2017年6月14日水曜日

【回転窓】『流星ひとつ』の装画

海外で戸惑うことがあった時に身近で適切なアドバイスをくれる同胞がいたらどんなに頼もしく感じるだろう。この人もかつて同じ境遇だったかもしれないと勝手に想像させていただいている▼作家の沢木耕太郎さんがその人。20代前半の頃に建築家の磯崎新さんとハワイで1週間ほど一緒に仕事をした時、旅先で必要な言葉の知識や食事のマナーを教えてくれたのが、磯崎さんの夫人で海外経験豊富な画家の宮脇愛子さんだったという。JR東日本発行『トランヴェール』6月号のエッセーに書いている▼例えばレストランでうまく注文できない場面では「HAVE」を使えばよいことなどを学んだとか。以降も夫妻との親交は続き、宮脇さんからは海外のさまざまな芸術家について「夢のような話を多くうかがうことになった」と沢木さんは振り返る▼2014年8月、宮脇さんは他界した。沢木さんは一番好きな宮脇さんの絵を、昨年8月に新潮文庫で出した『流星ひとつ』の表紙カバーに使った▼新幹線の車内でエッセーを読み、その足で沢木さんの文庫本を購入した。本の内容と趣のある装画がよく合った一冊である。

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