建築物や街をともす明かりは人に行動を促す |
◇人の心に明かりをともしたい◇
高校生のころ気になる大学で体験授業の機会があり、住宅設計に興味があった佐藤あやめさん(仮名)は建築学科の講義を受けた。その中で照明による建築の見え方や、光環境が与える心理的効果も建築学で学べることを知った。大学入学時は住宅設計者を目指していたが、在学中に光への興味がどんどん高まり環境設備の研究室に所属。体験授業で出会った先生の下で学んだ。
手元を照らすランプシェードのデザインや、自然環境をより体感できる照明計画など建築学のアプローチで「光」を研究。「光は見ず知らずの人でもさまざまな影響を与える。その面白さを学んだ」と振り返る。自分が考えた光の計画で人の行動や心理に影響を与えられるような仕事がしたいと、照明デザインの世界に飛び込んだ。
“照明デザイナー”は華やかな職業の一つ。そんなイメージは、照明デザイン事務所で働き始めてすぐに覆った。その仕事は調査、測定、計算、実験、検証、調整など地道な作業の積み重ね。真冬の夜に吹きさらしの川の土手で何時間も光を設定したり、7層吹き抜けの上部を渡るキャットウオークで照明器具を調整したりと結構過酷な職場だった。
建築照明のデザインは、建築、インテリア、ランドスケープなどの設計者から依頼を受け、屋内外の照明計画を行う。どこにどのような光を配置するか、そのためにどんな器具をどう配置するか。自然光も含めた光環境全体を計画する。必要に応じて照明器具を設計することも。「設計者、クライアント、管理者、ユーザー、周辺住民など多角的な視点から、できるだけ多くの人に喜んでもらえるよう考える」。
設計だけでなく現場監理にも関わるのが基本。計画した光を確実に実現するため、施工者との打ち合わせや現場での確認を通して光を調整する。「間接照明などは照明器具の設置位置が数ミリ異なるだけで光は大きく変わってしまう」。ミリ単位の仕事を一つ一つ手掛けていき、技術や知識に裏打ちされた確かな表現力を身に付け、40歳を節目に独立を決心した。
設計者からは時々、予算や時間に余裕がないことを理由に「なかなか照明デザインを依頼できない」と言われる。照明の検討が後回しになることも少なくない。光によって建築や空間の見え方は全く異なるものとなり、印象だけでなく快適性や健康にも影響を及ぼす。光を重視して設計の初期段階から照明を検討できれば、「より良い空間を生み出すことができる」と確信している。
携わった物件の夕景や夜景の写真が紹介されると、誰かがその光を好きになってくれたのだと感じることができる。照明デザイナーの道をまた歩いていこうと思える瞬間だ。「ここが好き」「心地よい」「元気になる」「また来たい」--。そんなふうに光で誰かの気持ちを動かしたい。「私がともしたものは、人の心にともる明かりなんです」。
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