2017年6月30日金曜日

【現場で活躍できる人づくりめざす】工学院大学・後藤治理事長に聞く-大学運営の方針は

 ◇創造力、応用力養う教育に注力◇

 10月31日で創立130周年を迎える記念の年に、工学院大学初の建築学部出身の理事長として5月26日付で就任した。「実務の最先端で活躍する人材づくり」という建学の精神を受け継ぎ、「その道のリーダーとして応用力、創造力を現場で発揮できる人材を育成したい」と意気込みを語る。

 --運営方針は。

 「1887年の開学以来、社会の現場の先頭に立って動く技術者を育成することを第一に掲げてきた。社会で活躍する人材を育てるには最先端の研究に触れる機会を与えることが大事だ。企業との共同研究に力を入れる。八王子キャンパス(東京都八王子市)は敷地も広く、耐震分野の起震装置や反力壁、環境分野のソーラーパネル設備などの実験設備が整っている。都内の私立大でこれだけの研究施設を抱えているのは本学だけ。これからも充実させていく」

 「新宿キャンパス(東京都新宿区)は首都高速道路、八王子キャンパスは中央自動車道のインターチェンジが近くにあり、バス会社と提携して両キャンパス間を結ぶバスを走らせている。両キャンパスの利点をうまく生かし、メーカー、地方自治体、ゼネコン、設計事務所などとの共同研究を増やしたい」

 --他大学の教育とどう差別化を図る。

 「工学系に特化した単科大だが、国立大の工学部単体などと人数を比較すれば規模はこちらの方が大きい。幅広い専門分野の教員が多数いるため、一定のスコープ(カリキュラム編成で選択すべき学習の範囲)をすべてカバーできる。その強みを生かすことが大事だ。現在は学生全体の3割程度にとどまっているインターンシップの取り組みも強化する。受け入れてくれる企業に足を運び、企業が保有する素晴らしい教育施設などを使った特別な独自のプログラムを構築できればと思う」

 「『ハイブリッド留学』制度の運用を始めた。学生の滞在期間は4カ月で、専門科目は本学の担当教員が渡航して行い、滞在中はホームステイを通して英語で生活する。留学した期間は通常、単位をもらえず卒業が遅れるが、ハイブリッド留学は単位を取得できる。専門用語が分かり、ある程度のコミュニケーションを取れれば海外ではどうにかなる。積極性と現場力を養うのが狙いだ」

 --6年前に建築学部を創設した。大きく変わった点は。

 「建築学部の創設に伴ってランドスケープ、地域防災、インテリアデザイン、福祉住環境デザインの分野を充実させた。この結果、女性の入学者が増えた。現在は建築学部で学ぶ学生の3割を女性が占める。社会で活躍する卒業生も多くなってきた。通ってよかったと口コミでPRしてくれている効果もあり、入学希望者も増えている」

 「もう一つ、学部創設によって1年から専門課程の授業を増やすことができた。普通は1、2年時に教養課程、3、4年時に専門課程を学ぶが、教養は専門を習った後に学んだ方が役に立つ場合もある。例えば、構造物を造る時にその所有者責任、管理者責任を知っておくことは大切であり、専門を学んだ上で民法を習えば、知識も身に付きやすい。学部創設のメリットの一つだと考えている」

 --これから注力する分野は。

 「建物管理分野を強化したい。建物を健康な状態で維持する、傷んだものを健全にするという事業ニーズは増えていく。設備リニューアルに強い人材を育成する必要がある。デザイン系の志望者は多いが、入学後に多様な分野を学び、今は材料施工系、環境設備系、構造系も人気が高まっている。設備分野には学生の目が向きにくいところもあり、視野の広い学生を育成することが課題だ」

 「大学院の充実も図りたい。国立大の大学院は研究者の育成に強いが、本学は社会に役立つ人材の育成に重きを置いている。新宿キャンパスは東京の一等地にあり、本学のヘッドクオーターといえる。新宿にキャンパスを保有していることで著名な建築家も呼びやすく、意識の高い学生も集まってくる」

3月に竣工した八王子キャンパス新2号館
 --キャンパス再整備は。

 「新宿キャンパスの建物はリニューアルの時期を迎えているが、新宿駅西口の再開発の行方を注視している。大成建設と都市再生機構が事務局となり、駅西口から新宿中央公園までの街のあり方を検討している。まちづくりの中で新宿キャンパスが担う役割などを見定め、積極的に関わってその一翼を担いたい。実務分野にたけた教員も多く、八王子キャンパスのあり方を含め地域と連携したまちづくりを考える。まちづくり研究などで培った成果を生かしたい」。

 (ごとう・おさむ)84年東大工学部建築学科卒。88年東大大学院工学系研究科建築学専攻博士課程中退。文化庁文化財保護部建造物課文部技官、文化財調査官(調査部門)を経て、99年工学院大学工学部建築都市デザイン学科助教授、05年同工学部建築都市デザイン学科教授、11年同建築学部建築デザイン学科教授、工学院大学常務理事、17年工学院大学理事。東京都出身、56歳。

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