2016年3月22日火曜日

【働き方改革の最前線を追う】KMユナイテッド、「1・2人前」の塗装職人育成

◇社員化と週休2日で定着図る◇

 大阪市を拠点とする建築塗装の竹延(竹延信会長兼社長)の全額出資で13年1月に設立したKMユナイテッド(大阪市、竹延幸雄社長〈竹延副社長〉)が、女性活躍やダイバーシティー(人材の多様化)の取り組みを評価されて公的機関などが主催する各賞を相次ぎ受賞している。

 「商品は人」(竹延社長)と言い切る同社が就職希望者に求めるのは、前向きに仕事に取り組むこと。育児中の女性でもやる気さえあれば、短時間勤務を含めた多様な働き方を認める。

 独自の分析を踏まえて構築した教育システムによる「1・2人前」の職人育成も注目される。

 ◇生産性高め多様な働き方に◇

 2月26日に優秀賞を受賞したワーキングウーマン・パワーアップ会議(事務局・日本生産性本部)の「女性活躍パワーアップ大賞」では、経験を問わない女性の採用と躍進、工法改善による生産性向上の実現が評価された。

 3月16日に経済産業大臣賞を受賞した「新・ダイバーシティ経営企業100選」(経済産業省)では、「男性・日雇い勤務中心の業界の常識を一から見直す職場づくり」と「徹底した教育による未経験者の早期戦力化で生産性を強化」を進めながら着実に利益を上げていると認められた。

 今年で創業66年を迎える親会社の竹延は、大手ゼネコンなどが官公庁や大手民間企業などから請け負った幅広い物件の塗装工事を下請として施工。一定規模の売り上げを確保しながら、元請志向を持って展開するタイルや防水などを含めたリフォーム・リニューアル工事などでも業容拡大と収益向上を図っている。

 竹延信会長兼社長の娘婿の竹延幸雄氏が入社した03年時点で15億円だった竹延の年商は、今期(16年8月期)で倍増の30億円に初めて到達する見通しだ。

 竹延の事業が拡大する中でKMユナイテッドを立ち上げることにしたのは、採用した若者がなかなか定着しないという業界全体の課題を実感したことがきっかけという。そうした問題を何とか打破したいという強い思いがあったが、半世紀を超える歴史を持つ竹延本体は人事制度も確立しており、250人に上る職人がそれぞれ抱くニーズをすべてかなえられるような多様な働き方を実践することは難しい。

 竹延でトップクラスの技能を持つベテラン職人の力も借りながら、やる気のある人材を少数精鋭の形で育成していくことに特化した子会社を設立することにした。職人はすべて「社員」として雇用。若者が定着するのに不可欠とされる「週休2日」を実現し、子育て中の女性に配慮した「時短勤務」も認める。この春からは社内に「キッズルーム」も開設するなど、安心して働ける環境整備に余念がない。

竹延社長㊧と桧垣副社長
竹延氏がKMユナイテッド社長としてまず試みたのは、職人の作業内容を分析することだった。そこから分かったことは、専門職種にならなくても対応可能な領域が思った以上に多いこと。職人は「10年で一人前になる」などといわれるが、すべての領域が、できるようになるまでに10年を要するわけではない。

 そこで「最初の3年間」「次の3年間」、さらに「その次の3年間」と工程を切り分け、各工程に特化した教育システムを構築することで、効率的で効果的な人材育成に取り組むことにした。工程ごとに1・2人前となるように技能を教え込んでいけば、より広い視野で効率的に施工を手掛けられる人材へと育っていくという考え方だ。

育成過程では、富士教育訓練センター(静岡県富士宮市)を利用するほか、取引のあるメーカーに教育目的で出向かせ、カタログに掲載されている商品を使った施工を覚えさせる。

 メーカーにとってみれば、ラインアップした商品を使った施工ができる職人がいることが販売増加にも寄与する。メーカーと施工者である同社の双方のニーズが合致したやり方だ。こうした取り組みが奏功し、難易度の高い案件の受注にもつながっている。

 シンナーを使った塗料を改善してほしいという女性職人の声を生かして開発した水性塗料は、施工現場の環境改善にも大きく寄与。女性活躍や多様な働き方を追求する中で、人を大切にする同社の思いにかなう商品の販売にも力を入れる。こうした同社の働き方全般のマネジメント役として、竹延氏の旧友で大手メーカーでの勤務経験もある桧垣知宏氏を副社長として3月に迎えた。

 30人の社員のうち、職人は女性7人を含めて25人。前期に1・8億円だった売上高は今期(16年6月期)4億円の見通しだ。「職人数は最大でも50人」にとどめ、年商5億円程度の業績を安定して確保できる体制を築くのが今の目標だ。

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