屋根を開放したカイタックスタジアムの完成イメージ (横河システム建築提供) |
横河ブリッジホールディングス(HD)の事業会社、横河システム建築(千葉県船橋市、桑原一也社長)が、香港に建設される大規模スタジアムへの屋根駆動システム導入に向けて準備を進めている。実施工を前に国内で実機を一部用いた走行試験を実施。最終段階には、香港などとオンラインでつないで立ち会い検査を行い、性能を確認した。現在は残りの駆動装置を製作中。年内をめどに完了させ、来年に現地での作業が始まる予定だ。
◇開閉屋根駆動システム導入へ準備着々◇
手掛けるのは、香港の空港跡地に整備される大規模スポーツ・レジャー施設「カイタックスポーツパーク」のメインスタジアムの可動屋根。スタジアムは5万人収容の規模で、ドームの直径は約228メートル×268メートル、ドーム最高高さは約63メートル。
発注者は香港政府で、現地企業のニューワールドデベロップメントカンパニーと、NWSホールディングスが立ち上げたカイタックスポーツパーク(KTSP)が運営母体となる。20年間の運営も含めた発注となっており、全体の建設・運営費は約4400億円。設計・施工・運営コンソーシアムには、地元ゼネコンのヒッピンのほか、世界的に活躍する大手設計事務所が参画。構造はアラップが、意匠はポピュラスが手掛ける。
横河システム建築はヒッピンから駆動装置を受注した。屋根駆動システムの設計や製作、据え付けなどを担当する。契約金額は約54億円。可動屋根は大きさ150メートル×45メートル、重さ2300トンの屋根2枚で構成される。約20分かけて43・5メートルずつ両側に移動して開く。駆動装置はウインチ1台と台車3台で構成され計4セットを納入する。
同社は、香港競馬場のパドックやJリーグ・ヴィッセル神戸が本拠地とするノエビアスタジアム神戸(神戸市兵庫区)などで大型開閉式屋根の設計・据え付け実績がある。国内のドーム工事では、装置ごとに有効性を確認することが一般的だが、今回は香港政府の要求事項に盛り込まれていたため、試験体による走行試験実施に至った。
試験ヤードで実機を使い走行性能を確認した (横河システム建築提供) |
横河システム建築は、千葉県袖ケ浦市のYSC千葉工場に、走行距離が約半分となる21メートルの駆動装置を設置。ウインチと台車は現地で使う実機を1セット据え付け、制御盤も実機を使用して100回の往復走行試験を行った。
台車とワイヤロープを接続するロードセルの荷重や走行時間、ウインチモーターの温度・電流値・周波数などを計測し、問題なく稼働できることをチェックした。異常時に止める安全装置(インターロック)も含めた制御も確認済み。屋根開閉時に風の抵抗を受ける事態を想定し、特別な油圧装置で抵抗を負荷した実験も行った。
◇国内で往復走行試験100回、立ち会い検査4カ国に中継◇
関係者が見守る中、オンライン検査を実施した (横河システム建築提供) |
最終段階の100回目の試験は、4月15日に4カ国をオンラインで結んで関係者に中継した。香港政府やヒッピンの担当者のほか、ドイツとイギリスからも関係者が見守る中、約20分間をかけて往復走行した。試験結果を見た香港政府やヒッピンの関係者からは「課題を克服し、運用テストを満足のいく形で終えたことをうれしく思う」との声が上がった。横河システム建築の高柳隆取締役兼常務執行役員は「今後は、製品の出荷、現場での駆動装置システムの据え付け、試運転という最終ステージへと移行する。安全第一に、高い品質の確保、工程順守でまい進する」と決意を述べた。
同社は、香港で日系ゼネコンの下請として屋根駆動システムを施工した実績があるが、今回のように地元ゼネコンからの直接受注は初めてとなる。現地の仕上がりに柔軟に対応できるようなアジャスト装置などを準備し、円滑な稼働を実現する方針だ。試験施工で得た知見を生かし、現場での据え付けがよりスムーズに進むような工夫も取り入れる。
ここまでの大規模プロジェクトは国際的にも数が限られる。高柳取締役は「大変な仕事だが、30年や40年の技術者人生に一度あるかないかという経験になる。この仕事を通じて技術を継承したい」と話す。
竣工予定は2023年7月29日。「世界3大設計事務所に入るアラップとポピュラスが参画しており、ドリームチームと言えるような良いメンバーだ」と高柳取締役。「良いつながりができた。繊細な仕事できっちりと納めて、次につなげたい」と先を見据える。
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