2021年6月30日水曜日

【回転窓】UFOの扱い

  1979年に創刊された雑誌『ムー』。未確認飛行物体(UFO)や超常現象などを掲載するこの雑誌は、オカルトファンから絶大な支持を得た▼最近は見掛けないと思っていたら先日、近所の書店に置いてあった。技術革新が進んでも科学的に解明されていないUFO現象などは、どんな時代でも人々の好奇心をくすぐる。根強いファンがきっといるのだろう▼25日、米国の国家情報長官室がUFOの報告書を発表した。米軍などが提供した144件の目撃情報を分析。高速飛行や急激な方向転換など異常な移動パターンが確認されたという。ただ、正体は1件を気球と特定したが、残りはすべて不明とした▼報告書では中国やロシアが開発した飛行物体の可能性を指摘。空中の浮遊物や自然現象といった仮説も挙げたが、宇宙から飛来した可能性には言及しなかった(読売新聞26日付)▼このニュースは国内でも多くのメディアが取り上げた。一昔前はこうした情報を一般ニュースで扱うことはなかったが、これも時代が変化してきたということか。そういえばムーも科学雑誌『ニュートン』の隣にあった。変われば変わるものだ。

【DXで未来の現場は様変わり】飛島建設、近未来想定したPV制作

  飛島建設は、企業活動と社会の持続可能性を両立するSX(サステナビリティトランスフォーメーション)経営と、DX(デジタルトランスフォーメーション)の将来像を描いたプロモーションビデオ(PV)を制作した。業務のデジタル化が定着した近未来を想定し、職場で女性職員が活躍する姿などを映像にまとめた。

 タイトルは「『トビシマは、次の未来へ』~203X年目指すSX・DX~」。第1部は同社が目指すSX経営を紹介。第2部がDXのイメージ映像で、働き方が変貌した職場で活躍する女性社員を中心にストーリーを組み立てている。

 
IoT(モノのインターネット)で業務がデジタル化され、現場はリモートで一元管理。ドローン(小型無人機)やロボット、スマートデバイスによる遠隔臨場も定着し、最少人数で最大のパフォーマンスを発揮する未来を描いた。動画投稿のサイト・ユーチューブで公開している。

【竣工時の華やかさを現代に】石造りの「常磐橋」(東京都千代田区)、解体修復工事が完了

修復を終えた常磐橋(鉄建建設提供)

  日本橋川に架かる石造りのアーチ橋「常磐橋」(東京都千代田区)。明治期に都内で架かった13の石橋のうち、唯一現存する橋で1928年に国の史跡に指定された。関東大震災や戦災を乗り越えてきたが東日本大震災の被害は大きく、橋を管理する千代田区は解体修復を決断。橋の構造も分からないまま始まった難工事は8年にも及んだ。手作業で一つ一つ丁寧に積み上げられた石橋。竣工当時の姿を取り戻し、5月に通行が可能になった。

 常磐橋は1590年に木造の橋として架けられた。江戸時代には奥州街道から江戸城の大手門へと向かうルートだった。区学芸員の篠原杏奈氏は「当時の交通の要衝。『外郭の正門』とも呼ばれ、歴史的な価値が高い」と説く。

 1877年に小石川門の石垣を転用し、2連のアーチを描く石橋に改築された。区学芸員の相場峻氏によると、九州で盛んに用いられていた伝統的な工法で「東京には明治時代に入ってきた。当時は目新しさがあった」。唐草模様を施した高欄の手すりや、八角形の大理石の親柱など装飾も特徴的。相場氏は「見栄えを意識した造り。維新後の華やかな東京というイメージが強くあったのではないか」と分析している。

 東日本大震災は都心にも深い爪痕を残した。被災した常磐橋はアーチ状に組み上げられた橋側面の「輪石」が約8センチずれて路面が陥没し、崩落の危険性が高まった。千代田区(発注者)は文化財保存計画協会(設計者)、鉄建建設(施工者)と共に修復事業で竣工時のアーチ橋の姿を復元することを目指した。

竣工当時の姿を取り戻すため、慎重に復元作業を進めた(鉄建建設提供)

 橋の構造を示す資料はなく、石材を一つ一つ解体しながら構造などを調べ、図面を起こした。鉄建建設の森部広邦氏(元常磐橋作業所長)は「橋には完成当時から構造的な弱点があった」と指摘する。激動の明治時代のさなか完成を急いだためか、石垣を転用した石材はふぞろいな形状で輪石同士の力を伝えにくい構造だった。地震時に石橋の挙動を拘束するための反力石がないことも分かった。

 復元に当たり「できるだけ明治時代の工法を生かすよう設計者と協議しながら進めた」と森部氏。修復工事では隣り合った石材間の力の伝達を現代技術で補いながらも、完成時と同じく、石材を一つ一つ積み上げる「空石積み」を採用した。

 アーチ橋は台形の石材を組み合わせることで構造体を築く。石材の組み直し作業では橋の裏側にジャッキを設置し、2段階で下ろす工程を採用。1回目は下から1列目の台形石材を組み合わせてジャッキを緩め、かみ合わせる。隙間に流動性の高い超高強度モルタルを充填した。石材を組み、橋全体に力を伝達できるようになった段階で2回目のジャッキダウン。構造体を一体化した。

 文化財は修復で新しい石を3割以上使用すると、その価値を失う。このため約6000個に上る石材一つ一つに番号をふり、加工や修繕の記録をすべて残した。石の加工や積み上げは城の石垣などを手掛ける石工職人が従事。熊本地震で被災した熊本城の石垣復旧と時期が重なり、東日本を中心に職人を集めた。1日当たり30人ほどが現場に入り、手作業で一つ一つ積み上げる作業は3年にも及んだ。

 外観は竣工当時の写真や絵はがき、錦絵などを参考に再現した。戦時中の金属供出で失われたままだった鉄製の手すりを復元。当時の鋳物の風合いを再現するため塗装はせず、菜種油を塗ってさびを発生させては落とすという工程を半年間繰り返した。変形したり、流されたりしていた橋脚部の「水切石」も復活。写真を参考にモックアップ(部分の原寸模型)を製作するなど細部にもこだわった。

石に最小限の調整を加えながら一つ一つ積み上げていった(鉄建建設提供)

 解体に3年半、修復は4年半の計8年を費やした。当初予定していた5年を大きく上回る長期プロジェクトとなった。森部氏は「文化財を扱うのは発注者や作業員にとっても経験のないことだった。みんなで試行錯誤しながら進めていた」と振り返る。

 完成した石橋について篠原氏は「錦絵に描かれていた当時の姿を現代に見ることができるのは感慨深い」と喜びもひとしお。区は年度内にも橋の保存・活用計画を策定する方針で、相場氏は「多くの方が触って歩ける文化財として、どんな活用ができるかを考えていきたい」と意気込む。

 常磐橋の上を通る首都高速道路の地下化事業や、日本一高いビルが計画されている大規模開発など、橋周辺はドラスチックに変化しようとしている。明治維新のシンボルとして誕生し、街を見守ってきた常磐橋。装いを新たに再び歴史を刻んでいくことになる。

2021年6月29日火曜日

【回転窓】大規模修繕と断捨離

  住んでいる自宅マンションが大規模修繕に入り、仮設足場を組む作業が連日行われている。理事会のメンバーとして昨年、計画立案や工事の発注手続きに携わった▼勤務先が建設関係の専門紙ということは決して口にせず、可能な限り黙っていたのは面倒ごとに巻き込まれたくないという思いがあったから。住戸数が100戸を少し超える規模のマンションでも、計画を練り上げる過程では意見の食い違いなどで説明会が紛糾することもしばしばだった▼工事の発注先も決まり準備が本格化すると、ベランダなどに置いてあった荷物を整理する家庭が多くなり、ごみ集積所はあっという間に不要物で満杯に。植木鉢や自転車、棚などに混じって「なぜこんな物まで?」と不思議に思う品物も▼出してしまえばごみなのだが集積所に集まった不思議な物にも思い出があるはず。不要物の整理をしていて昔を懐かしく思うのは年を取った証拠なのか▼工事は年末までかかるそう。断捨離でさっぱりしたわが家のベランダ。「余計なことは考えるな」と家族にくぎは刺されているが次はどんな風にしようかと、ひそかに作戦を練っている。

【2期に分け工事実施へ】新秩父宮ラグビー場整備、収容2・5万人規模の全天候型スタジアムに

  日本スポーツ振興センター(JSC)は、東京都港区で計画する「新秩父宮ラグビー場」の基本計画をまとめた。ラグビーだけにとどまらない用途を備えた収容約2万5000人の全天候型スタジアムに建て替える。

