2021年6月15日火曜日

【大船渡工場の原料供給拠点】太平洋セメント、岩手県で新たな石灰石鉱山開発

大船渡鉱山袰下地区の山頂開発で100年以上の採掘が可能に
(太平洋セメント提供)

 太平洋セメントが、岩手県住田町の袰下(ほろし)地区で新たな鉱山の操業を開始した。セメント原料となる石灰石鉱量は約2億5000万トンを見込む。100年分以上に相当する量になるという。岩手県大船渡市の大船渡工場を支える供給拠点で、今後の成長にとって大きな武器となる。

 同工場は1937年に操業開始し、長岩、坂本沢、大平の3地区で採掘してきた。2013年に長岩地区の採掘が終了。大平地区も5年後をめどに採掘を終える予定だ。今後の安定供給を狙いに、16年に袰下地区の開発工事に着手。山頂までの鉱山道路や坑外破砕室建屋を新設したほか、石灰石鉱床の上部にある表土を剥ぐ採掘切羽の造成などを実施。建屋にはふるい機や破砕機などを設置した。

 石灰石は既存ベルトコンベヤールートにつなげて輸送する。トンネルや気仙川に架かる全長約130メートルのコンクリート橋梁を整備し、総延長約7キロのベルトコンベヤールートを新たに設けた。1時間当たり1000トン以上の石灰石輸送が可能で、年間200万~300万トンを採掘する予定だ。現在の採掘面積は約4ヘクタールで、最終的には80ヘクタール規模に拡大する見通し。製紙原料となる寒水石の産出も見込む。5月19日には現地で竣工式が開かれた。不死原正文社長は、「今回の開発工事で大船渡鉱山は今後100年以上にわたって大船渡工場へセメント原料としての石灰石を供給可能となり、安定操業、業績向上に大きく貢献していくものと確信している」と期待を込めた。

採掘した石灰石の粉砕設備(太平洋セメント提供)

 同社は21年度に3カ年を対象とした中期経営計画をスタートしており、事業基盤の強化へ投資を進める。鉱山の強靱化には30年度までに1000億円を投じ、石灰石資源の長期安定供給体制を確立する。大分工場(大分県津久見市)でも、八戸地区でセメント原料鉱区を開発。29年の出鉱を目指す。「鉱山のめどがついたら、工場の強靱化を図る」(不死原社長)方針で、工場設備にも30年度までに1000億円を投資。主機更新や生産・設備管理の高度化、人工知能(AI)化に取り組む。

 セメント協会(小野直樹会長)のまとめによると、20年度のセメントの国内販売量は3865万トン(前年度比5・6%減)で、54年ぶりの低水準となった。人口減少などを背景とした中長期的なトレンドに、新型コロナウイルスというマイナス要因が加わった格好で、厳しい経営環境下での競争力強化が求められる。業界内では「良い鉱山を持っているかどうかで発言力が増してくる」(セメント会社幹部)との声も聞かれる。今後の業界の姿を占う上でも、鉱山開発の動向に注目が集まりそうだ。

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