建築確認検査や住宅性能評価などを手がけるERIホールディングスが主催する設計競技「ERI学生デザインコンペ」。2017年度の概要が発表され、今年のテーマが「RULE(ルール)/SPACE(スペース)/HARMONIZE(ハーモナイズ)」に決まった。選考委員は昨年に続き今村雅樹(日本大学)、木下庸子(工学院大学)、谷尻誠(大阪芸術大学)、千葉学(東京大学)、平田晃久(京都大学)、安原幹(東京理科大学)、中澤芳樹(ERIホールディングス)の7氏。
今回、選考委員に聞いたコンペの特徴や学生へのメッセージをシリーズで紹介します。初回は建築家で日大教授の今村氏。
――学生がコンペに挑戦する意義は。
「昔に比べて学生が参加できるコンペの数も多くなりましたし、研究室の学生には積極的に応募するよう促しています。コンペにはアイデアを募るものと実際に建てるところまで行うものの2種類がありますが、ERI学生デザインコンペのようなアイデアコンペは、案を導き出すまでの頭を鍛えるプロセスに教育的意味があると思います」
「今村研究室には五原則があるのですが、その一つに「複数のことを並行してできるようになろう」というのがあります。大学の授業や課題、研究室のプロジェクトなどに取り組みながら、学外でこういったコンペに参加して建築をやることが大切です。行ったり来たりしながら物事に向き合うことが建築家への道を形成すると考えています」
――ERI学生デザインコンペの特徴を教えて下さい。
「テーマに特徴があります。ピシッと一つのテーマが設定されるコンペが多いのですが、ERI学生デザインコンペでは、三つのキーワードを挙げています。昨年は「ルール」、「スペース」、「シェアラブル」とし、今年は「ルール」、「スペース」、「ハーモナイズ」の三つです。審査委員長は置かず、6人の審査員がフラットな関係で議論しながら「あうん」の呼吸でテーマを定めました。一人の強い力で物事を決めるのではなく、多様性を持たせるという意味でよいやり方だと思います」
「建築はフィールドが広く、マクロからミクロまで視点もさまざまですが、このコンペのテーマは社会や都市の空間構築に寄っているように思います。昨年、最終選考に進んだのは大学院生が多かったことを考えると、建築を学び始めて日が浅い学生には都市を俯瞰的に見たり、アイレベルで見たりといったチャンネルの切り替えが難しいこともあり、ほかのコンペに比べると少しレベルが高いかもしれませんね」
「机上の空論であってもよいアイデアコンペだとは言え、あまりに空想的な話は高い評価を得られません。『こういうことがあるとおもしろいね』と感じられるような、街がよくなることを予感させるリアリティーが見え隠れするものが残りました」
「審査員6人のそれぞれ違うリアリティーが感じられる作品が最終選考に進み、結果的に多様な提案がならびました。さらに、わたしが感じたリアリティーが本当に学生の意図と合致しているかどうか、プレゼンテーションや質疑応答で確認できるのがおもしろい。予想と違ってがっかりすることもあれば、『こういうことなのか』と新たな発見をすることもあり興味深いです」
「首都圏の大学からの応募が多い中、崇城大(熊本県)大学院生の作品『風の便り』が印象に残っています。よく知らない土地ですから、『こんな街があるのか』という思いがあり、こんな仕掛けを起爆剤に街が変わりそうだと期待させられる提案でした。東京では都市空間が均質なものに変わりつつあると感じているため、地方の学生がどのように自分たちの街をとらえ、オリジナルのアイデアで活性化させていくか、新鮮な気持ちで見ていました。審査員もみんな熱意を持ってやっています。それぞれの土地を読み解き、地方の抱えている問題を建築的、空間的アイデアで解決を目指す提案が全国からあるとうれしく思います」
――学生への期待をお願いします。
「大学で教えていて感じることは、みんな心優しいのですが、積極的に前に出る学生は少ないということです。でも、いい意味で自我を出さないと世界と戦えません。また考え方が似通った学生も多く、オリジナリティーはどこにあるか、常に問いかけるようにしています。わたしは『建築家教育』を指導方針に掲げていますが、その学生が目指す『建築家像』が、わたしたちの世代が丹下健三や前川國夫といった建築家をモデルにしていた時代と大きく違ってきたと感じます」
「学生の多くが組織に所属する建築家になり、世の中の建築の9割を作るマジョリティーになります。それでも、大学の授業やコンペへの挑戦で培ったオリジナリティーを追求する精神を忘れないでほしい。そんな学生がマジョリティーの建築家になってくれれば、日本はよい社会になると期待が持てますね」
「熊本県医師会館の設計を手がけ、6月に竣工しました。坂倉準三が設計した建物を建て替えるプロジェクトです。今、こういった戦後モダニズムの名建築が次々に解体され、危機にひんしています。フランスなどでは財団が建築を管理していますが、日本では個別のオーナーに任せられており、建築を文化として守り続ける社会システムが生まれにくいように思います」
「こういった事態を建築の専門家ではない一般の人はどう考えているのか、個人的にとても興味があります。新国立競技場の建て替えが問題になったときも、マジョリティーの人たちからコストなどへの否定的なコメントはありましたが、建築に対する文化的な目線での発言があまり聞かれませんでした。若い世代のマジョリティーの建築家には、建築を議論できる土壌を日本に作っていってほしいと思います」。
東京建築検査機構、イーピーエーシステム
【特別協賛】日刊建設工業新聞社
【応募受付】2017年9月1~20日
【一次選考】2017年10月上旬
【賞 金】最優秀作品賞(1点)50万円、優秀作品賞(1点)25万円
佳作(数点)5万円、特別賞
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