 新ラグビー場の建設や運営を担うPFI事業者を決める要件などを固めるため、7月上旬にもマーケットサウンディング(対話)調査を実施。2022年度から設計に入る。

 基本計画によると、北側に隣接する明治神宮第二球場を解体した跡地に新ラグビー場を建設する。座席数は2万席程度。ラグビー以外のスポーツやイベントに使用できるようにする。140×87メートルの人工芝のフィールドを整備。ラグビーの魅力を伝えるミュージアム、飲食店や物販といった機能も設ける。非常時の避難動線や緑化計画などに配慮する。

 BT(建設・移管)+コンセッション(公共施設等運営権)方式のPFIを採用する見通し。サウンディング調査の結果を踏まえ費用負担など事業者募集に必要な詳細を検討する。工事は2期に分ける。24~27年度のI期工事の完了後に施設運営権を設定する方針。II期工事は33年度から始める。基本計画の策定支援業務は日本総合研究所が担当した。

 新ラグビー場整備は、既存の秩父宮ラグビー場(東京都港区北青山2の8の35)を含む「神宮外苑地区」(約28ヘクタール)の再開発事業と一体的に進める見込み。三井不動産と明治神宮、JSC、伊藤忠商事の4者による個人施行による事業を想定する。

 昨年1月時点の再開発計画によると、新ラグビー場を含む「ラグビー場棟」は、RC・SRC造地下1階地上6階建て延べ4万3900平方メートルの規模。再開発事業で整備する施設群は総延べ約55万平方メートルを予定している。

【イチゴがモチーフ「まちこちゃん」登場】とちけん小町魅力向上委がイメージキャラクター

 栃木県建設業協会(栃木建協、谷黒克守会長)に加盟する会員企業の女性技術者や県の女性技術者らで組織する「とちけん小町魅力向上委員会」(委員長・竹澤尚美竹沢建設取締役)が、「とちけん小町」の公式キャラクターとロゴマークを作成した。女性の入職を促す取り組み。会員制交流サイト(SNS)などで活用していく。

 公式キャラクターの名前は「まちこちゃん」。県の名産品であるいちごがモチーフになっている。仕事は現場監督、特技は重機の操縦と細やかな気配り、性格は清潔好きという。公式ロゴマークは建設業を連想させるヘルメットといちごを掛け合わせたデザインだ。

 キャラクターとロゴマークは同向上委のメンバーで話し合って決めた。ステッカーも計4500枚作成した。女性技術者がヘルメットに貼るなどしてPRする。

 同向上委は2016年6月に発足した。栃木建協と県の女性技術者の意見交換会、女性が現場代理人を務める現場の見学会などを企画している。

【江戸時代の姿を再現】水戸城二の丸角櫓が完成、施工は株木建設JV

  水戸市が木造で再建していた「水戸城二の丸角櫓(すみやぐら)」が完成した。26日に開いた記念式典には高橋靖市長、水戸徳川家当主の徳川斉正氏、地元関係者、施工を担当した株木建設の株木康吉社長らが出席。高橋市長は「昨年の大手門復元に続き角櫓の竣工で三の丸エリアのハード整備はほぼ完了した。今後はソフト事業が大事になる。愛される施設になるよう利活用したい」とあいさつした。式典後にはテープカットで完成を祝った。

 角櫓の所在地は三の丸2。天守の無かった水戸城は5カ所の物見櫓が象徴になっていた。二の丸角櫓は1776(安永7)年の焼失後に再建され、明治時代に解体されたとされる。

 市は江戸時代の絵図や明治時代の写真を元に2018年から復元工事を実施してきた。規模は木造2階建て延べ128平方メートル。壁は白しっくい仕上げ、屋根は本瓦葺(ぶ)き。江戸時代の遺構に盛り土をして遺跡を保護。一部の礎石は江戸時代のものを使用している。内部は復元工事の様子や水戸城の歴史を紹介するパネル展示スペースになっている。

 設計・施工監理は文化財建造物保存技術協会。株木建設・豊島工務店・アルプス建設JVが施工した。再建に当たっては、宮大工や左官など可能な限り県内の人材を呼び寄せた。屋根の土居葺きは県内に技能者がおらず、岐阜県内の職人に依頼した。

 柏崎建雄所長(株木建設)は「何十年後に補修することを考え、技術継承のためにも地元でできることは地元でやりたかった。文化財の工事自体が少なく、職人が高齢化していて難しい面もあった」と工事を振り返った。

【記者手帖】暮らし支える職人に感謝

  日本テレビ系列で放送しているバラエティー番組「それって?実際どうなの課」を毎週視聴している。言い伝えや都市伝説、楽して稼げるウマい話を調査・検証するのが内容。企画の一つに高額収入が見込める職業をお笑い芸人が体験するコーナーがあり、建設業の仕事が頻繁に取り上げられる◆これまでコンクリートのはつり工や圧接工などが紹介された。現場の最前線で汗を流す職人の姿はとても格好良く映る。危険を伴う仕事に出演者が「工事中はうるさいと思うけど暮らしを支える彼らに感謝しよう」とコメントしていた。メディアの形は違えど建設業の魅力が伝わったように思えた◆家の隣で進むマンション工事。在宅勤務の時は騒音でイライラしていたが、「職人のおかげで安心して暮らせている」と思うと感謝の気持ちが芽生えた。職人の仕事を知ったことで考え方が変わった◆企業取材を担当していると役員へのインタビューや技術開発などの話を聞く機会は多い。現場で奮闘する人に取材で話を聞いた経験はない。現場をより深く知ればきっと違う見方で話が聞け、中身の濃い記事が書けるはず。まずは知り合いの配管工に仕事のやりがいや苦労話を聞いてみよう。(駿)

2021年6月28日月曜日

【回転窓】長い髪の善意

  町内会の女性グループがそろって髪を切った。病気やけがで髪が必要な人のために無償で提供するヘアドネーションと聞いた▼JISに適合するよう31センチ以上を求める団体があり、腰の上くらいまであったのを首が見えるほどにばっさり切った女性がいる。息子が幼稚園のころから小学4年になるまで切っていなかったり、帰宅途中の夫に見ず知らずの人と思われたりした女性もいる。傘をさして小学校に向かった子供たちを朝見送ってからも髪の話題が尽きないそうだ▼ヘアドネーションは髪の提供にとどまらない。切るのが久しぶりの人や初めての美容室に任せるのが不安な人がいるので、相談やカットに応じるスタッフを配置し郵送も担う協賛店がある▼シャンプーの収益を寄付し、髪を切らない取り組みを応援する企業や、31センチに満たない髪をヘアカラーの評価毛に役立てる企業も。コロナ禍で休止せざるを得なかった団体が髪の受け入れを再開し始めている▼ある団体によると、長い髪に憧れる女児が多く、医療用ウィッグなどに使う長い髪は慢性的に不足しているそう。髪を巡る善意の絆がより強くなりますように。

【実施設計・施工は竹中工務店JV】延べ4・7万㎡の中野区新庁舎、7月1日着工

20年10月時点の完成イメージ(中野区HPから)

  東京・中野区は新庁舎の建設工事に7月1日着手する。中野体育館の跡地に延べ約4・7万平方メートル規模の建物を整備する。基本設計と工事監理は日本設計。竹中工務店・協永建設・明成建設工業・武蔵野建設産業・INA新建築研究所JVが実施設計と施工を担当する。CM(コンストラクションマネジメント)業務は明豊ファシリティワークスに委託している。2024年2月の完成を目指す。

 着工に先立ち建設地で24日に施工者主催の安全祈願祭が開かれ、関係者が工事の無事故・無災害を祈願した。神事ではINA新建築研究所の加藤朋行社長が鎌、中野区の滝瀬裕之総務部新区役所整備担当部長が鍬、竹中工務店の野村信一常務執行役員が鋤を入れた。

 新庁舎整備事業は中野駅北口エリアで進む再開発プロジェクトの一環。現庁舎(中野4の8の1)を中野体育館跡地(中野4の11、敷地面積8557平方メートル)に移転する。新庁舎はS一部SRC・RC造地下2階地上11階塔屋1階建て延べ4万7311平方メートルの規模。

 外観に太陽光パネルや日射を抑制するひし形の膜を採用する。特徴的な機能は1階に設置する「イベントスペース」と屋外に隣接する「集いの広場」。両施設を一体的に活用しイベント開催を想定している。

【延べ11万㎡、ミュージアムやオフィス配置】MM21中央地区52街区開発(横浜市西区)、事業予定者に大和ハウス工業と光優

MM21中央地区52街区の完成イメージ
(右側が市有地、左側は国有地。横浜市提供)

