MI鹿児島湧水工場の食堂棟(三菱地所設計提供) |
三菱地所グループが建築物の木造木質化事業を強化している。三菱地所を中心に、木材生産から設計、施工、販売までを一体的に推進。中大規模も含め建築物に国産材が積極的に利用されるような好循環を生み出し全体最適を図る、そんな姿を描く。三菱地所設計は、挑戦的な木造木質化プロジェクトの設計や現行法規制下で最適な技術開発提案、新建材の開発支援などに取り組んできた。デベロッパーグループの設計事務所というメリットを生かし、持続可能な社会の実現に貢献していく。
三菱地所グループはSDGs(持続可能な開発目標)を見据えて、CLT(直交集成板)活用を進めるなど、持続可能な木材利用に向けた体制を構築してきた。2020年には三菱地所や竹中工務店、大豊建設ら7社で木を用いた新建材を手掛けるMEC Industry(MI、鹿児島県霧島市、森下喜隆社長)を設立した。同社は来月、鹿児島県湧水町にある鹿児島湧水工場に本社を移す予定だ。
三菱地所設計はこうした動きに呼応して、21年4月にR&D推進部に木質建築推進室を設置。グループ内での情報共有や戦略的な人材育成、設計上のノウハウ蓄積など幅広い役割を担う。同室の吉原正室長は「先導プロジェクトの設計から木造木質化技術を学んで実践できることや、コスト感などを三菱地所と深く議論できることが強み」と話す。
札幌市中央区のホテル「ザ ロイヤルパーク キャンバス札幌大通公園」は、高層階が純木造、中層階がRC・W造、低中層階が木質化を施したRC造。高層ハイブリッド木造を国内で初めて実現した。大阪市北区の堂島公園内に整備された観光トイレは、CLTを導入し、国産木材によるぬくもりある空間を創出した。
一連のプロジェクトに共通するのは、すべてを木で賄う「木造化」だけではなく、適材適所に木材を配置する「木質化」を取り入れることで、木材利用量を増やすという思想だ。超高層建築の木造化は技術的に可能だが、現時点ではコストが高く、事業成立が難しい。三菱地所設計の名倉良起建築設計二部兼R&D推進部チーフアーキテクトは「純木造よりハイブリッドがベストであればそう提案する。設計者目線よりも消費者や事業者の目線で考え、トータルで世の中を変えたい」と意欲を見せる。
S造でのMIデッキ活用イメージ(パンフレットから) |
木を用いた空間をもっと身近にしようと開発したのが製材型枠配筋付きデッキ「MIデッキ」だ。配筋と木製型枠とを一体化した製品で、現場での配筋作業を省力化するとともに、下面から木材の現しを可能にした。MI鹿児島湧水工場の食堂棟の天井に導入。大階段部分も木質建材を取り入れることで、S造でありながら全体的に木を感じられる象徴的な場となっている。
右から吉原、名倉、海老澤の各氏。名倉、海老澤両氏は 三菱地所とMIの業務を兼務する |
三菱地所設計の海老澤渉R&D推進部木質建築推進室兼構造設計部チーフエンジニアは、製造から利用まで一連の流れに関わることで「必要十分な部材を製造して、必要なところで利用する統合型最適化を目指す」と話す。「MIデッキが全国で使われれば、何十万平方メートルという木の消費が生まれる。日本の木をうまく使うことで再生産できる余力を作り、林業を活性化させたい」(海老澤氏)。
MIは、CLTや集成材を用いたプレハブ化により短工期・低コストの住宅を実現する事業「MOKU WELL HOUSE(モクウェルハウス)」も進める。より幅広い層が購入しやすい木の住宅を広めて「新たなライフスタイルを提供する」(海老澤氏)。
こうした地ならしをしながら、超高層ビルの実現へと歩みを進めていく。「地震対策や火事に対する意識、法的な解釈を踏まえて、何がリアリティーがあるかをしっかりと考えていく」と名倉氏。木質化による二酸化炭素(CO2)固定量算出など効果の見える化により、建築主にアピールする手法も確立していく。
三菱地所設計は、学識経験者を交えた研究会を立ち上げて、超高層ビルに適用可能な木造架構を研究中だ。集成材などの木質系材料「プライ(積層物)」と高層建築物(スカイスクレパー)を掛け合わせて、木質化・木造化超高層ビルを意味する「プライスクレパー」という言葉も生まれている。吉原氏は「東京都心部でプライスクレパーを目指したい」と力を込める。多くの人が目にして、良さを実感できるようなプロジェクトが実現すれば需要喚起にもつながる。世の中のニーズをくみ取りながら、先を見た提案を続けていく。
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