2021年11月22日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・302

今も世界のどこかで水に困っている人がいる

 ◇水の力で世界を笑顔に◇ 

 「自分の知識を生かして環境問題を解決したい」。世界規模で対応が急務となっているSDGs(持続可能な開発目標)は、企業を成長させるチャンスといえよう。膨大な社会インフラを整備してきたゼネコンや建設関連会社も例外ではない。大手建設コンサルタントの研究職に従事する七瀬五月さん(仮名)は、世界が抱えるさまざまな水問題の解決を目指し、孤軍奮闘している。満足に飲み水が供給されないアジアやアフリカの人々を笑顔にする取り組みに心血を注いでいる。

 自然界で起こるあらゆる現象に興味を持っていた子どもだった。「火は一体何でできているのだろうか」。純真無垢(むく)な疑問を投げ掛けては、よく家族を困らせていたものだ。大学で物理を学び、その後は大学院に進学。昔から関心のあった気候変動をテーマに選び、研究に没頭した。「自然環境を扱う企業に就職したい」。自然と建設コンサルを就職先に選んだ。

 大学院を修了した2005年、温室効果ガスの排出削減などの目標値を定めた京都議定書が発効された。地球温暖化に対して真剣に向き合うムードが各国で広がり始めていた中、配属先は防災に関連したシステム開発を担う部署だった。降雨量を基に、ダムや河川に流入する水量を解析する業務に従事。新人時代に研修を担当した上司は大変気さくな人柄で、「入社して良かった」と心から思った。

 4年を経て、技術開発の中枢を担う技術研究所への配属が決まった。研究所員は砂防や土質などを扱う専門家ばかり。自分の力がどれだけ役に立つのかという不安もあった。「社会に貢献したい」一心で必死に食らいついた。

 研究チームに入り、任されたのが水環境を扱った水文解析。気候変動や都市化の影響で、アジアやアフリカ地域は深刻な水資源不足に陥っている。労働賃金の安さなどを理由に東南アジア諸国連合(ASEAN)地域に工場を構える飲料メーカーも多い。国内外の企業にとって、水資源の不足は死活問題だ。水量を安定供給するにはダムの適正配置が鍵を握り、その計画に欠かせないデータ解析という自分の仕事に誇りを持っている。

 入社して10年以上がたった。グローバル企業を目指す自社の経営理念を具現化するため、常に自己研さんを怠らない。仕事をしながら、2人の子どもを育てるのは一筋縄には行かず、ふいに心が折れそうになる。そんな時は、研究所長から掛けられた「所内で一番期待している」という言葉が心の支えになっている。

 国民に行き渡るだけの水資源を抱えている国は少ない。ある統計調査の試算によると、地球上で人間が使用できる水の量はわずか0・01%という。自分の研究成果によって、どう世界が変わるかは分からない。「会社の期待に応え、地球規模で物事を解決したい」。その気持ちをずっと胸に秘めている。

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