 横浜市は、西区にある「みなとみらい(MM)21中央地区52街区」の開発事業予定者に大和ハウス工業と光優(横浜市港北区、襟川陽一社長)の2社を選定したと25日発表した。28階建て延べ約11万平方メートルのオフィスやミュージアム、商業施設などが入る複合施設を建設。2社は特定目的会社(SPC)を設立しプロジェクトを推進する。設計・施工は未定。2022年6月22日までに市有地の土地売買契約を結ぶ予定。23年1月に本体着工し26年7月までの供用開始を目指す。

 52街区は財務省が所有する国有地と市有地で構成する。一体開発に向け街区全体で開発事業者を公募した。企画提案を審査した上で国有地の落札者を決定する2段階方式の一般競争入札を実施。22日に国有地の落札者が決まり、その落札者を市有地の事業予定者に決定した。国有地は7月22日までに土地売買契約を締結する。

 52街区は国有地がみなとみらい5の1の3ほか(面積6199平方メートル)、市有地が5の1の2ほか(5618平方メートル)。提案によると地下1階地上28階建て延べ11万0142平方メートル、高さ約171メートルの超高層ビルを建設する。

 国有地部分は低層棟で1~2階にゲームアートミュージアムと店舗。市有地部分は1階が店舗、駐車場、2~3階にイノベーションプラットフォームなど。4~28階がオフィスフロアとなる。地下1階に地域冷暖房プラントを置く。SPCがオフィス、イノベーションプラットフォーム、商業部分などを区分所有。光優はゲームアートミュージアム、地域冷暖房プラントを区分所有する予定だ。

【やっぱり!マイ・ユニホーム!!】名工建設「機能性高め30年ぶり刷新」

 名工建設がユニホームを約30年ぶりにリニューアルする。フルハーネス型墜落制止用器具(安全帯)の着用が義務化されたことに対応。フルハーネス安全帯を想定したポケット位置の見直し、作業性を高める機能追加など機能を全面的に刷新した。10月に着用を始める。

 社章にも使っている緑とグレーをベースカラーとした。背中には社章を象徴したデザインを採用。女性用のブルゾンは腰がずり上がりやすい脇ゴムをやめ、着丈を長くすることで腰まで覆えるようにした。

 フルハーネス安全帯を装着した時も使えるようポケットの位置を変更した。5色ボールペンが収納できるペンさしも追加。肩や腰を痛めないよう、稼働サポート機能を付けたりIDカードチェーンの取り付けフックを追加したりと、現場目線で機能を高めた。両袖に蛍光ラインを入れることで、夜間の視認性を高めている。

 リニューアルに携わった人事部の担当者は「今後はユニホームの数量調査から調達、廃棄まで全てがオンラインで完結できるようにしたい」と話している。

【凜】山綱工務店・山口沙織さん

 ◇東京で初の女性1級型枠技能士に◇

 1月に東京会場で実施された型枠施工技能検定で、初の女性1級型枠施工技能士が誕生した。初めての挑戦で一発合格を果たした。学校卒業後は事務職に就いたが、会社が合併するのを機に退職。アルバイトをしながら父親が経営する型枠大工の専門工事会社を手伝った。

 「最初は現場に出ても掃除などの雑用ばかり。電動のこぎりさえも、持たせてもらえなかった。そのうち実際の作業を手伝うようになり、玉掛けやフォークリフトなどの資格を取得。みんなと同じことができるようになると仕事が楽しくなった」

 1級試験を受験したのは、応援に行った会社の職長に「指導するから挑戦してみたら」と言われたのがきっかけ。筆記試験の勉強は寝る前。実技も3カ月前から休日や夜間に練習した。

 「実技試験を初めて練習した時、5時間以内に終える作業が周囲に助けてもらっても9時間かかった。それで普段あまり使わない手ノコやカンナを猛練習し、作業を体に覚え込ませようと思った」

 型枠大工になって今年で18年目。会社は兄が継ぎ現在、兄のサポート役に。現場に行くといまだに女性が来たのかという顔をされることもある。そんな時は「意地でも負けない」と思う。「もっと実力を付けて職長になり、兄をもっと手助けしたい」。

 (やまぐち・さおり)

【駆け出しのころ】日本工営常務執行役員コンサル事業統括本部副事業統括本部長・福岡知久氏

  ◇壁から逃げずチャレンジを◇

 ゼネコンで働く父親の姿を見て育ち、小学校の文集に将来の夢は「建築事務所の社長」と書いたのを覚えています。大学の専攻を決める際に建築か土木で迷い、同級生との雑談で「土木は経済を動かす」との言葉に引かれました。

 あまのじゃく的な性格もあり、就活時にはみんなが選びそうなところを避けようと考え、土木コンサルタントに関心を持ちました。就職担当の先生の勧めもあり、縁あって当社に入社しました。

 入社当時は海外で仕事をしたいという思いが強かったですが、1~2カ月の海外勤務を除けば、会社人生ずっと国内勤務。最初は交通系の土木技術部門の空港課に配属されました。

 2年目に羽田空港ターミナルビルのエプロン関係の試験施工を担当。不同沈下に対応した舗装をどうするかが課題となり、当時は設計法も確立されていません。それならばと設計方法を作り、新しいことに取り組むことになりました。新人だから分からなくて当然だろうと開き直っていましたので、苦労よりも面白さを感じながら仕事をしていました。

 数年ほど設計業務に携わっていると、現場のことを知らない自分の将来に不安を感じました。とにかく現場に出たいと考え、現地の試験施工などを担当する研究所への異動を嘆願。いろいろありましたが希望が通り、研究所で必要な試験を一通り覚えた後、入社7年目で秋田の大館能代空港の現場に2年間常駐することができました。

 空港の建設プロジェクトでは技術委員会が設けられ、学識者や発注者など関係者が事業を技術面から多角的に検証します。さまざまな見方や考え方など、委員会対応を通じて自分も成長できたと思います。

 大館能代空港に続いて、福島空港のプロジェクトにも参加。滑走路下の地下道ボックスにかかる設計荷重の問題解決に当たり、大規模な試験施工を行いました。前例のない対策だったため、委員会でのやりとりはかなりハードでした。

 空港は出来上がると同じ形に見えますが、さまざまな技術的課題があり、その過程は異なります。一方的な技術の押し売りはやってはいけないこと。相手の意見やニーズをくみ取った上で、こちらの考えを伝えることが大切です。技術委員会では自社を代表して発言するプレッシャーが大きくなり、委員会の前日は緊張して寝られないこともしばしば。大変な場面を乗り越えるうちに、技術者としての自信が深まりました。

 デジタル社会の進展で多様な情報に簡単にアクセスできる時代になりましたが、そこにある知識を組み替えて知恵にするのが私たちの商売と言えます。苦労しながら自ら体験しないと、知恵を作るノウハウが身に付きません。若い人には必ずある壁から、逃げずに立ち向かうチャレンジ精神を忘れないでほしいです。

現場担当だった駆け出しのころから四半世紀ぶりに訪れた大館能代空港で

 (ふくおか・ともひさ)1988年東京工業大学大学院総合理工学研究科社会開発工学専攻修了、日本工営入社。社会システム事業部長や基盤技術事業部長などを経て2020年から現職。愛知県出身、58歳。

2021年6月25日金曜日

【岡部が初のテレビCM制作】好奇心旺盛でちょと恥ずかしがり屋、技術系社員オカベアーが奮闘

  建設資機材メーカーの岡部がテレビCMを初めて制作し24日から全国で放映している。入社3年目で技術開発部に所属する熊のキャラクター・オカベアー(28)が主人公。会議に参加したりヘルメットをかぶって現場に出たりする姿を通じて、同社の事業内容や仕事内容を分かりやすく紹介する。

 同社の「免震、耐震技術で命を守りたい」という思いをCMに込めた。知名度とブランド価値向上を狙う。テレビCMのタイトルは「若手社員オカベアーの手紙」。オカベアーが故郷の母親にしたためた手紙がテーマになっている。

 岡部で働いていることや先輩社員とのやりとりを通じて感じたことを手紙でつづる。CMに登場するのは同社で働く社員。ベテラン社員の「地震は減らせないけど、技術で被害は減らせるんだ」という言葉に感動するシーンが印象的だ。CMは動画投稿サイト・ユーチューブの同社公式チャンネルでも公開。特設サイトも開設している。

【建設地は名古屋競馬場跡地】第20回アジア競技大会選手村後利用事業、中部電力ら7者グループに

中部電力グループの提案イメージ(報道発表資料から)

  愛知県と名古屋市は24日、公募型プロポーザルを実施していた「第20回アジア競技大会選手村後利用事業」の契約候補事業者に中部電力を代表とする企業グループを選定したと発表した。3月に2グループから提案書を受け付け、今月11日にプレゼンテーションとヒアリングを実施していた。

