2019年12月9日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・242

10年後の現場監理は全く違っているだろう
という思いを強く抱いている
仕事のやり方を根本的に変えなければならない-。ゼネコンの技術部門で働く阿部康治さん(仮名)は、建設現場の生産性向上策i-Constructionの推進部署へ配属されてから、そうした意識をより強くしている。

 テレビや新聞を見ても「働き方改革」が大きく目立つようになった。若手を中心に、休みが増えて当然というように意識も変わっている。政府方針という段階はとっくに過ぎて、社会的なうねりのように感じている。だが、建設業界では週休2日制にすら行き着いていない。できることはすべてやらなければいけない。i-ConやICT(情報通信技術)は、ツールの一つに過ぎないが、使いこなせるかが大きな分かれ道になる。

 かくいう自分も意識が変わったのは最近のこと。今の部署に来る前も、便利なアプリなどがあるとは聞いていたが、わざわざ覚えようとは思わなかった。だが、ビジネスチャットであれば同じ時間に現場で集まるような場面を減らすことができる。測量や書類作成を効率化できるシステムもどんどん出てきている。各種ツールを組み合わせていけば、より大きな相乗効果が出てくる。

 一つ一つの効率化は、微々たるものかもしれない。だが、毎日の作業を1分短くできれば、年間で数時間の短縮になり、それが社員や協力会社の大多数に広がれば全体では大きな力になる。「新しい働き方を作っていく起爆剤にする」。まずは自身がそう信念を持って取り組んでいる。

 例えば、大量のコンクリートを施工する現場であれば、少しでも多く早く打設できないかに頭を絞る。1回当たり10秒間の短縮でも、打設回数が1万回であったとしたら、その効果が積み重なり現場の利益を押し上げる。現場もi-Conもやろうとする方向性は同じだ。食わず嫌いのシニア層には、そう言って説得している。

 振り返れば、入社してからの約30年で、仕事のやり方は激変した。入社当時は文書も図面も手書きだったが、もうすぐ紙に印刷すらしない時代が来るだろう。「現場の親方のような仕事をするつもりで入ったのにイメージと全然違った」と苦笑いで話すが、悪いこととは思っていない。

 とはいえ一抹の不安もある。ツールに頼れば頼るほどブラックボックス化していく点だ。今でもコンピューターで高度な計算モデルを解いて方針を決めるケースなどは多いが、ノウハウや経験値のようなもので正しいかを判断している。現場で写真を撮影して一瞬で図面になって出てくるとしたら、それは非常に便利。だが、何か不具合がある時に見抜けなければ、後々に悪影響を及ぼしかねない。

 阿部さんは、技術者がデータ入力のオペレーターのようになってしまったら、安全かつ高品質な構造物は造れないと思っている。人工知能(AI)の活用が進めば進むほど、技術者特有の勘のようなものが、より重要になってくる。若手にそうした素養を高めてもらいながら生産性を高める道が、必ずあるはず。そう思って模索を続ける。

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