落語の世界は師匠に入門した後、前座、二つ目を経て、一人前と認められる真打(しんうち)となる。真打までの期間は15年前後だろうか▼晴れの舞台となる真打への昇進時期は毎年春と秋。今秋も新たな真打が顔見せ披露として都内の寄席を10日ずつの興行で回っていく。昇進披露の舞台に並ぶ師匠連も観客を前に短い言葉を述べる。少し前のことになるが、印象に残った古今亭志ん橋師匠の口上を紹介する▼「われわれの世界は真打までに十数年の年月がかかります。何でも促成の世の中に1人の人間を丁寧に育て、育っていくという社会はそんなにはないと思います。あたしどもはそういう世界に誇りを持っております」▼戦後の落語界は噺(はなし)家の出征によって、人材が不足したそう。わずか数十人から師匠連が根気よく育て上げた落語家は今、東京だけで500人を超え、落語人気も高まっている▼バブルで市場が縮小し、職人が去った建設界の現状はどうなのか。志ん橋師匠の言葉を借りれば「そんなにはない人間を丁寧に育てる社会」の一つが建設業であってほしいと思う。人の育成を怠れば将来に禍根を残す。
0 comments :
コメントを投稿