 代表以外の構成員は中電不動産、日本エスコン、マザーズ、矢作地所、同朋学園、大和ハウス工業。

 2022年に弥富市に移転する名古屋競馬場(名古屋市港区泰明町)の跡地を26年のアジア大会開催時の選手村施設を含めて民間が開発する。

 提案によると、募集対象区域の約15・1ヘクタールすべての土地を購入。エリアを▽賑わい▽学び▽住まい-の3ゾーンに分け、複合商業施設や福祉系大学、スポーツ施設、幼稚園、留学生寮、一戸建て住宅、分譲マンション、複合型福祉施設などを整備する。コンセプトは「ウェルネス・アソシエーション」。多様な人々がつながり、健康で安全・安心に暮らせる魅力的なまちを目指す。

 施設のうち、選手村として一時使用を計画しているのは幼稚園、留学生寮、分譲マンション、複合型福祉施設の計1万3698平方メートル。

 中部電力グループは7~8月に基本協定を締結、本年度に後利用事業基本計画を作成し、22年度に基本計画協定、土地売買契約を結ぶ。

【吉野杉使いトイレの村をイメージ】隈研吾氏デザインの公衆トイレ、鍋島松濤公園(東京都渋谷区)に登場

  建築家の隈研吾氏がデザインした公衆トイレが24日、東京都渋谷区内に完成した。誰もが快適に使える公衆トイレを設置する日本財団(東京都港区、笹川陽平会長)のプロジェクト「THE TOKYO TOILET」の一環。吉野杉で囲った外壁が特徴で、集落のようなトイレの村をイメージし木で覆われた五つの小屋を並べた。

 隈氏が手掛けたトイレは鍋島松濤公園(松濤2の10の7)内にある。着替えなどさまざまな使い方を考慮してデザイン。隈氏は「多様性の時代を象徴した新たな公衆トイレになった」と説明している。

 暗い、臭いといった公衆トイレのイメージを払拭(ふっしょく)するのがプロジェクトの目的。性別や年齢、障害の有無に関係なく誰もが利用しやすいトイレの環境づくりを目指している。隈氏を含む世界で活躍するクリエイター16人が参画。渋谷区内17カ所の公衆トイレをリニューアルしている。今回が9カ所目。残る8カ所も2022年3月までに完成する予定だ。

2021年6月24日木曜日

【3Dモデルで歴史的建築物の魅力発信】安井武雄氏ら設計の「大阪瓦斯ビルヂング」、点群データで再現

点群データで再現した大阪瓦斯ビルヂング
(報道発表資料から)

  大阪ガス都市開発(大阪市中央区、友田泰弘社長)は、2003年に国の登録有形文化財に登録された「大阪瓦斯ビルヂング」を点群データ化した。デジタル技術を活用し、名建築を後世に継承していく新たな取り組み。デジタルデータで再現することで歴史的な魅力を体験してもらうとともに、災害発生後の文化財復元にも役立てる。

 レーザースキャナー(LS)で距離や形状をより正確に計測。写真や図面で表現できない建物の3Dデータ化を実現している。今後は点群データを活用したバーチャル空間の形成や改修工事の効率化などで効果を検証。都市や建築物のデジタル化をさらに展開する。

 大阪瓦斯ビルヂングは1933年竣工の南館と66年竣工の北館で構成する。南館は安井建築設計事務所を創設した安井武雄氏(1884~1955年)、北館は2代目社長の佐野正一氏(1921~2014年)が設計した。南館、北館とも大林組が施工した。

2021年6月23日水曜日

【回転窓】アジサイとワクチン

  梅雨に入り雨続きの季節が本番を迎えた。この時期の花の代表格と言えばなんと言ってもアジサイ。あでやかな花の色はもやもや気分を少し晴れやかにしてくれる▼いまや世界各地で栽培されているアジサイだが、原産地は日本。鎖国時代に来日していたドイツ人医師、シーボルトが世界に広めたという。欧州では「東洋のバラ」と呼ばれ人気も高い▼日本では山中や寺の庭先などにひっそりと咲くイメージがあり、どこか哀愁を感じさせる。シーボルトはアジサイを自分の愛人であった「お滝さん」にちなんで「オタクサ」と命名。長崎などでは今も親しみを込めて、この名で呼ばれている▼梅雨空の下、全国で新型コロナウイルスワクチンの接種が行われている。大手ゼネコン各社も職域接種を開始した(本紙21日付3面)。建設業は現場を止めずに頑張っているだけに、一日も早く作業員まで接種が行き渡り、安心して働ける環境ができることを祈るばかりだ▼アジサイは葉に毒があり根には解熱成分がある。毒と薬は裏表のような関係にあるということか。ワクチンも副作用があるようだが効く薬はそういうものなのだろう。

【地域のシンボルに】大阪府、新安治川水門(大阪市港区)のアイデアコンペ実施

  大阪府都市整備部は、安治川水門(大阪市港区弁天6)の上流側に設ける新水門のアイデアコンペの実施を検討している。募集方法案を21日の府河川構造物等審議会三大水門景観検討部会で提示。コンペの条件は、水門の役割や必要な機能、新水門の整備位置など基本的項目に限定し、自由なアイデアの提出を促す。コンペのスケジュール案によると、募集期間は7月8日から9月3日まで。1次審査で7作品程度に絞り、10月18日に7作品の作者がウェブでプレゼンテーションを行う。11月の部会で選定結果を発表する。

 アイデアコンペは、アーチ型の現水門が地域のシンボルとして親しまれていることを踏まえ、新水門も現水門と同様、地域の安全・安心のシンボルとするため企画。提案では新水門のデザインと周辺地域の活性化案も示してもらう。新水門や周辺地域が完成してから10~20年後のイメージを表現する。

コンペの参考資料として大阪府が示した「木津川水門」のイメージ
(大阪府提供)

 参加できるのは、個人やグループで、国籍や年齢は問わない。アイデアコンペでは新水門の形式自体は制限しない。資料として21日の部会にローラーゲート式の新しい木津川水門(大阪市大正区三軒家東)のパースを提示した。

 府は三大水門(木津川水門、安治川水門、尻無川水門〈大阪市大正区泉尾〉)の更新を計画。高潮に加え、府域に大きな被害を与える想定最大クラスの津波(L2津波)被害を軽減する構造物にする。いずれも1970年に完成したため、老朽化が進んでいる。

【震災復興の経験や教訓を発信】東北建協連、震災対応の記録誌発刊

  東北建設業協会連合会(東北建協連、千葉嘉春会長)は近く記録誌として「3・11東日本大震災からの対応記録」を発刊する。

 10年の節目を迎えた中、発災直後から現場の最前線で地域建設業が果たしてきた役割や、超法規的措置を講じた行政の対応などを紹介。主に全国の地方自治体や都道府県建設業協会に配布し、震災で得られた教訓の伝承や今後の活動で参考にしてもらう。

 冊子は震災の初動対応や復興について、2011~20年度の地域建設業や行政の動きを年度ごとにまとめている。地域建設業の今後の課題もまとめており、安定的な公共事業予算の確保に向けた活動や、働き方改革・生産性向上の推進などを訴えている。

 巻末には初動対応や復興にさまざまな形で携わってきた自民党の佐藤信秋、足立敏之両参院議員、政策研究大学院大学の徳山日出男客員教授、東北大学災害科学国際研究所の今村文彦所長、東北建協連の千葉会長の5人からの「未来へのエール」を掲載。東北6県の建設業協会会長のメッセージも紹介し、それぞれの立場から震災と向き合ってきた経験や教訓を発信する。

 記録誌は4000部を発行する予定。「未来へのエール」を寄せた5人のインタビューを収録したDVDも400枚作る。誌面の内容は7月までに東北建協連のホームページにもアップする。

【BIEへの開催申請手続き着手へ】政府、横浜花博の2027年開催を閣議決定

横浜花博の施設配置案(国交省提供)

  政府は22日に開いた閣議で、横浜市らが旧上瀬谷通信施設(瀬谷区、旭区)で計画している国際園芸博覧会(花博)の会期を2027年3~9月と決めた。320億円を見込む会場建設費は国と地方自治体、民間の間で3分の1ずつ負担する。今後は博覧会国際事務局(BIE)への申請手続きに着手し、22年度に承認を取り付ける。「国際園芸博覧会協会(仮称)」が発注者となり、23年3月ころに着工する方針だ。

 会場整備は将来的な街づくりとの整合性を十分に確保する。相鉄線瀬谷駅と会場を結ぶ新交通システム(延長約2・8キロ)の建設など、関連する基盤整備は自治体が公共事業費の範囲内で実施。会場運営費は入場料収入で賄い、国費助成はしない。

