建築設計には想像力が求められる |
2020年東京五輪の開催などを追い風に、政府は20年にインバウンド(訪日外国人旅行者)4000万人、30年に6000万人とする目標を掲げる。観光立国の実現に向けて各地で展開される関連施策の影響もあってか、建築系の学生が課題などで取り組む設計・デザインに観光を意識したものが最近目立つようになった。
「今の世の中、観光を抜きにしては建築を考えられないのだという複雑な思いがある。観光のエッセンスが詰まった建物で埋め尽くされたら、この国の未来はどうなるのだろう」
建築家として活躍する一方、大学などで教壇に立つ熊沢裕さん(仮名)は、最近の観光産業に偏重した社会の風潮に危機感を募らせる。
地方の観光地などでは外国人観光客が増加傾向にあり、人口減少が深刻化する地域の経済を支える観光産業への期待が一段と高まる。建築生産でも観光客の目線の大切さは十分理解しているが、建物の生産者としての当事者意識が薄れることに懸念を抱く。社会に活力をもたらす建物を生産する行為と観光にかかわる機能をバランスよく配分することが重要だと考える。
ものづくりに憧れ、国内外のさまざまな建築物を見て回ってきた熊沢さん。その土地で脈々と受け継がれている歴史や文化、人々の生業や暮らしなど、さまざまなものが融合して形作られてきた街並みは、個々の設計・デザインに携わってきた先人たちの意識の集合体だと感じた。
大学卒業後は設計会社に就職。マンションやオフィスビル、商業施設など、さまざまな建築物の設計業務に携われたことはいい経験となったが、目の前の与えられた仕事を会社員という立場で取り組むことに違和感を覚えた。生産者としての当事者意識をより強く実感するため、一人の建築家として独立した。
建築家もそれぞれ異なる価値観を持つ人間であり、建築のアプローチも十人十色。建築家にとって必要なものは創造力(クリエイティビティー)よりも想像力(イマジネーション)。現実世界のいろんな諸条件や問題と相対した時に想像力が発揮される。
「建築は『好きなように考えてください』と言われると、大体ろくなものにならない。単なる消費者として建築を考えるのではなく、現実の社会と、いろんな立場の人たちが関わるものに対して想像力を膨らますことが重要だ」
今は企業・団体が主催する学生向け設計コンペなど、力試しの場が多い。賞が取れなくても審査結果を通してさまざまな気づきが得られ、昔の学生に比べたら非常に恵まれている。
「自分の学生時代は卒業設計を出しても講評はなく、点数が付いて返ってくるだけだった」と振り返る熊沢さん。作品について自分の中で深く考え続ける作業は今も昔も変わらない。これからも想像力を働かせ、一生をかけて考え続ける建築の面白さを若い世代に伝えていく。
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