2018年2月6日火曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・190

お客さんが楽しく優しい気持ちになれる。そんな仕事を目指している
 ◇「お金=幸せ」では満足できない◇

 5年前、10年間務めた会社を辞め、4代続く家業の専門工事会社に入った安浦良行さん(仮名)は、「お金=幸せ」では満足できる人生にはならないという思いが強い。いずれ社長に就くであろうこの会社で、「お客さんが楽しく優しい気持ちなれる」ような仕事ができれば、それが社員のやりがいにつながると信じている。

 家業を継ぐと考えたことはなかったし、社長である父親とそんな話をしたことは一度もなかった。父親は、いろいろな意味でしがらみも多い家業を継ぐことのつらさを知っていたからこそ、息子に同じような思いをさせたくなかったのかもしれない。

 大学では部活でラグビーに明け暮れ、その流れで大手スポーツメーカーに就職した。創業者の「子どもの心と体を健全にする」という言葉に共感した。スポーツを通じて子どもたちに愛を育むという精神は素晴らしいと思ったし、ラグビー部の後輩へのサポートもできると考えた。

 就職後は全国チェーン店を顧客にした営業から始まり、商品開発、海外研修制度を利用した米国への赴任など、10年間にさまざまな部署、仕事を経験させてもらった。やりがいも感じていた。

 そんなある日、父親から「お前が入る環境は全て整った」と言われた。唐突なその言葉に驚きもした。しかし、不思議と迷いはなかった。自分を育て、ここまでしてくれたことへの感謝もあった。二つ返事で「行きます」と答えた。新たに始めることになる家業の仕事でも、スポーツメーカーで目指した子どもたちを育むことに取り組めるという確信もあった。

 新たな道での第一歩は、現場で職人の手もととなって働くことだった。ほこりにまみれ、夏は暑く、冬は寒いという厳しい環境下での仕事だったが、そこで「うちの会社の源泉は、職人の皆さんにある」ということを実感することができた。だから、1年半の現場経験を経て、現場管理の仕事をするようになってからも、職人が働きやすい環境の整備などには力を入れて取り組むように心掛けている。

 100年続く伝統ある会社が培った技術・技能は揺るぎない。しかし、これからも続く会社の発展のためには、伝統プラスアルファの何かが必要だ。「老舗であっても時代の流れを逃さず取り込むことが重要だと思う」。そう考えて今後は、新たな技術も積極的に取り込んでいきたいという。

 加えて、誰もが安心して働けるような会社にしたいという思いも人一倍強い。人材の多様化は重要だと考えている。女性や高齢者が活躍できるようにするだけではない。「性的少数者(LGBT)、障害のある人などを含めてやりがい持って働き、それぞれの個性や長所を引き出せるようにしたい」。これを実現するには、多くの困難を伴うだろうし、不安もある。

 子どもたちの愛を育み、楽しさや優しさを提供できる会社として、本気でダイバーシティー(多様な働き方)に取り組みたいと考えている。

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