2016年3月10日木曜日

【生産性向上へICT導入】国交省・池田豊人官房技術審議官に聞く

 本格的な少子高齢社会の到来に備えて政府全体で取り組んでいる生産性の向上。建設業界においても、石井啓一国土交通相の掛け声のもとで、「i|Construction」が始まった。調査・設計から維持管理・更新という建設工程のすべてのプロセスにおいて最適化を目指すというものだ。その中核となるICT(情報通信技術)の活用について、同省の池田豊人官房技術審議官に話を聞いた。

 ― i-Construction導入の目的とその効果をどう見る。

 「少ない人数で多くの成果を上げるという生産性の向上が目的です。建設業に限らず全産業同様ですが、本格的な少子高齢社会になると担い手の不足という問題が切実になります。そこで、今のうちに少ない人数でより多くの出来高を上げる仕組みを作ることにしました。担い手不足というピンチを、イノベーションのチャンスととらえ、民間企業の方々と一緒になって取り組みたいと思います」

 「たとえば、トンネル工事はこの30年で技術革新が大きく進みました。東海道新幹線と北陸新幹線のトンネル建設工事に携わった人数を比較すると、10分の1くらいに減りました。生産性が10倍に高まったといえます。一方で、コンクリート工・土工は人数に変化がありません。逆に今後可能性が大きい分野といえ、ここにメスを入れることが、生産性向上には不可欠です。その時にICT(情報通信技術)を活用すれば、生産性が大幅に向上すると考えています。土工の現場では、丁張りはオペレーターとその補助の3人1組で業務に当たります。ICTに置き換えることができないでしょうか。また、油圧ショベルやブルドーザーなどの建設機械は、設計図面や地盤などの情報を3次元で入力しておけば、オペレーター1人でコントロールできます。作業自体の試行錯誤も減るので、省力化だけでなく効率も大幅に高まると思います。ドローン(無人航空機)で航空測量を行えば、3次元データの取得はそれほど困難な作業にはなりません。データは電子化されているので出来栄えと図面との比較も容易ですし、なにかと批判の対象になる書類も多さも解消されると思います。この何十年と変わっていなかった土工現場の風景が一新されるでしょう」

 「小規模事業者を中心に縁遠いという方も多いと思います。i-Constructionは難しいものはなにもなく、気持ちの踏ん切りだけです。使おうと決めればできますし、『なんだ、こんなものだったのか。もっと早くやっていれば良かった』と思えるようなものばかりですので、受発注者双方とも、一歩踏み出すべきです。『土工の現場風景が変わったね』とみんなの口から出るようになってほしいと思います」

 ― これまで手つかずだった理由はどのあたりにあるのか。

 「このところ労働者数が減っていますが、建設市場も縮小傾向にあったので、労働者不足問題が顕在化していませんでした。生産性を高めようというインセンティブが働かなかったわけです。必要は発明の母といわれます。トンネル工事で生産性が向上したのは、施工時間がかかりすぎていたのがきっかけです。作業員が減ったことが、労働災害の減少にもつながりました。ICT建機の導入が進めば、重機の周辺に作業員がいなくなるわけですから、安全性の向上にも役立ちます。生産性が向上すれば、一人あたりの収入も増えますので、明るい未来といえます」




 ― 国交省では従来、CIMに取り組んできた。

 「i-Constructionの一要素として取り組んでいます。RC構造物の配筋図面が従来の2次元では、鉄筋同士が干渉して組めないというケースが生じがちでした。作業が手戻りとなって非効率的だったわけです。これが3次元だと、鉄筋どうしの干渉による手戻りはほぼ解消できる見込みで、国交省では16年度、3次元モデルを建設現場に導入するためのガイドラインをまとめる予定です。施工現場においても、クレーンが電線・架線といった障害物を切断する恐れがありますが、3次元モデルとしてあらかじめデータ入力しておけば、可視化でき安全で効率的な施工に役立ちます」

 ― ロボット開発にも取り組んでいる。どういった分野に期待するのか。

 「メンテナンス分野や災害対応に期待しています。道路構造物は5年に1回は点検を行うことになっています。ところが、桁下まで数十メートルという橋梁も多く、点検要員が目視のために近づくのも困難な場所があります。昔は望遠鏡を使っていたのですが、構造物の健全性をより確実に点検するために近接目視する原則に改めました。これも将来的には人手不足の影響を受けると思いますので、技術の力で補えないかと新規開発に期待しています。近接目視での点検に大きくかじを切ったばかりですが、映像の技術も進化していますので、将来課題として今のうちに準備を始めておいてもおかしくありません。災害現場は往々にして人が近づけないので、ドローンで現況把握ができないか検討しています。大規模な土砂崩れの現場での無人施工が可能になると思います」

 ― ICT導入で解決しなければならない課題は。

 「移行期は使っている方とそうでない方が混在しているので、課題です。データのフォーマットや互換性も課題ですが、一つでも共通化を図っていきたいと思います。新しいことをやる場合、初期コストはある程度仕方ないものと考えるべきです。パソコンやスマートフォンでもいえますが、上手な使い手になることが重要です。そうした機械に使われるようではいけません。一つ一つの事象に対して判断するのは人間の役目であり、思考停止してはだめです。ICTはあくまでも人間の行う作業の補助ということを忘れてはいけません。そういう意味で、システムが故障したときに原因究明やリカバリーしやすいように、すべてをIT化するのでなく人手にゆだねる部分を少し残しておくことも必要かもしれません。さらなる改善へのステップのために、フルオートメーション化は避けた方がいいでしょう」。

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