2017年6月26日月曜日

【スポーツを〝地域資源に〟】日本政策投資銀行・桂田隆行氏に聞く「スポーツ施設づくりのポイントは?」

 全国各地で健康増進・スポーツ施設の整備への機運が高まっている。それぞれの地域で、地方創生や高齢化社会の課題解決、コミュニティー形成などへの対応を求められる中、健康増進・スポーツ施設は地域の交流拠点として大きなポテンシャルを秘めている。

 地域の内外からさまざまな人々が集えるような魅力ある施設づくりが最近のトレンドだ。地域に愛される施設づくりのポイントは何か。日本政策投資銀行地域企画部の桂田隆行参事役に聞いた。

 日本政策投資銀行は多機能複合型交流施設「スマート・ベニュー2801R3301」というコンセプトを打ち出しています。

 「地域の街づくりの拠点としてスタジアム・アリーナなどのスポーツ施設を生かそうという発想です。とりわけ地方に言えることですが、従来のスポーツ施設は一般的に街の郊外部に整備されることが多く、観光振興やコミュニティー形成、健康づくりといった街を形作る他の観点との連動が考慮されていませんでした。スポーツ施設を市街地活性化のツールとして機能させるためには、『まちなか』に立地し、『収益性』を意識した施設として整備しなければいけません。そういった施設を『スマート・ベニュー』と呼ぶことにしました」

 「スマート・ベニューは、スポーツだけで使われる訳ではありません。地域のイベントやお祭り、コンサート、展示会などに利用できる多機能性を追求していく必要があります。さらに複合化という意味では、その施設の周辺域にショッピングや飲食、公共施設などが一緒に設けられることで利便性が高まり、イベントが開かれない時でも集客を見込めるようになります」

 スマート・ベニューを具現化するため、どんなことに注意すべきですか。

 「我々が提案しているのは、あくまでもスポーツを地域の交流拠点づくりのツール、コンテンツの一つと捉えるということです。何もスタジアム・アリーナに限らずとも、スポーツによる地域活性化の方法はさまざまです。スタジアム・アリーナの整備を前面に押し出した計画の進め方では、地域での協議が紛糾してしまうことも考えられます。都心には都心、地方には地方にふさわしい施設があります。スポーツというツール、コンテンツを、地域の実情に応じて活用してほしいと訴えています」

 「施設整備に関する地域の協議会や勉強会に出席する際には、『スポーツの自己主張のための施設は正しいのでしょうか』という問い掛けをするようにしています。スポーツを『する』『みる』『ささえる』それぞれのための施設であることはもちろんですが、それ以外の人々が訪れることができる拠点でもあるべきです。周辺域のエリアマネジメントも一つのポイントです。さまざまな人が訪れるきっかけをつかめて、喜ばれるような施設であってほしいのです」

 多様な機能を入れることで中途半端な施設になってしまうとの指摘もあるようです。

 「地域の交流拠点づくりという観点に立った場合、専門性が際立った施設で果たして良いのでしょうか。時間は掛かるかもしれませんが、地域のさまざまな人たちの意見を聞きながらプロジェクトを進めていかなければなりません。そうした意味で最初の段階のコンセプトづくりが大切です。『何のための施設なのか』という出発点に立ち返りながら、地域で納得して施設づくりを進めることが肝心です」

 政府主導でスポーツ施設を「稼げる施設」に変革するための取り組みも行われています。

 「スマート・ベニューでイメージしているのは、地域の拠点となって地域全体を盛り立てていく施設です。必ずしも施設だけがもうかるべきだとは思いません。地域全体で稼げる施設にはなってほしいと考えています。だからこそ最初のコンセプトが大事なのです。その施設の地域での意義を、地域の皆さんがしっかり納得できれば、地域で負担しながら施設を運営・維持していけるような形をつくれるのではないでしょうか」

 このところ全国各地でスポーツ施設の整備計画がめじろ押しです。

 「まだ検討を始めて1、2年に過ぎない施設計画がたくさんあるのが現状です。スマート・ベニューの実現に向けた全国的な動きは進み始めたばかりです。いずれにしても、施設のコンセプトの方向性を間違えてしまうと、地域の人々から愛される施設にならない可能性があります。例えば、プロ野球球団の広島カープは、なぜ広島市民から愛されているのでしょうか。その野球スタイルも理由の一つでしょうが、広島カープという存在を市民の代表だと思う感覚が浸透しているからではないでしょうか。施設整備を進める側から、スポーツのための情報発信だけでなく、もっと広く文化醸成のためのメッセージを届ける必要があります。地域の人々にスポーツを『地域資源』と感じてもらうことが大切なのです」。

 □全国の「まちなか」で施設整備プロジェクトが進展中□

後楽園球場の開業は約80年前。
東京ドームシティは機能拡張で成長を続けてきた
スポーツ施設を核とした街づくりの成功事例として、桂田氏が真っ先に挙げるのが「東京ドームシティ」(東京都文京区)だ。日本初のドーム型スタジアム「東京ドーム」を中心に、多目的ホール「後楽園ホール」、ホテル、遊園地、温浴施設、ショッピングモール、レストラン街などで構成する一大レジャー拠点をつくり出し、スポーツ観戦以外の来場者の誘致にも成功した。

 地方での事例としては、市庁舎やアリーナなどの複合施設「アオーレ長岡」(新潟県長岡市)を高く評価する。JR長岡駅の至近地に、さまざまな市民交流機能を盛り込んだ施設だ。JR小倉駅近くで今年3月にグランドオープンしたサッカースタジアム「ミクニワールドスタジアム北九州」(北九州市小倉北区)には、周辺施設との相乗効果による市街地活性化に大きな期待をかける。

 同じく3月にオープンした「01THE BAYS」(横浜市中区)は、横浜01DeNAベイスターズが横浜スタジアムに隣接する国有建物を借り受けて整備したユニークな施設だ。新産業創出プラットフォームと銘打ち、フィットネススタジオやカフェに加え、クリエーターやクリエーティブ企業が入居するシェアオフィスを配置。球団と連携し、新たな街づくりや文化創出を目指すという。

 政府は2025年までに大型のスタジアム・アリーナを全国に20カ所整備する方針を示している。こうした後押しを受け、各地で多くの施設整備計画が立ち上がっている。
「桜スタジアムプロジェクト」の完成イメージ
(ⓒ2016桜スタジアム建設募金団体)
現在検討中の施設で桂田氏が期待するプロジェクトに挙げたのが、愛知県豊橋市が豊橋公園内で計画している新アリーナ構想と、サッカースタジアムのキンチョウスタジアム(大阪市東住吉区)の増設・改修計画「桜スタジアムプロジェクト」。前者は中心市街地に近接する「まちなか」施設として2020年代初めごろの建設を目標に検討中。後者は募金を通じて次世代スタジアムの整備を目指すチャレンジングな試みとして注目を集めている。

0 comments :

コメントを投稿