2022年3月7日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・310

民間の柔軟な発想は地域振興のさまざまな可能性を教えてくれる

 ◇固定観念にとらわれず◇

  中央省庁で働く小川明さん(仮名)は約20年にわたり、事務職員としてさまざまな事業に携わってきた。ここ数年は空港コンセッション(公共施設等運営権)や再生可能エネルギー関連など、民間との交渉が不可欠な仕事を担当している。小川さんは業務を通じ「固定観念にとらわれず柔軟な姿勢で向き合うことが、仕事で良い結果を残すこつ」と思い始めている。

 東北地方の日本海側で生まれ、高校・大学時代はハンドボールに熱中した。公務員を志したのは測量会社で働く父親の影響。父親と一緒に真摯(しんし)に仕事と向き合う自治体の職員を見る機会が何度もあり、同じような生き方がしたいと国家公務員を志望した。

 若い頃は東北各地を異動で転々とする日々を過ごし、直轄事業の契約や人事・給与関係の事務を担当した。ある港湾で見た沖防波堤のケーソン据え付け工事の様子は今も目に焼き付いており、「巨大なケーソンを隙間なく設置できる」技術力に心が震えた。

 太平洋側にある港湾事務所に赴任した時、整備していた湾口防波堤も胸を張れる仕事の一つ。水深が最も深い場所で63メートルもあり、「世界で最も深い防波堤」として、ギネス世界記録に認定された。「自分は住民の命を守る重要な仕事に携わっている」。大きなやりがいを感じながら20代を駆け抜けた。

 初めて東京・霞が関に異動し人事部門で働いていた2011年に東日本大震災が起こった。愛着を持って暮らした赴任先の街が津波にのみ込まれていく…。目を覆いたくなるような光景は決して「人ごととは思えなかった」。ギネス世界記録に認定された防波堤も大部分が損壊した。だが悲嘆に暮れる時間はなかった。

 今いる場所で東北に何ができるのかをとにかく考えた。組織・定員要求で関係省庁と粘り強く交渉した結果、東北エリアの大幅な人員増につながった。復興事業は発注業務に多くの人手が必要だった。「微力かもしれないが復興に貢献できたのではないか」と思っている。

 ここ数年で空港コンセッションのプロジェクトに関連し自治体に出向する機会があった。現在は再エネの関連業務を担当。民間の提案に触れる機会が増えている。仕事は客観的な立場が求められるものの、それでも「具体的なしっかりした提案を出してくれる事業者は信頼できる。任せてみたいと思える」と話す。

 再エネのうち洋上風力は風況が良好な東北地方の日本海側でプロジェクトが相次ぐ。「間接的に生まれ故郷の振興に携われていることも、仕事に対するモチベーションになっている」。発想が柔軟な民間と触れ合う中で、「固定観念で仕事に向き合うと良い結果は得られない」という思いが強くなっている。胸中には東日本大震災で痛感した“誇りを持っていた防波堤が津波で壊れた”悔しさと無念さがいつもある。

 今いる場所で東北の振興のために何ができるのか--。考え続けながら自分自身の役割をしっかり果たそうと思っている。

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