 開催には国際園芸家協会(AIPH)とBIEの承認が必要になる。AIPHは19年に承認済み。今後はBIEへの申請に向け調整を開始する。BIEの認定区分は会場面積や開催期間でランク付けされる。横浜市の花博は最上位の「A1」認定を得る見込み。国土交通省担当者によると「22年度末には最終的な承認が得られる予定」という。

 同日に会見した赤羽一嘉国交相は「地方公共団体や経済界との連携の下、引き続き開催に向けた準備に取り組む」と語った。

 会場は上瀬谷通信施設の南側敷地約100ヘクタール。約80ヘクタールをパビリオンなどの建設用地に充てる。メイン展示施設(延べ約1万平方メートル)や民間展示施設(6棟総延べ約1万8000~2万4000平方メートル)、飲食物販施設(延べ約1万6000平方メートル)などを建てる。

2021年6月22日火曜日

【感染拡大防止へ】ゼネコン各社、新型コロナワクチンの職域接種始まる

大成建設では21日に職域接種がスタートした
(21日、東京都内の本社接種会場で)

  ゼネコン各社で21日、新型コロナウイルスのワクチン職域接種が始まった。大成建設は都内の本社と東京支店の2会場で先行してワクチン接種を開始。1日当たり約500人ペースで開始し、来週には1日1000人のペースに拡大するという。対象は社員とその家族、協力会社の約3万人。同日、鹿島と清水建設も接種をスタートした。

 大成建設は作業を止められない現場関係者のスムーズな接種を促すため、社内専用のワクチン接種予約システムを導入。各作業所でシフトを調整しながらワクチン接種の予定を組むことができる。職域接種、自治体による接種ともに移動時間を含め業務扱いとなり、就業時間中の接種が可能という。

 梶村数弥管理本部人事部人事室長兼健康管理センター長によると、職域接種の期間は「数カ月程度をみている」という。梶村センター長は「自治体接種とのバランス」を課題に挙げ、「今後は自治体も医療スタッフが必要になる。バランスを見ながら職域接種を実施していく」と話す。

 清水建設も21日に都内の本社で職域接種を開始した。今後は会場を支社にも拡大していく方針だ。鹿島は社員を対象に接種をスタートし、派遣社員や協力会社社員などに順次拡大する。長谷工コーポレーションはグループ全役職員と家族を対象に24日から開始し、協力会社社員などにも対象を広げていく。竹中工務店は28日以降、準備が整い次第開始。大林組は29日からグループを含めた社員を対象に実施する。他の準大手・中堅ゼネコンらも実施を検討しており、今後建設業での接種が拡大しそうだ。

【回転窓】便利で手放せない。けれども

  2000年代半ばに普及し始めたスマートフォン。元祖は諸説あるけれども米アップルが07年に「iPhone」を発売したことをきっかけに、携帯電話はスマホ時代に入ったといえる▼今や通話よりもアプリを使ってゲームをしたり動画を見たりする方が多くなっているのでは。通勤電車で周囲を見渡すと、ほとんどの人が小さな画面に視線を落としているという光景も▼便利で手放せないツールなのだが、いったん不具合が起きると、どう対処すればいいのか途方に暮れてしまう。先日朝の通勤で自動改札を通ろうした時、機械にスマホをかざしたらなぜが無反応だった。定期券を登録しているアプリも開けず、データがクラッシュ状態になっていた▼「あぁ…。定期券を更新したばかりなのに」。冷たい汗が背中を流れたような気がした。駅員さんに相談してもデータが戻るはずもなく、切符を買って電車に乗った。車内でデータを探しまくりなんとか復旧できたものの、頭の中はパニック状態に近かった▼手のひらサイズの機械のご機嫌にすっかり手玉に取られた自分。冷静になってみると、なんだか切ない気持ちになる。

【歴史的建築物、年度内に方針取りまとめ】岐阜県羽島市、坂倉準三設計の旧庁舎在り方検討へ

坂倉準三が設計した旧羽島市庁舎
(羽島市ホームページから)

  岐阜県羽島市は、新庁舎が本年度に完成することに伴い、旧庁舎の在り方に関する検討を開始する。7月に学識者や関係団体、市民らで構成する「羽島市旧庁舎あり方検討委員会」を設置、初会合を開く。旧庁舎は同市出身でモダニズム建築を代表する建築家、坂倉準三が設計した現存する数少ない施設の一つであるため、専門的見地から市民レベルまでの幅広い意見を踏まえ、本年度内に方針を打ち出したい考えだ。

 旧庁舎(竹鼻町)の規模はRC造5階建て延べ4625平方メートル。1959年に完成し、翌年に第12回日本建築学会賞を受賞している。しかし、建設後60年以上が経過し構造躯体の劣化が進行。耐震性能も不足しているが耐震補強は行われていない。

 狭あい化やバリアフリー対応、市民サービスの面でも課題があったため、市は敷地内で庁舎の建て替えを決定。2019年11月に着工した。新庁舎の規模はS造5階建て延べ9719平方メートル。7月末に完成し、11月初旬に開庁の予定だ。

 市がこれまでに実施した意識調査では建築的、歴史的に貴重な旧庁舎の保存を望む声もある。しかし、耐震化には多額の予算も必要。このため、検討委員会では旧庁舎のほか、敷地内にある中庁舎、北庁舎、教育センターの利活用の在り方についても併せて協議、検討する方針だ。

【やっぱり!マイ・ユニホーム!!】弘電社「初の女性用タイプを用意」

  弘電社は5月にユニホームを一新した。グレーの生地に映える爽やかなブルーのパイピングが特徴。全社員に実施したアンケートからニーズを吸い上げ、ポケットデザイン、袖口、通気性などを改良した。女性社員の増加に伴い同社初となる女性専用タイプも製作。女性特有のシルエットデザインとなり、上着、パンツそれぞれ号数によるサイズ注文が可能になった。

 胸と脇のポケットには落下防止仕様としてファスナーにかぶせを設け、ファスナーの破損や引っかかりを防止。ポケットの中身が落ちることによる事故のリスクも低減した。袖脇部分にはメッシュを、背中には通気窓を付けて風通しを良くする夏場の暑さ対策を講じた。

 袖口には穴開きボタンとドットボタンを付けてサイズ調整できるように改良。ボタンが生地の表に出ない「隠し仕様」とし、器物に接触した際の傷つきを防止した。暗所での災害対策には反射材などを採用し、視認性を高めた。

 開発担当者は「作業着のリニューアルで機能性、安全性、快適性が向上したが、今後も作業服にとどまらず、環境改善に取り組む」と話している。

【駆け出しのころ】長大取締役事業推進本部長・大野浩伸氏

  ◇社内外で信頼関係築く◇

 古墳や遺跡が好きで地図にも興味があったこともあり、最初は航空測量の会社に就職しました。営業職として官公庁を中心に回り、熱意あふれる上司には営業で同業他社に勝る方法やポイントなどを教わりました。

 仕事に対する面白みは感じていたのですが、転勤のサイクルが早く、遠方の営業所で身近に友人が少ないという生活環境に多少の不満を抱いていたほか、より大きなマーケットでさまざまな業務の受注に携わりたいという気持ちが強まりました。

 縁あって長大に入社後は、東北管内の官公庁へのPRや特記仕様書関連の提案などを基に営業活動を展開。分からないことがあれば、橋梁や道路、交通、情報、環境など、当社の基幹事業である各分野の先輩技術者らに懇切丁寧に教えてもらいました。

 技術者の方々と一緒に仕事を進める中で、自分も幅広く知識を身に付けなければと思い、30代半ばにはRCCM(シビル・コンサルティング・マネジャー)を取得しました。若いころはとにかく知識を蓄積することに貪欲でした。

 技術で商売している会社ですから、やはり営業する上で自社の商品知識を頭に入れておく必要があります。会社の商品である技術を売り込むためには、文系だからと技術のことを学ばないわけにはいきません。技術者は専門・担当分野がある程度固まっていますが、営業職はやる気と前向きな気持ちさえあれば、さまざまな分野に自ら飛び込んでいけます。

 営業マンには発注者と自社を結び付けるコーディネーター的な役割も求められると思います。両者の真ん中に立ちながら、受注活動から実際の業務まで円滑に事が運ぶためのマネジメントを担う。時には発注者の立場になって、評価を高めるポイントを自社の技術者に助言したり、逆に発注者のニーズや困りごとに対して自社が持つ知見や人材を紹介したりする。さまざまな形で周りの方々と連携しながら、最終的に受注に結び付いた時が一番うれしいです。

