2019年12月16日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・243

作業にかかる時間を客先には事前に伝えるようにしている。
時間を守りながらも工事品質に妥協は許されない
◇このまま続けていくよ◇

 配線工事会社で一戸建て住宅のアンテナ設置をメインに担当している秋葉雅司(仮称)さん。大手家電量販店の協力会社に所属し、注文を受けて現場の住宅に向かう毎日だ。

 「こういう時代だから」と前置きした上で、「分かりやすい説明と丁寧な作業を心掛けている」とモットーを語る。作業の前にはアンテナの最適な設置場所や向きを確認し、地上波の増幅装置など必要な機器をそろえ、作業の内容を注文主に説明する必要がある。ポイントは電波を受信し、テレビがしっかり映るかどうか。結果が分かりやすく、短時間の作業であっても手厚い謝意を示してくれることが多い。

 だが最近は「トラブルが多くて」とこぼしてしまう事態が相次いでいる。築30年以上の家が多い住宅地で広い敷地にある老朽化した家屋を解体し、2区画で分譲された新築住宅で作業に臨んだ同僚は、アンテナの最適な位置を決めるのに時間がかかってしまった。「出掛けるので早くしてほしい」。訪問前、作業に必要な時間は伝えていたが、屋根の上で危険を伴うにもかかわらず、同僚は慌ただしく作業をせざるを得なかった。

 屋根の形状が特殊だったりデザインにこだわって設計されたりと、住宅のタイプはさまざま。屋根ではなく壁に設置するアンテナもある。大規模な造成工事が行われた新興住宅地からは、アンテナ設置の注文が相次ぎ、1日で数軒の作業をする日も少なくない。地域には複数の協力会社がある。墜落・転落対策は欠かせないが、家電量販店の担当者によっては工事の品質以上に作業量を評価する担当者がいる。

 電線からの引き込み線を雨どいの中に隠せるにもかかわらず、作業を早く終わらせようと、あえて屋根の上をはわせたであろう業者に当たった家屋を見ると、他社の施工ながら「申し訳ない」と、向かいの屋根の上で思うことがある。

 苦労は多いものの、やりがいもある。「目の前のお客さんに感謝してもらえる」のが一つ。二つ目は「自分が暮らす街で、人の温かさを感じられる」こと。コンビニエンスストアで休憩していると、「あ、アンテナのおじちゃん」と言って、作業で訪れていた家の幼児が手を振っていた。すれ違った時に会釈してくれた人の車を見て、数日前に工事した家の車だったことを思い出した。焼き芋に高価な煎茶を添えて、娘夫婦や孫の話を楽しそうに語ってくれた老夫婦もいた。

 作業用の車には長いはしごを積んでいる。新築した家のベランダから屋根にはしごを掛けて作業していた際、はしごが倒れ、壁を傷付けてしまった。叱られると思ったが、「けががなくて良かった」と心配してくれた。聞くと職種は違うが同じ建設関係の仕事に就いている仲間だった。9月の台風15号の後は、近所の家の屋根に上ってブルーシートを敷いたり、ベランダに引っかかった飛来物を撤去したりするのを手伝った。大げさすぎるくらいに喜んでくれた人がいて、かえって恐縮してしまった。

 「自分が暮らす町の仕事だから頑張れる」と思っている。「たぶんこのまま続けていくよ」。

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