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白で統一した「reload」の外観
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地下化された小田急電鉄小田原線の東北沢駅~世田谷代田間でにぎわいを生み出すプロジェクトが進行している。若者に人気の街・下北沢エリアを含む地上線路の跡地一帯を「下北線路街」(全長1・7キロ)と名付け、地域の個性を尊重した街づくりが進展。下北沢を象徴する個性あふれる店舗や保育園、学生寮などを多く誘致した。16日には新スタイルの商業施設がオープンする。
小田急小田原線は東京都の連続立体交差化事業に伴い、2013年3月に代々木上原~梅ケ丘駅間が地下化した。線路の地下化後、小田急は都と渋谷区、世田谷区と線路跡地の利用を協議。13年11月に「ゾーニング(施設配置)構想」をまとめた。
同構想では駅ごとに特色を出すため、東北沢エリアを「文化発信ゾーン」、下北沢エリアを「ショッピングゾーン」、世田谷代田エリアを「ライフ発信ゾーン」と位置付けた。世田谷区が整備する緑豊かな通路や駅前広場との調和も目指した。
「シモキタ」の通称で親しまれる下北沢エリアは、サブカルチャーが集う街として知られる。「下北沢の人々は街づくりに対する意識が高いと感じた」。小田急電鉄まちづくり事業本部エリア事業創造部の向井隆昭氏は、住民を交えた世田谷区主催の街づくり会議を振り返る。
個性豊かな人や店が集まるシモキタらしい魅力をもっと引き出すことはできないか。同社は地域の価値観を重視しながら支える「支援型開発」をテーマに掲げた。開発で価値を生み出す主体はあくまで地域の人々。「BE YOU.シモキタらしく。ジブンらしく。」をコンセプトに、多様性を尊重しながら人々のつながりを後押しする拠点づくりを目指した。
線路街全体の敷地面積は約2万7500平方メートル(交差道路と駅施設を除く)。最西端の世田谷代田エリアに位置する「リージア代田テラス」(16年2月開業)を皮切りに、施設が次々にオープンした。
コロナ下で先行きは不透明だが、ホテルなど残る3施設も年度内に開業予定で、合計13の施設が出そろうことになる。
開業済みの施設でも個店を集めた「BONUS TRACK(ボーナストラック)」(20年4月開業)は特徴的だ。2階建て延べ約900平方メートルの長屋は、新たなチャレンジや個人の商いを応援する商業施設として整備した。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)と開業時期が重なったが、「地域内で消費しようとする地元の人々をリピーターにできた」(向井氏)ことで、滑り出しは順調という。
線路街で10番目に開業する「reload(リロード)」は下北沢、東北沢両駅の中間に位置する。建物はS造2階建て延べ1890平方メートルの規模。大小さまざまな24区画を屋外通路でつないだ分棟式の建築で、従来型のビル型商業施設と趣が異なる。「店主の顔が見える個店街」をテーマに、チェーン店とは違った魅力を放つ飲食店や雑貨店、カフェなど個性的なテナントを迎えた。
reloadの運営は街づくり企画などを手掛けるGREENING(東京都渋谷区、桐川博行代表取締役)が担当。テナント誘致から開業後のエリアマネジメントまでを統括する宮田應大執行役員は「薄れつつある顔なじみの個店が集まるシモキタの良さを再現したい」と話す。
生活に質の高さを求めるこだわりを持った層を呼び込むため外観を白で統一。一方、内装はシモキタらしい雑多さがあふれる。1階と2階を結ぶ階段は棟ごとであえて不規則に配置。回遊性を大切にしながら、施設内を探検するような気分で、1日飽きずに買い物などを楽しんでもらうことを目指した。屋外空間を生かすためテラス席やベンチも用意。買ったばかりの食べ物が味わえる空間を生み出した。
reloadには「シモキタの歴史を更新する場」「完成することなく変わり続けていく場」の二つの意味が込められている。宮田氏は「施設の完成形は描いていない」と話す。
ローカル性や屋外空間を大事にしたスタイルは、ニューノーマル(新常態)への対応が求められる「これからの時代に合っている」と宮田氏。テナント同士のつながりを強めながら、積極的にイベントも開催していく。
人口減少が続く中、住む場所、遊びに行きたい場所として選ばれるには、他では味わえない魅力を引き出し、多くの人に知ってもらう必要がある。シモキタらしさを詰め込んだ線路街開発は、人々の感情を刺激する「情緒的価値」を重視した。
向井氏は「個性的な街は選ばれ続けていく」と強調する。アフターコロナの時代も見据え、鉄道利用者や沿線人口の増加に向けた起爆剤として下北線路街がどう進化していくのか、今後が楽しみだ。