 それぞれの業務で適任の技術者を算段できるのも、仕事の中で築いた人間関係、信頼関係があればこそ。発注者はもちろん、自社の技術者など社内外の人たちとの信頼関係は、対面で直接コミュニケーションを取り合う過程で築かれていくものです。

 コミュニケーションの取り方が多様化し、オンラインなどデジタル社会がどんなに進展しても、対面で会話することの大切さは変わりません。むしろこれまで以上に重要になります。

 営業、技術職の違いは大した問題ではなく、一人の人間としていかに信頼されるか。駆け出しのころの真摯(しんし)な気持ちを忘れずに、これからも皆さんと一緒に成長していきたいと思います。

入社2年目ころ、社内の道路情報WGの打ち上げで
(中央が本人)

 (おおの・ひろのぶ)1984年東海大学文学部史学科卒。航空測量会社で11年勤務した後、長大入社。執行役員事業推進本部副本部長、技術統轄センター次長などを経て2020年12月から現職。東京都出身、60歳。

2021年6月17日木曜日

【回転窓】家康と日比谷入江

 徳川家康が豊臣秀吉から江戸への転封を命じられたのは1590年。この命令に家康の家臣たちは激高した。家臣らが江戸で目にしたのは見渡す限りヨシ原の湿地帯と崩れかけた江戸城郭。荒涼とした風景に将来の希望を見いだすことができなかったからだ▼だが家康の考えは違った。関東一帯を歩き回るうちに、ある「宝物」を見つけたと、竹村公太郎氏は著書『日本史の謎は「地形」で解ける』(PHP文庫)で推測する。湿地帯の下に隠れている日本一広大で肥沃(ひよく)な関東平野を見抜いていた▼家康は城郭(現皇居)の目の前に広がる日比谷入江を埋め立てる一方、利根川を太平洋側に流す大規模な河川工事に着手する。埋め立てでできた敷地は大名屋敷などに充て、河川工事で関東平野を乾燥化して膨大な農地を作り出した▼9日付本紙で「(仮称)内幸町一丁目開発計画」の記事を掲載した。帝国ホテルやNTT日比谷ビルなどがある地区を3分割して再開発。2037年度までに総延べ110万平方メートルの施設群を造る▼この辺りはちょうど日比谷入江の海岸線に当たる。400年前の景色はもう想像もできない。

【「下北線路街」に新たなにぎわいを】生まれ変わった下北、鉄道地下化に合わせ街づくり進む

白で統一した「reload」の外観

  地下化された小田急電鉄小田原線の東北沢駅~世田谷代田間でにぎわいを生み出すプロジェクトが進行している。若者に人気の街・下北沢エリアを含む地上線路の跡地一帯を「下北線路街」(全長1・7キロ)と名付け、地域の個性を尊重した街づくりが進展。下北沢を象徴する個性あふれる店舗や保育園、学生寮などを多く誘致した。16日には新スタイルの商業施設がオープンする。

 小田急小田原線は東京都の連続立体交差化事業に伴い、2013年3月に代々木上原~梅ケ丘駅間が地下化した。線路の地下化後、小田急は都と渋谷区、世田谷区と線路跡地の利用を協議。13年11月に「ゾーニング(施設配置)構想」をまとめた。

 同構想では駅ごとに特色を出すため、東北沢エリアを「文化発信ゾーン」、下北沢エリアを「ショッピングゾーン」、世田谷代田エリアを「ライフ発信ゾーン」と位置付けた。世田谷区が整備する緑豊かな通路や駅前広場との調和も目指した。

 「シモキタ」の通称で親しまれる下北沢エリアは、サブカルチャーが集う街として知られる。「下北沢の人々は街づくりに対する意識が高いと感じた」。小田急電鉄まちづくり事業本部エリア事業創造部の向井隆昭氏は、住民を交えた世田谷区主催の街づくり会議を振り返る。

 個性豊かな人や店が集まるシモキタらしい魅力をもっと引き出すことはできないか。同社は地域の価値観を重視しながら支える「支援型開発」をテーマに掲げた。開発で価値を生み出す主体はあくまで地域の人々。「BE YOU.シモキタらしく。ジブンらしく。」をコンセプトに、多様性を尊重しながら人々のつながりを後押しする拠点づくりを目指した。

 線路街全体の敷地面積は約2万7500平方メートル(交差道路と駅施設を除く)。最西端の世田谷代田エリアに位置する「リージア代田テラス」(16年2月開業)を皮切りに、施設が次々にオープンした。

 コロナ下で先行きは不透明だが、ホテルなど残る3施設も年度内に開業予定で、合計13の施設が出そろうことになる。

 開業済みの施設でも個店を集めた「BONUS TRACK(ボーナストラック)」(20年4月開業)は特徴的だ。2階建て延べ約900平方メートルの長屋は、新たなチャレンジや個人の商いを応援する商業施設として整備した。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)と開業時期が重なったが、「地域内で消費しようとする地元の人々をリピーターにできた」(向井氏)ことで、滑り出しは順調という。

 線路街で10番目に開業する「reload(リロード)」は下北沢、東北沢両駅の中間に位置する。建物はS造2階建て延べ1890平方メートルの規模。大小さまざまな24区画を屋外通路でつないだ分棟式の建築で、従来型のビル型商業施設と趣が異なる。「店主の顔が見える個店街」をテーマに、チェーン店とは違った魅力を放つ飲食店や雑貨店、カフェなど個性的なテナントを迎えた。

 reloadの運営は街づくり企画などを手掛けるGREENING(東京都渋谷区、桐川博行代表取締役)が担当。テナント誘致から開業後のエリアマネジメントまでを統括する宮田應大執行役員は「薄れつつある顔なじみの個店が集まるシモキタの良さを再現したい」と話す。

 生活に質の高さを求めるこだわりを持った層を呼び込むため外観を白で統一。一方、内装はシモキタらしい雑多さがあふれる。1階と2階を結ぶ階段は棟ごとであえて不規則に配置。回遊性を大切にしながら、施設内を探検するような気分で、1日飽きずに買い物などを楽しんでもらうことを目指した。屋外空間を生かすためテラス席やベンチも用意。買ったばかりの食べ物が味わえる空間を生み出した。

 reloadには「シモキタの歴史を更新する場」「完成することなく変わり続けていく場」の二つの意味が込められている。宮田氏は「施設の完成形は描いていない」と話す。

 ローカル性や屋外空間を大事にしたスタイルは、ニューノーマル(新常態)への対応が求められる「これからの時代に合っている」と宮田氏。テナント同士のつながりを強めながら、積極的にイベントも開催していく。

 人口減少が続く中、住む場所、遊びに行きたい場所として選ばれるには、他では味わえない魅力を引き出し、多くの人に知ってもらう必要がある。シモキタらしさを詰め込んだ線路街開発は、人々の感情を刺激する「情緒的価値」を重視した。

 向井氏は「個性的な街は選ばれ続けていく」と強調する。アフターコロナの時代も見据え、鉄道利用者や沿線人口の増加に向けた起爆剤として下北線路街がどう進化していくのか、今後が楽しみだ。

【プロジェクト・アイ】船橋競馬場大規模改修(千葉県船橋市)、設計・施工は大成建設

商業施設側から見た完成イメージ。開放的な空間が特徴だ
(よみうりランド提供)
  千葉県船橋市にある船橋競馬場で、競馬の開催を続けながらスタンドを全面的に建て替える工事が進んでいる。築50年以上が経過し躯体や設備が老朽化したため、既存スタンドを2期に分けて取り壊し近代的な新スタンドを建設する。入退場口も新設し敷地内の動線も合わせて整備する。設計・施工は大成建設。工事は最盛期を迎えている。

 ◇レース開催止めずにリニューアル◇

 全面的な改築は70年を超える同競馬場の歴史で初めてとなる。佐川順一場長はリニューアルのコンセプトを「街との共生」と説明。同競馬場は周辺に大規模商業施設があり駅からも近い。恵まれた立地条件を生かし「競馬ファンの裾野を広げる施設にしていきたい」と意気込みを語る。

 まず来場者が入場しやすいように動線を変える。これまで場内への入り口は京成電鉄船橋競馬場駅側の北側入退場口だけだった。この動線に加え、JR京葉線南船橋駅や大規模商業施設がある西側にも入退場口を新設する。スタンド西側の装鞍(あん)所や競馬組合ビルなどは撤去し、新設するスタンド1階に機能を集約する。跡地は開放的な芝生広場とし、商業施設側のある西側からの眺望や動線を改良する。

