2016年3月25日金曜日

【みんなに優しい神社に】水天宮社殿・社務所建替(東京都中央区)が完了

伝統木造様式の新社殿
2018年に江戸鎮座200年を迎える水天宮(東京都中央区)。記念事業として行っていた社殿・社務所の建て替えが無事完了した。妊婦や子どもが多く参詣することもあり、安全を最優先して境内全体を免震化。緩やかなスロープの動線、広い待合室など快適な空間が生まれた。4月8日から新社殿に参詣者を迎え入れる。

 ◇現代に生きる伝統をデザイン◇

 安産や子授けなどで知られる水天宮(中央区日本橋蛎殻町2の4の1)には、妊婦やその家族の参詣者が多く、特に戌(いぬ)の日には安産祈願に訪れる大勢の人たちでにぎわう。敷地面積は約2400平方メートル。建物はRC造(基礎免震)地下1階地上6階(塔屋1階)建て延べ約5000平方メートルの規模で、社殿や待合い、参集殿と異なる用途を併せ持つ。設計・施工は竹中工務店が担当。14年1月に着工し、16年2月に竣工を迎えた。有馬頼央宮司は「より優しく、より安全な神社を造り上げた」と話す。

 設計を担当した水野吉樹氏(設計部設計第5部長)は「参詣者のために環境改善や震災対策に重きを置き、より優しく安全な神社を目指す計画とした。地域に歴史を刻む新たなランドマークとして品格を備え、現代に生きる伝統をデザインした」と設計テーマを語る。高い安全性を持たせるため、建物や参道、外周歩廊など境内全体に基礎免震構造を採用した。参詣者が一歩境内に足を踏み入れれば、大地震の時も大きな揺れから身を守ることができる。

 社殿は宮大工による伝統木造の技で造営された。工期の長い宮大工工事に早期に着手するため、社殿の下部だけ部分的に逆打ち工法を取り入れ、地下工事と地上工事を同時進行した。逆打ちで免震装置を効率的に施工する「プレートスプリット工法」を開発。免震装置の取り付けプレートを分割し、構真柱(こうしんちゅう)(鉛直荷重を支える柱)に取り付けることで施工性が向上した。

 作業所長を務めた中江滋氏は「通常の工法だと2年半の工期が必要になる」と指摘した上で、「部分逆打ち工法とプレートスプリット工法の併用により全体工期を6カ月短縮し、2年の工期を実現できた」と胸をなで下ろす。水野氏も「伝統建築は宮大工と共に造りながら考える。設計・施工によって社殿の造営に十分な時間をかけることができた」と振り返る。

 境内全体の免震化で大地震時の揺れが低減されるメリットを生かし、一般のコンクリート柱より細い「高強度八角形スリム柱」を開発・採用した。超高強度コンクリートと特殊なポリプロピレン繊維を組み合わせ、高い構造性能と優れた耐火性能を両立させた。外径270ミリの正八角形断面のコンクリート柱で、表面は杉板の模様を転写した「杉板本実打ち放し仕上げ」となっている。

 伝統木造様式の社殿は日本の神社の神聖な象徴性を放ち、その背景として待合いや参集殿を現代的に表現。社殿の木造のプロポーションに調和するよう、待合いにはスリムな八角形柱が並ぶ。「細さと木目とがRC造の建物の中にいても、木造の神社建築を感じられる空間を創出した」(水野氏)。

 ◇より優しく、安全な神社に◇

 分かりやすく、少しでも快適に参詣してもらえるように動線を計画。外周歩廊から2階の境内まではゆったりとした階段、広い待合室から社殿へは緩やかなスロープとなっている。待合いと社殿とを半層ずらすことで、各階が立体的に重なり合う空間となり、厳かな中にも楽しく回遊できるのも特徴の一つだ。

 約100人が座って待てる参詣者待合い(2階)、同じく約100人分の家族用待合い(3階)を用意。長い廊下を設けることで、できるだけ多くの参詣者が快適に室内に滞在できるようにした。さらに拝殿は旧社殿の約1・5倍のスペースを確保し、多くの人が一度に祈願ができるようになった。

 戌の日、祝日、平日で大きく変動する参詣者数に対応するため、空調や雨水利用水槽の使用量を制御する工夫も取り入れた。利用者の快適性の向上とともに、建物全体での省エネ化を図る計画にもなっている。

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