◇大事なのはまず伝えるとこと◇
大学時代は高校の同級生と学生劇団で演劇に熱中していました。将来は役者になりたくて、親とは卒業後の進路で何度かもめましたが、それまでも迷惑を掛けていたこともあり、卒業する年の夏になってようやく就職する決心が付きました。
そうした経緯があったものの五洋建設に入社でき、現場に配属されてからは一日も早くこの道を極めたいと思ったものです。しかし、実際の建築工事は奥が深く、お金も含めた現場の一通りのことが分かるようになるまでには10年ほどかかったでしょうか。ちょうどその時期に香港に赴任し、多様な業務に携わる中で、ますます仕事が面白くなっていきました。
香港には5年いました。最初の2年ほどは営業所の成績も振るわず、本社から役員の方がいらっしゃる時などは「とにかく元気だけはお見せしよう」と皆で明るく振る舞っていたのを思い出します。
妻には「この仕事が天職ね」と言われます。建築の仕事は工事を終えると次の現場に移り環境が変わりますし、同じものを造ることもありません。加えて多種多様な方々とお会いできるのが、人と接することが好きな自分には向いているのかなと思います。
演劇も仕込みや稽古、舞台づくりからリハーサル、公演に至るまで時間との勝負です。どこかで時間が押すとすべてに影響が及びます。大勢の人が関わり、勝負できるのは1回しかないという点で、建築と演劇の世界には共通するものがあります。これも建築の仕事が自分に合っていると思える理由かもしれません。
これまでに人とのお付き合いに助けられたことが何度あったか分かりません。現場で屋根の納まりがうまくいかず、日曜日に一人で現場に出ていると、以前に他の現場でご一緒した板金会社の社長から電話があり、ご自宅でのバーベキューに誘っていただいたことがありました。しかし、伺えない事情を話すと、その方が「一緒にバーベキューをやりたかったから」と6人ほどを連れて現場に来て手伝ってくれたのです。涙が出ました。こうした現場での思い出がいっぱいあります。
若い人たちには人とのコミュニケーションを大切にしてほしいと思っています。大事なのはまず伝えること。話し方のうまい下手ではなく、好感を持ってもらえるかどうかであり、そのためにも話を要領よくまとめて伝えることが必要です。
自ら胸襟を開くと、相手もきっと開いてくれます。何事も起死回生の「サヨナラ満塁ホームラン」などなかなか打てるものではありません。こつこつとやっていけば間違いはないと思います。
(わたなべ・ひろし)1984年東京理科大工学部建築学科卒、五洋建設入社。建築部門建築企画部長、執行役員建築部門建築営業本部副本部長、常務執行役員建築部門建築営業本部長などを経て、17年6月に取締役兼常務執行役員建築部門建築営業本部長に就任予定。愛媛県出身、57歳。
新人時代に現場事務所で撮影した一枚 |
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