 既存スタンドは2期に分けて解体。跡地にS造5階建て塔屋1階延べ1万5440平方メートルの新スタンドおよび付属棟を建設する。スタンド1階部分に管理機能を集約し、2階以上に観客席を配置。ボックス席やテラス席など親子連れから1人客までさまざまな需要に対応できる客席を設ける。来場者と競馬運営、管理部門の動線を分けることで、セキュリティーを強化する。

パドックの完成イメージ。改修で最も大きく変わる部分の一つだ
(よみうりランド提供)

 レース前に競走馬が周回するパドック(下見所)も変わる。パドックの観覧席はこれまで小さなコンクリート製ひな壇があるだけの素っ気ないものだったが、大型のデッキを連ねた劇場型観覧席に改修する。大型ビジョンを設け、迫力ある競走馬の生き生きとした姿を映す。

 レースに勝利した競走馬と騎手が間近に見られるウイナーズパークをスタンド前に新設し、競馬を楽しめるさまざまな仕掛けをつくる。佐川場長は「競馬場の主役は競走馬と騎手。施設面からも主役をアピールできるよう工夫していきたい」と述べるとともに、「馬券はインターネットの売り上げが好調だが、ファンには競馬場に来てもらい画面だけでは伝わらない面白さを味わってほしい」と、設備面も充実させる。

 ◇競走馬に配慮、振動や騒音を最大限抑制◇

 レース開催中は工事を止めているが、それ以外は時間を決めて工事を行っている。競馬場内の厩舎(きゅうしゃ)で飼育される600頭以上の競走馬は毎朝、レースと同じ馬場を使って調教を受ける。このため、工事開始は午前9時30分以降に制限され、馬が嫌う振動や騒音を最大限抑制しながら、細心の注意を払って工事が進められている。大成建設の担当者は「どの施工段階でも競馬が開催できるよう計画を組んでいる。これから順次、厩舎に近い部分の解体に入っていく。施工時間を調整し、競馬関係者と調整した事項を順守しつつ、慎重に工事に当たりたい」と話す。

敷地西側で新スタンドの建設が進む

 現在、西側の新スタンド第1期を建設中。今後、東側既設スタンドの解体と新スタンド第2期の建設へと進む。スタンド建て替えと並行して出入り口新設やパドック周辺の整備も行っていく。新スタンド完成後に西側の管理施設を解体する。新たな競馬場が姿を現すのは2024年春になる。

 最寄りのJR南船橋駅南口では大型再開発プロジェクトやアリーナ建設計画も浮上、街が大きく変貌しようとしている。佐川場長は「競馬場も一緒になって地域を活性化させ、まちを盛り上げていきたい」と力を込める。

 施設概要

 【発注者】   よみうりランド

 【建設地】   千葉県船橋市若松1の2の1

 【敷地面積】  33万2045平方メートル

 【規模(スタンド棟および付属棟)】S造5階建て塔屋1階延べ1万5440㎡

 【設計・施工】 大成建設

 【工期】    20年12月~24年3月

【オールジャパンで万博成功を】万博協、新会長に十倉雅和氏(経団連会長)選出

 2025年日本国際博覧会協会は16日に東京都内で理事会を開き、新しい会長・代表理事に十倉雅和氏(経団連会長)を選出した。19年の協会設立時から会長を務めていた中西宏明氏(前経団連会長)は体調不良のため1日付で退任していた。

 16日に記者会見した十倉氏は「新型コロナウイルス問題にしっかり向き合い、大阪・関西万博のテーマである『いのち輝く未来社会』をデザインし、世界に向けポストコロナの新しい時代を発信していきたい」と述べた。魅力ある万博にするには「多くの国、企業の参加が不可欠」とし、「政府主導で各国に参加を呼び掛けている。企業の参加も引き続き呼び掛け機運の醸成に努めていきたい」と語った。

 万博は「日本の『ソサエティー5・0』(政府が提唱する超スマート社会)を、世界に向けて発信する絶好の機会になる」と強調。「官民一体、オールジャパン体制で万博成功に尽力していきたい」と力を込めた。

【地域の守り手をエッセンシャルワーカー認定】群馬県、建設業をワクチン優先接種業種に追加

 山本一太群馬県知事と群馬県建設業協会(群馬建協)の青柳剛会長は16日に県庁で会見し、新型コロナウイルスワクチンの優先接種業種に建設業を加えると発表した。

 災害の緊急対応に出動する建設業などを県がエッセンシャルワーカーに位置付け、高崎市の大規模接種会場で接種を受けてもらう。青柳会長は「台風シーズン前に、災害に強固な体制を築きたい」と決意を示した。

 県が医療などのこれまでの優先枠に建設業、エネルギー・インフラ、公共交通を加えた。群馬建協は、地域の新規感染者や、市町村の接種状況を踏まえて本部が調整機能を担い、県内12支部単位で接種を進める。県、市町村、国の工事を中断せず、接種日を複数設けるなどして交代で接種を急ぐ。

 16日午前9時時点で協会事務局を含め会員企業のうちの249社、6136人が接種を希望している。接種に伴い体調不良があった場合には、業務の一環として対応するよう会員企業に求める。災害対応の実績のある関連企業の接種も順次進める。

 会見で山本知事は「社会インフラの維持に必要な建設業などを対象にする。災害に対応する社会に欠かすことのできない存在。建設業をエッセンシャルワーカーに位置付けるのは群馬が全国初」と説明した。青柳会長は「中小事業者も行政と一体になれば早期に接種できる。災害時のやりがいの醸成に寄与し、防災・減災国土強靱化になる。地域を守る建設業の役割をしっかり果たす」と述べた。

2021年6月15日火曜日

【回転窓】鳥の餌と執念の関係

 ○○さん、お帰りになる前に少しお時間いいですか? 4月に受けた会社の健康診断で突然声を掛けられた。理由は前回受けた健康診断の結果と比べて体重や血圧に大きな変動があったから▼コロナ禍のせいではないがここ1年で「体が重くなったなあ」と、ことあるたびに思っていた。体重計に乗る習慣はなかったが、それでも心の中ではダイエットしなきゃ…という声がどこからともなく響いていた▼一念発起ではないが、遅ればせながらダイエット生活を始めてみた。毎日歩いてウエートトレーニングをして、高タンパク低脂質の食事を取るようにする。リバウンドにおびえつつの節制生活。極端になりすぎないよう注意はしているつもりだが、それでも体重計の数字が気になる日々だ▼自分で決めたことは結果に納得ができるまでやり通す。50歳を過ぎて始めたダイエットは、なんだか仕事にも通じるものがあるように思えてならない▼鳥の餌、おいしいの?--。家族の冷ややかな言葉と視線を浴びながら毎朝食べるオートミールは栄養だけでなく、「今に見てろよ」という執念の原動力も一緒に取り込んでいる気がする。

【ご冥福をお祈り申し上げます】東大名誉教授・高橋裕氏が死去

 ◇幅広い分野で土木に貢献、流域治水の礎築く◇

 河川工学が専門で流域治水の礎を築いた高橋裕(たかはし・ゆたか)東京大学名誉教授が5月26日に死去した。94歳だった。葬儀は近親者で済ませた。有志によるお別れの会が検討されている。

 1927年に静岡県で生まれ、55年に東大大学院(旧制)研究奨学生課程を修了。東大や芝浦工業大学で教授を務めた。数多くの水害被災地を回り、都市化の影響を研究。構造物だけに頼るのではなく、遊水池などを含めた流域管理による総合治水対策を提唱した。環境影響への考慮や住民参加の重要性を訴え河川法改正にも影響を与えた。

 土木学会の初代広報委員長として87年の「土木の日」創設に尽力。土木と一般市民をつなぐ活動に力を注いだ。土木史の編さんや土木計画学の確立、技術者倫理規定の制定など幅広い分野で功績を残した。2015年には土木分野で初めて日本国際賞(主催・国際科学技術財団)を受賞した。著書が多く河川への哲学を持った文化人でもあった。後進の育成に尽力し数多くの研究者を指導した。

 高橋氏の訃報に、土木研究所水災害・リスクマネジメント国際センターの小池俊雄センター長は「数多くの現地調査を通じ洪水流を河道内に閉じ込め海に早く排出することは、洪水規模の増大と河川環境の悪化を招くと実証された。革新的概念は河川管理の基本的な考えに組み込まれ文化に昇華し、国際的な総合技術へ発展する礎を築かれた」と功績をたたえた。

 虫明功臣東大名誉教授は「戦後の河川災害や渇水、環境問題など幅広い視点で施策をリードされ、日本の河川の施策を海外に発信した。昨年まで精力的に活動され、先生の考え方は多くの後輩がきっと受け継いでいくだろう」とコメント。宮村忠関東学院大学名誉教授は「幅広い引き出しをたくさん持ち、その組み合わせも整理されていて話を広げる名人だった」と恩師をしのんだ。

