2021年6月7日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・288

地盤改良は国土の安全・安心を支える重要な仕事

 ◇見えないものづくりに誇り◇ 

 大学で機械工学を学んだ大木光明さん(仮名)は「大きな重機でものづくりがしたい」という夢をかなえるため、就職先に建設会社を選んだ。これまで携わってきた仕事は地盤改良工事。土木構造物や建築物と違い直接目にする機会がほとんど無い、縁の下の力持ちのような存在。けれども「何事もなく構造物が存在することが仕事の成果」とプライドを持って現場に立ち続けている。

 入社したのは阪神淡路大震災が発生した1995年。地震の爪痕が大きく残る大阪市内の河川堤防復旧工事に携わった。1000人以上が働く大現場。市民や行政の期待は大きく、緊迫感はいや応なしに高まった。「自分にできることは何か」。自問自答を繰り返しながらひたすら目の前の仕事に没頭した。作業が深夜に及ぶこともしばしば。体力と我慢強さに自信はあったが工事が進んでいくと、とにかく「お金よりも休みがほしかった」。それでも一刻も早く市民の安全を守るという使命感が自分を突き動かす原動力になった。

 その後も西日本を中心に地盤改良の仕事に携わった。「勉強不足です」と言えるのが若手の特権。「知ったかぶりをすると必ず見透かされる」ため、分からないことがあれば上司を追いかけ回してでも聞いた。親子ほど年が離れた職人にも積極的に話し掛け、少しずつ信頼関係を築いていった。

 20代後半で所長を任され現場運営の大変さを知った。それまでは自分の仕事だけを考えていればよく、自分の考えが一番正しいと思っていた。言いたいことは我慢できないタイプ。上司でも「おかしいことはおかしい」と意見をぶつけてきた。

 自信を持つことは大切だが、それは自制があってこそ。心に隙が生まれれば過信や慢心につながる。現場を仕切る立場になり周りの意見を聞きながら物事を進め、全体の完成形をイメージして仕事をすることの大切さを学んだ。

 「工事の初期段階から150%の力を注いだ。いやな仕事も率先してやった」。周りの信頼を得なければ思い通りの仕事はできない。「そういう現場運営に持っていけるかが所長の手腕だ」と話す。

 40代前半で本社の工務課に異動した。大好きな現場を離れたが「現場の声を会社に伝えることが使命」と思っている。建設業界は4週8休の実現に向け働き方が変わりつつある。生産性を高めるため施工機械の自動化なども進む。

 「作業効率を重視するあまりに余裕がない。昔のように勤務時間外で得ていた経験や知見をそいでしまっている」ことに、少なからずジレンマを感じている。昔はもっと仕事に貪欲でチャレンジ精神も旺盛だった。「昔はこうだった」と若手に押し付ける気持ちはない。限られた時間でも時には“寄り道”ができる、余裕のある現場づくりが必要と考える。

 地盤改良の魅力を若者に伝えるのは難しい。でも構造物が成り立つのは地盤改良があってこそ、という自負がある。「見えないものづくりを見えるようにする。やりがいや楽しさ、魅力を発信したい」。それが胸に秘めた思いだ。

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