焼け野原に築かれたバラックだった。スラムやバラックの負の側面も理解しているが、正直言えば好き。そんな「もやもやとした願望」に過ぎないイメージの断片をつなぎ合わせ、どうにか作品化させたのが「セカンド・フロアリズム」と銘打ったインスタレーションだ。

 2階建て主義という造語には、どんな意味が込められているのか。その理念を殴り書きした「セカンド・フロアリズム宣言草案」に目を通すと、「快適なスラム」「クオリティーとしてスラムに戻るのではない。規模としてスラムに戻るだけだ」という字句が並ぶ。ブロック玩具などを引き合いに出して新たな工法や素材も提案している。

 会田氏は言う。「めいめいがテキトーに、素人でもつくれるようなもの。ゼネコンや建築家、大工さんでさえいらない世界を夢想した」。そうした作品づくりに自分を駆り立てた気持ちを「真心」と表現する。現実に反映させる提案としては不完全だとしても、都市に生きるあらゆる人々への優しい視線が感じられる展示となっている。

 □会田誠氏インタビュー/真理を突く上質な「ボケ」できた□


 --都市、特に東京の現状に対して複雑な心境がうかがえた。

 「東京を良くすることを考えたところで、僕の中からはいいプランは出ない。そう結論付けたのが、『NO PLAN(無計画)』というタイトルになったゆえんだ。これは敗北宣言にほかならないものの、僕が建築や都市計画の専門家、要は玄人の方に寄っていっても、そこには到達することはできない。それなら無責任な何も知らないバカとして、当てずっぽうに的外れなことをやるのが自分の仕事だと感じた」

 「まともなことは一切行わず、言わないと覚悟を決めた。もしかしたら、現実を知っているがゆえの玄人の限界を、ほんの一部かもしれないが突破できることもあるのではないか。そこにいちるの望みをかけた」

 --セカンド・フロアリズムは現実の都市で実現できるのでは。

 「セカンド・フロアリズムは実際にあるといえばある。明らかに建築基準法違反の建物とか、誰かが勝手につくったものとか、そういうのを見るとついにんまりしてしまう。いいなあと。理想を語れと言われると、管理する立派な大人がいなくなった『無法者のワンダーランド』のようなものが頭に浮かぶ。けれども、実際そんなところに暮らしていたら、半日で逃げ出したくなるかもしれない」

 「この展覧会は全体が不思議な矛盾に満ちている。誇大妄想的な作品に限らず、まじめに考えた作品も同じように矛盾をはらんでいる。それは狙ったことでもある。無法地帯や廃虚、何ものかが勝手に雑草のように生えてくる世界へのあこがれもあるが、100%本気でもない。僕の展覧会を見る時のこつは、決して本気で見ないことだ」

 --建設関係に展示会をどう見てほしいか。

 「今回の作品は多くが『お笑い』、その中でも『ボケ』になっている。でも、ただのボケでは駄目だ。明らかに間違っているのだが、その中に一面の真理を突くものがある。そんな上質なボケができた時、自分の仕事ができたなと思う。全部が成功したわけではないが、いくつかはわれながら上質なボケができたという手応えがある」

 「建設関係のプロに胸を張ってみせるような内容ではないが、美術家としては誇りがある。僕の考えでは、美術というのは現実から遊離した別のレイヤー(層)にあるものだ。ぜひ、建築系の人たちにも来てほしいが、ちょっとした気分転換にどうぞという気持ちだ。この展示会は徹頭徹尾、冗談。現実から遊離したレベルの表現だが、こんなのもたまに見ると気分転換になると思う」。

 《開催概要》

 【会 場】東京都港区北青山3の5の12、青山クリスタルビル地下1・2階

 【日 時】=2月24日(土)まで、午前10時30分~午後6時30分(金曜日は午後7時30分まで)

 【料 金】無料

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