【記者手帖】暗渠が伝える街の姿

  東京の各地区で開発計画を取材していると、それぞれの街が目指す将来像などをイメージできるようになる。一方、街の過去の姿はなかなか知る機会がない。なにか手掛かりはないかと調べていた時、「暗渠」というキーワードが目に入った◆暗渠は、川や用水路を地下に埋設したりふたをしたりしたもの。地上部分に道路などが整備されると発見するのは難しいが、見分けるポイントもある。緑道や細く曲がりくねった道、幅が広い歩道などは格好の手掛かり。埋設した配水管に負荷をかけないように車止めが設置されているケースも多いという◆自分が住む街を散策してみると多くの暗渠があり驚いた。地元団体の資料によると、玉川上水を源流とする農業用水路が発達した地域だったという。今は住宅街になっているが、当時は豊かな田園風景が広がっていたに違いない◆東京は新たな開発計画が続々と立ち上がり、街の姿が刻々と変化している。そんな中で、暗渠は土地の過去を伝える貴重な遺産だろう。形跡をたどれば土地の地形や歴史など新たな発見があるかもしれない。(暉)

【大船渡工場の原料供給拠点】太平洋セメント、岩手県で新たな石灰石鉱山開発

大船渡鉱山袰下地区の山頂開発で100年以上の採掘が可能に
(太平洋セメント提供)

 太平洋セメントが、岩手県住田町の袰下(ほろし)地区で新たな鉱山の操業を開始した。セメント原料となる石灰石鉱量は約2億5000万トンを見込む。100年分以上に相当する量になるという。岩手県大船渡市の大船渡工場を支える供給拠点で、今後の成長にとって大きな武器となる。

 同工場は1937年に操業開始し、長岩、坂本沢、大平の3地区で採掘してきた。2013年に長岩地区の採掘が終了。大平地区も5年後をめどに採掘を終える予定だ。今後の安定供給を狙いに、16年に袰下地区の開発工事に着手。山頂までの鉱山道路や坑外破砕室建屋を新設したほか、石灰石鉱床の上部にある表土を剥ぐ採掘切羽の造成などを実施。建屋にはふるい機や破砕機などを設置した。

 石灰石は既存ベルトコンベヤールートにつなげて輸送する。トンネルや気仙川に架かる全長約130メートルのコンクリート橋梁を整備し、総延長約7キロのベルトコンベヤールートを新たに設けた。1時間当たり1000トン以上の石灰石輸送が可能で、年間200万~300万トンを採掘する予定だ。現在の採掘面積は約4ヘクタールで、最終的には80ヘクタール規模に拡大する見通し。製紙原料となる寒水石の産出も見込む。5月19日には現地で竣工式が開かれた。不死原正文社長は、「今回の開発工事で大船渡鉱山は今後100年以上にわたって大船渡工場へセメント原料としての石灰石を供給可能となり、安定操業、業績向上に大きく貢献していくものと確信している」と期待を込めた。

採掘した石灰石の粉砕設備(太平洋セメント提供)

 同社は21年度に3カ年を対象とした中期経営計画をスタートしており、事業基盤の強化へ投資を進める。鉱山の強靱化には30年度までに1000億円を投じ、石灰石資源の長期安定供給体制を確立する。大分工場(大分県津久見市)でも、八戸地区でセメント原料鉱区を開発。29年の出鉱を目指す。「鉱山のめどがついたら、工場の強靱化を図る」(不死原社長)方針で、工場設備にも30年度までに1000億円を投資。主機更新や生産・設備管理の高度化、人工知能(AI)化に取り組む。

 セメント協会(小野直樹会長)のまとめによると、20年度のセメントの国内販売量は3865万トン(前年度比5・6%減)で、54年ぶりの低水準となった。人口減少などを背景とした中長期的なトレンドに、新型コロナウイルスというマイナス要因が加わった格好で、厳しい経営環境下での競争力強化が求められる。業界内では「良い鉱山を持っているかどうかで発言力が増してくる」(セメント会社幹部)との声も聞かれる。今後の業界の姿を占う上でも、鉱山開発の動向に注目が集まりそうだ。

【プロジェクト・アイ】カイタックスポーツパーク・メインスタジアム(香港)

屋根を開放したカイタックスタジアムの完成イメージ
(横河システム建築提供)

  横河ブリッジホールディングス(HD)の事業会社、横河システム建築(千葉県船橋市、桑原一也社長)が、香港に建設される大規模スタジアムへの屋根駆動システム導入に向けて準備を進めている。実施工を前に国内で実機を一部用いた走行試験を実施。最終段階には、香港などとオンラインでつないで立ち会い検査を行い、性能を確認した。現在は残りの駆動装置を製作中。年内をめどに完了させ、来年に現地での作業が始まる予定だ。

 ◇開閉屋根駆動システム導入へ準備着々◇

 手掛けるのは、香港の空港跡地に整備される大規模スポーツ・レジャー施設「カイタックスポーツパーク」のメインスタジアムの可動屋根。スタジアムは5万人収容の規模で、ドームの直径は約228メートル×268メートル、ドーム最高高さは約63メートル。

 発注者は香港政府で、現地企業のニューワールドデベロップメントカンパニーと、NWSホールディングスが立ち上げたカイタックスポーツパーク(KTSP)が運営母体となる。20年間の運営も含めた発注となっており、全体の建設・運営費は約4400億円。設計・施工・運営コンソーシアムには、地元ゼネコンのヒッピンのほか、世界的に活躍する大手設計事務所が参画。構造はアラップが、意匠はポピュラスが手掛ける。

 横河システム建築はヒッピンから駆動装置を受注した。屋根駆動システムの設計や製作、据え付けなどを担当する。契約金額は約54億円。可動屋根は大きさ150メートル×45メートル、重さ2300トンの屋根2枚で構成される。約20分かけて43・5メートルずつ両側に移動して開く。駆動装置はウインチ1台と台車3台で構成され計4セットを納入する。

 同社は、香港競馬場のパドックやJリーグ・ヴィッセル神戸が本拠地とするノエビアスタジアム神戸(神戸市兵庫区)などで大型開閉式屋根の設計・据え付け実績がある。国内のドーム工事では、装置ごとに有効性を確認することが一般的だが、今回は香港政府の要求事項に盛り込まれていたため、試験体による走行試験実施に至った。

試験ヤードで実機を使い走行性能を確認した
(横河システム建築提供)

 横河システム建築は、千葉県袖ケ浦市のYSC千葉工場に、走行距離が約半分となる21メートルの駆動装置を設置。ウインチと台車は現地で使う実機を1セット据え付け、制御盤も実機を使用して100回の往復走行試験を行った。

 台車とワイヤロープを接続するロードセルの荷重や走行時間、ウインチモーターの温度・電流値・周波数などを計測し、問題なく稼働できることをチェックした。異常時に止める安全装置(インターロック)も含めた制御も確認済み。屋根開閉時に風の抵抗を受ける事態を想定し、特別な油圧装置で抵抗を負荷した実験も行った。

 ◇国内で往復走行試験100回、立ち会い検査4カ国に中継◇

関係者が見守る中、オンライン検査を実施した
(横河システム建築提供)

 最終段階の100回目の試験は、4月15日に4カ国をオンラインで結んで関係者に中継した。香港政府やヒッピンの担当者のほか、ドイツとイギリスからも関係者が見守る中、約20分間をかけて往復走行した。試験結果を見た香港政府やヒッピンの関係者からは「課題を克服し、運用テストを満足のいく形で終えたことをうれしく思う」との声が上がった。横河システム建築の高柳隆取締役兼常務執行役員は「今後は、製品の出荷、現場での駆動装置システムの据え付け、試運転という最終ステージへと移行する。安全第一に、高い品質の確保、工程順守でまい進する」と決意を述べた。

 同社は、香港で日系ゼネコンの下請として屋根駆動システムを施工した実績があるが、今回のように地元ゼネコンからの直接受注は初めてとなる。現地の仕上がりに柔軟に対応できるようなアジャスト装置などを準備し、円滑な稼働を実現する方針だ。試験施工で得た知見を生かし、現場での据え付けがよりスムーズに進むような工夫も取り入れる。

 ここまでの大規模プロジェクトは国際的にも数が限られる。高柳取締役は「大変な仕事だが、30年や40年の技術者人生に一度あるかないかという経験になる。この仕事を通じて技術を継承したい」と話す。

 竣工予定は2023年7月29日。「世界3大設計事務所に入るアラップとポピュラスが参画しており、ドリームチームと言えるような良いメンバーだ」と高柳取締役。「良いつながりができた。繊細な仕事できっちりと納めて、次につなげたい」と先を見据える。