◇新たなイノベーション引き出す◇
東京理科大学理工学部が、創設50周年を機に新しいカリキュラムの導入とキャンパスの再構築を始めた。本年度から学科・専攻をまたいで教員と学生が研究を推進する横断型コースなどの新教育コースを設置。縦割りの大学組織を変え、多様な知識を持った学生を育成する。教育体制に合わせてキャンパスもよりオープンな場所へと作り替え、外部との連携も強化してイノベーションの創出を促す。改革の先頭に立つ井手本康学部長に話を聞いた。
--今年から理工学部内の連携を強化する取り組みを進めている。
「今年を今後の50年をどうするかを考えるスタートと位置付け、改革を進めている。理工学部は理学系と工学系の両方を持ち、全10学科・10専攻で幅広い分野をカバーしているのが特徴だ。その特徴をより生かすため、『RESONANCE 共に響き合う理工学部へ』をテーマに、本年度からそれぞれの学科の強みが響き合うようにカリキュラムに新しいコースを創設した」
「これまでの大学の構造は縦割りで、学生は自分の専門分野を深めていくだけでよかった。しかし、近年では研究を深めていくほど関連する他分野の知識を求められる。例えば、建築であれば火災やそれに対応する不燃材料の知識が欠かせない。従来は研究の中で必要になった時に自力で習得していたが、より効率的に学べるようにカリキュラムに位置付け、即戦力となる人材を社会に送り出していきたい」
--具体的な取り組みは。
「4月から学科・研究科内に横断型コースと6年一貫教育コースという新たなコースを設けた。横断型コースは学部4年から修士2年までの3年間が対象。学生は自分の専攻の研究を進めながら、それとは別に関連のある他領域にまたがるテーマを別の専攻の学生や指導教員と一緒に研究する。他領域の先端知識が入ることはもちろん、自分の研究が社会でどう役に立つかを見つめる機会にもなる。異分野の人と関わる機会も増えることから、コミュニケーション能力の向上も期待できる」
「6年一貫教育コースは大学院に進む学生が多い応用生物科学科と先端化学科を対象にしており、今後は建築学科などでも導入を検討している。文部科学省が工学系の大学で導入を検討している『6年一貫制教育システム』を先取りしたものとなる」
「通常は学部4年と修士2年で構成されているが、修士課程を学部4年次から実施することで時間的な余裕を作ることができる。学生が短期海外留学やインターンシップに挑戦しやすくする狙いがある。既存の制度の中で両コースを新設できたことも特徴だ。他の大学に先駆けた取り組みだと考えている」
◇領域横断の新カリキュラム導入◇
--建設業界では近年、土木分野を志望する学生の減少が懸念されている。
「横断型コースのような他学科との連携という切り口が打開の突破口になるのではないか。例えば、横断型コースの中には防災リスク管理というコースがあるが、それだと土木を学んだ学生が建築や化学、経営など幅広い領域について学ぶことができる。土木を基礎にしながらも、研究課程で裾野を広げ、他分野についても幅広く学んでいけるというイメージを打ち出せば、学生も集まりやすくなるはずだ」
--改革を実現する理工学部の強みとは。
「理工学部のある野田キャンパス(千葉県野田市)は他のキャンパスに比べて敷地が広く、実験に対する制約が少ないことが特徴だ。そのため、生命医科学研究所や火災科学研究センターなどの研究施設が多い」
「つくばエクスプレス(TX)によって、国や企業の研究機関が多い筑波研究学園都市と東京都心へのアクセスにも恵まれている。この強みを生かし、理科大の他のキャンパスや研究施設、学外との連携も強化し、融合研究の推進やイノベーションの創出を図りたい」。
(いでもと・やすし)86年東京理科大学大学院理工学研究科工業化学専攻修士課程修了。富士写真フイルム(現富士フイルム)勤務を経て89年同工業化学科(現・先端化学科)助手、00年同助教授、08年同教授。16年理工学部長、同年理工学研究科長。専門は固体物理化学、電気化学、無機工業化学。東京都葛飾区出身、57歳
□学科の垣根越え集える場所を□
「カリキュラムを共通化するのに合わせて、学生が学科の垣根を越えて集える場所を作る必要がある」。井手本学部長は理工学部のある野田キャンパスの再構築の狙いをそう話す。
来年1月に初弾となる同学部の共通棟「新7号館」の建設に着手し、19年夏の完成を目指す。将来的には老朽化が進む1~6号館の再整備にも取り組みたい考えだ。
新7号館の規模は6階建て延べ約1万平方メートル程度。設計をエムアーキ(さいたま市)が担当している。キャンパスの中心部にある7号館などを解体・新築する。建物内には喫茶店などの談話スペースのほか、横断型コースや学部のゼミ、会議室などの共通スペースを置く。企業とのプロジェクト研究を行うオフィススペースも配置する。新たなイノベーションの創出を目指し隣接地には学部共通の新実験棟も整備する予定だ。
並行して新7号館建設地周辺にある中庭も再整備する。現在は段差の多い中庭をフラットな形に作り替えて同館への動線を作り、学生が集まりやすくする。これまで野田キャンパスは、学科が増えるごとに建物を増やしてきた。そのため統一感が薄く、建物も学科ごとに独立していて外部に対して閉じてしまっている点が課題。井手本学部長は「50周年を機に、オープンなキャンパスに作り替えていければ」と話している。
0 comments :
コメントを投稿