建設コンサルタンツ協会(建コン協、野崎秀則会長)が、会員企業を対象に行った「テレワークの実態調査」の結果をまとめた。コロナ禍で社員の安全・安心を最優先に、半数以上の社が緊急事態宣言の有無を問わず通年で対応。通勤時間の削減に伴う作業効率の改善などに効果を実感しているようだ。一方、対話不足を理由に孤独を感じる社員も少なくない。心をケアし、人材育成をどう進めていくのか。各社が知恵を絞る。
◇効率アップ進むも社員の心のケアが課題◇
回答企業の内訳は、売上高が▽5億円未満20%▽5億~10億円未満22%▽10億~50億円未満34%▽50億~100億円未満9%▽100億円以上15%。社員数が100人未満の企業が半数以上を占める。100~300人は22%、500人以上は16%だった。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で、会員企業の82%がテレワークを実施。うち52%が通年で実施し、残る38%は緊急事態宣言の期間のみ行った。「実施しなかった」と回答した企業は「コロナの感染者が少ない」や「特に必要ない」点を理由に挙げるなど対応が分かれた。
(建コン協の資料を基に作成) |
労働管理方法で多数を占めたのが「社内システムへリモート入力」(66社)。「メールなどで時間申告」(54社)と続いた。仕事場所は自宅を利用するケースが最も多かった。在宅勤務の導入効果を聞いたところ、「作業に集中できる」や「移動時間の減少による作業時間の確保」を挙げた。職種ごとに違いはあるが、時間を有効活用できる点や通勤中のストレス軽減にメリットを感じているようだ。
ただ中には、効率低下を指摘する社員も存在する。在宅勤務下では情報通信機器が充実しているとは言いがたく、「印刷できない」や「2画面作業ができない」など設備面に不満を抱える社員は多い。対面が当たり前だったコロナ禍以前と違い、ウェブ会議を使用した発注者協議が拡大基調にあるが、社外との調整に難しさを感じる社員も存在する。
情報漏えいに対しては、これまでよりもシビアに向き合っている。建設業界でも被害が続出するランサムウエア(身代金要求型ウイルス)は、企業活動を脅かす存在となっている。被害を懸念する各社は個人が所有するPCの使用を禁止したり、社内のPCを遠隔地から接続できる「リモートデスクトップ」を導入したりと、あの手この手の対策を講じている。
押印廃止やペーパーレス化に取り組む社も多い。スムーズな精算方法や意思決定を目指し、各社が領収書の電子化や電子稟議(りんぎ)・決裁システムを導入。効率化に努めている。
セキュリティー対策以外で課題となっているのが人材育成だ。対面と違い、リモート下では上司と部下がコンスタントに対話できる機会が限られている。回答企業の90社が「人材育成、若手への指導の難しさ」を課題に挙げた。
◇「孤独感を助長」心のケアが課題◇
若手社員が自宅で黙々と作業する環境は、「不安や孤独感を助長させる」可能性もある。仕事と私生活の切り替えも難しく、「精神衛生上良くない」と説く経営トップも少なくない。産業医による面談やオンラインツールを利用した定期的な面談を実施するなど、心のケアを進めながら人材育成にどう取り組むかが重要事項となっている。
実態調査では、各社が展開する独自の取り組みも聴取した。ある社は「在宅勤務手当の制度」を創設したり、プロジェクトの進捗(しんちょく)状況を可視化する管理ツールを導入したりして好事例の水平展開に努めている。ロボティクス・プロセス・オートメーション(RPA)を活用し、煩雑な作業を省力化するなどのバックアップ体制も敷いている。
多様な働き方へと転換する契機にもなった新型コロナ。建設コンサルにとって欠かせない存在である発注者に理解を求める意見は多い。特に基礎自治体の場合、オンライン会議やテレワークへの環境整備は道半ばの状況。コロナ収束後も、ウェブ会議による受発注者協議の継続を求める声は根強い。
建コン協は実態調査の結果や意見をホームページなどに掲載。会員の意識啓発や発注機関への理解促進に活用していく考えだ。
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